11話 思考する葦
「………………ご質問にお答えできなかったのをお怒りなのでしょうか?」
「……何でだよ」
あの会話からどれほど歩いたのかは、もう体感でもわからなくなっていた。時間も景色も、まさに無限のように過ぎ、続いていく。
何処までも続く同じ景色に飽きも楽しさも過ぎて、もはや虚無になってきた頃合いで全身執事がそう口を開いた。
「自分は“異端者”です。主人ではなくとも、対応した方に満足のいくよう応対できなかったことは申し訳なく思います」
「………………」
俺の返答を求めず、男は言葉を続ける。
「自分は印つきで、その印を与えてくださった主人により、ここでお出迎えした新しい住人の疑問に答え、サポートすることが与えられた役目であるのに。まさか主人の範疇外の質問をされることはこれまでの経験にもなく、想像もしていませんでした」
「………………」
「もし自分が雄翔様個人の印つきか、あるいはこの土地に住まう“異端者”であれば、雄翔様のお望みになる“形”でお答えできていたはずです。自分は今、それが不甲斐なく感じています」
わかりづらいが、微妙にその真顔が歪んでいるように見える。
本当にそう感じているのだろうか。
「……別に、考え事をしていただけだ。アンタに怒ってない」
今はもう俺が合図をしないと、コイツは俺の心が読めない。
(というよりは読まないようにしているのだが)
だからこそ、俺が何を考えているのかがわからないから、不安を感じるのかもしれない。聞けばそれは初めての指示だったらしい。そう感じるのも当然なのだろう。俺にはわからないが。
「…………雄翔様は、不思議な方です」
「は?」
突然の断定の言葉に俺はつい聞き返す。
初対面でそれは随分失礼ではないか? つかお前の執事キャラ設定はどうなってんだよ。
「雄翔様は自分が説明したことをすぐに飲み込んでしまわれます。もっと自分を責め立てても、なんらおかしくはありません」
実際、他の奴らはそうしたんだろう。俺と同じようにここのことを何も知らない奴らは「どういうことだ」「もっと詳しく説明しろ」「わかりやすく教えてくれ」と。
「……俺だって、気になることはある」
でも、それを自分で考えず他人に求めるのも、その他人に問いただすのも面倒なだけ。
元々、人と関わるのはそんなに好きではないし、得意でもない。一度説明されたのなら後から自分なりに咀嚼すればいい。人より少しだけ記憶力のいい俺は、昔からそうやって過ごしてきた。
『人は考える葦だ』と、かつて誰かが言っていた。
「……俺は、一人で考えるのが好きなんだ」
最低限の情報で、自分なりに思考を凝らす。それでいいんだ。
チカッ
ふと、空が緑に光った気がした。
とりあえず書けたところまでの投稿をします。
不定期投稿をお許しください。
お付き合いくださりありがとうございます。
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