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自由の身

コツコツとヒールで床を叩きながら廊下を足早に歩いた。

「やっと、やっと自由の身だ〜〜!!!!」

 玄関の数段程しか無い階段をジャンプで一気に飛び降りる。

 もうこんなことをしても咎めてくる奴はいない。まさに文字通りの、「自由の身」なのだ。

 ウェスト伯爵家に戻ったらすぐに荷物を纏めよう。明日には伯爵邸を出て、私の故郷の村へと帰ってしまおう。あ、でも魔法騎士団の皆様には一応挨拶した方がいいのだろうか?今まであれだけお世話になったのに、挨拶もなしに勝手にいなくなるなんて、薄情者過ぎるもんな。

 万が一、国王派閥の貴族に会って色々言われてしまったら面倒だからバレないように慎重に素早く行ってしまおう。


「ノ、ノエル!!待ってくれ!」

 馬車に乗ろうとしていた時だった。慌てて駆け付けて来たのか、それとも余程焦っているのか、彼は肩で息をしながら私の名前を呼んだ。

「ウェスト伯爵様…」

 10年間私の養父として面倒を見てくれたウェスト伯爵は優しい方だった。私は勉強に追われていたから実家族以上に交流があったとかでは無いが、急に家にやって来た私にしっかり衣食住と学べる環境を整えてくれた。たまに食事の際に日頃の頑張りを褒めてくださることもあった。あのハードなスケジュール以外はとても良い環境が揃えられていたと思う。

「すまなかった…まさか私の知らないうちにあんな事になっていたとは……」

「……!」

 てっきり、せっかくこんな芋臭い女を引き取ってやって勉強までさせてやったのにと私を責めてくるのかと思っていた。本当に、ウェスト伯爵は優しい方なのだろう。

「いえ、ウェスト伯爵様は何も悪くありませんわ。私が、アドニス王子ともっと良好な関係を築けるよう努力するべきだっただけなので。」

 まあ、私の努力で本当にこの追放が回避出来たのかは分からないけど。

「……これから、どうするのか?」

「荷物をまとめ次第、ウェスト伯爵家の方はすぐに発とうと思っております。」

「その後は、何か宛があるのかい?」


(うーん、これ、多分言わない方が良いよなぁ…)

ウェスト伯爵は国王寄りの考えをお持ちの方だ。行先を言ってしまえば、それが国王に伝わり、居場所が見つかって連れ戻されてしまうかもしれない。

「えぇ、いくつか働き先の候補を見つけておりますのでご心配なさらず」

「そうか……数日間の衣服と馬はこちらで手配しておくよ。馬は乗れるだろう?」

「……!!え、えぇ。ありがとうございます」

 驚いたな。てっきり馬車を手配して行先を把握しようとするのかと思っていた。ウェスト伯爵も今回のことについてなにか思うことがあったのだろうか…?


「では、今日はもう帰らせて頂きます。ウェスト伯爵様、色々とありがとうございました。」

 深々と頭を下げてから改めて馬車に乗り込んだ。

「あぁ、また明日この後分かったことを色々と伝えるよ。」

 ウェスト伯爵はそう言って、何だか複雑そうな顔で私を見送っていた。


 今晩荷物をまとめ、明日の朝伯爵家を発ち、魔法騎士団に挨拶をする……で、その後故郷へと帰るわけなんだけど…

「実家は分かりやすいかなぁ…」

 国王がもし私を探し出そうとしたとして、真っ先に調べられるのは私が昔住んでいたあの村だ。国王が本当に私を必要とするのかはまだ分からないが、もし探されるとすれば村に居るのは1番見つかりやすい。まるで逃亡者じゃないか…どうして私が追われ身とならなければならないんだろう??悪いことなんて全くしてないのに。

「てか大体、虐められてたって言うけどさぁ…!」

 そう言いかけたところで私は大きく息を吐いた。そんなこと言っても無駄だ。言うだけで、考えるだけで億劫になる。もう、忘れてしまおう。こんな最悪な10年間のことなんて、思い出すだけ無駄でしかない。


 窓の外では私を嘲笑うかのように満月が光っていた。馬車はあの明るく華やかで、だけど残酷な場所から、私を遠ざけて行くのだった。

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