10話 時間の概念
「この草原地帯は展開された住人の死後、残った『庭』です」
…………!?
さらりと何でもないように説明する男の顔を、俺は急いで振り返る。
自身が見つめられていることがわかっているはずなのに、この全身執事は何でもないような顔をする。
「ここは『天国』何だろ? 何で死ぬんだよ?」
『天国』は死後の世界。
だから死ぬことはないし、たとえここが新世界だからと言って時間の調整が叶うのなら死ぬことなどないはずだ。
実際、不死を望む人間や永久的時間を過ごすことを可能としている、とはこの男が言ったことだ。
(そんな世界で、どうやって死が訪れるんだ?)
そんな俺の疑問に全身執事は何でもないことのように答えた。
「住人がそう望まれたからです」
「は?」
「時折いらっしゃいますよ、限りがあることを望む方が。実際半世紀分だけをここで過ごしたい方や、やることがなくなったからと死を望む方がいらっしゃいます」
「………………」
『死を望む』
確かにあり得なくはない発想だが……。
何でも叶う理想郷。そこでは死ぬことさえ可能なのか?
『天国』は死後の世界。ここで違和感や疑問を感じるのは、俺にその意識が強すぎるせいなのか?
「………………なぁ、もしここで死んだら、どうなるんだ」
ふと湧いた俺の問いに、全身執事は少し思案して、やがて口を開いた。
「……自分にはわかりません。主人が興味のない範疇なのでしょう」
「……主人が?」
「はい、自分がこれまでお話ししてきたのは全て主人の知識、あるいは主人が興味関心を持っていた事柄だけです。印つきは主人の意向によって姿形を変えます。それは目に見えるものだけではなく精神、知識量もその全て主人の意向のままです。逆に、印のない者はその土地、自身の付属先の知識を保有し、それに見合った姿形を保ちます。その土地への訪問者、住人に対応するときはその対応相手の意思のままに変化します。その部分につきましては印に関係なくどちらも“異端者”としての役割を果たすだけです」
「………………」
「もし主人が自分に『万能であれ』と命じたのであればそれに準じた、主人にとっての万能な“異端者”となります。主人の望む『万能』を上回ることも下回ることもございません」
淡々と、草を踏みしめながら話す男の言葉には何の感情も込められてはいない。
ただ“異端者”の性質を説明するだけ。
コイツの話を聞いて俺はもう、コイツの顔さえ見ることができず、それからはただ歩む足を止めず、ひたすら歩いくことになった。
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(サブタイトルが思いつかない……)