婚約破棄
初投稿作品となります。
ゆっくりマイペースに書けていけたらなと思っております。
何卒、よろしくお願い致します。
この国1のオーケストラが奏でる音色に合わせて綺麗なドレスを着飾った女と豪華な飾りを下げた男が踊っている。煌びやかな装飾やシャンデリアが光を反射していてとても眩しかった。
「ノエル・ウェスト!貴様を聖女の名を騙った罪、そしてナディヤへの悪質な嫌がらせをした罪として処罰する!!よって、俺との婚約破棄、そして家名取り上げを命じる!!そしてさらに、ここにいるナディヤを真の聖女とし、俺の新たな婚約者とする!」
今日は必ず王宮の舞踏会に出席するようにと、いつもなら声すらかけてくれない王子から言い付けられたので来てみれば……何だ、そういうことだったか。
観衆は、何事かと焦る者と私のことを嘲笑う者に別れていた。
全くもって、面倒臭い。
「はぁ……その根拠は何でしょうか?」
「ここに、本物の聖女であるナディヤがいるからだ!」
王子の傍らには顔の整った可愛らしい令嬢がドヤ顔をしていた。立派にも王子の腕に抱きついて、口角を上げている。
「お前のような可愛げの欠片も無い奴が聖女なわけ無かったんだ!!よくも今まで俺を騙してくれたな?!」
「やはりあんなソバカス女が聖女な訳なんて無かったんですわ」
「魔獣討伐も、きっと全て魔法騎士団の皆様に投げつけていたのでしょうね」
周りの高位令嬢達がクスクスと笑っている。
まぁ、そう言われるのも仕方がないのかもしれない。細くて目つきの悪い目、色白とは言えぬ肌色、そして鼻上にあるソバカス。とても麗しの聖女様とは呼べない見た目をしていた。
可愛くなくて悪かったな。そう言い返したい気持ちをぐっと堪え、王子の方を真っ直ぐ見つめる。
「では、そちらのお方への悪質な嫌がらせというのは?」
「今初めて聞いたような顔をするな!!ナディヤは貴様から教科書を池に捨てられたり、わざとぶつかられ転けたりしたんだぞ!!」
全っ然、そんなことをした覚えは無いし、何なら話したこともないのだけど。
「えーと、そちらの方の家名の方は何と言うのでしょうか?」
「彼女はナディヤ・キャンベルという名だ。何だ??名前も知らずに虐めていたというのか??!」
「いいえ、今彼女の名前を聞いて分かりましたが、彼女のことは全く知らないし、会ったこともありません。」
「は???シラをきるつもりなのか??あくどいヤツめ、やっと本性を出したか!!」
は??何言っても通じないじゃないかコイツ。虐めてなければ顔を合わせたことすらないと言っているだろう。どういう思考回路してるんだよ。
この人に何言ってもダメな気がしてきた。
「わかりました。婚約破棄、そして家名取上げを認証致します。私、ノエルは荷物をまとめ次第ウェスト伯爵家から出ていくことをお約束致します。」
幼い頃に聖女の才能を見出され、時期国王であるアドニス第1王子の婚約者とされてからおよそ10年間。私はアドニス王子と過ごしていて幸せだと感じたことは殆ど無いに等しかった。ならば私はこうするしかない。貴族になれば幸せになれるなんて思っていた頃がバカバカしく思えてくる。こんな提案、受け入れる他ないだろう。
「フン、そうやって潔く認めれば良いのだ!いいか?もう二度と!俺と愛しのナディヤにその顔を見せるな!!」
「分かりました。ですが最後に2つほど、お願いをしても宜しいですか?」
「まあ最後だし、少しの願いなら聞いてやろう。」
婚約破棄が出来て余程嬉しいのか、王子は俺は優しいからな!と簡単に話を聞いてくれた。
「ありがとうございますアドニス王子様。ではまず1つ目を。私のことを養子に引き取ってくださったウェスト伯爵家の方々には、私が偽聖女だということによる影響が掛からないよう手配するということをお約束ください。」
「いいだろう。お前は聖女を騙った悪女でも、ウェスト伯爵殿は悪人では無いからな。」
「はい、では2つ目です。私は家名取上げ、つまり貴族社会からの追放ということですので、アドニス王子様やそちらのご令嬢だけでなく、貴族の皆様、さらには王家の方々も私には関わらないと約束してください。」
私がそう言った途端、立派な椅子に座り、我が子のことを焦りを含む目で見詰めていた国王の顔色がさらに青くなった。息子に向けてやめてくれ、と視線で訴えている。しかし、そんな視線が彼に届く訳もなく……
「ああ!いいだろう。そんなこと、言われなくても初めからそのつもりだ!」
国王はさらにさらに顔色を悪化させ、頭を抱えてしまった。彼は私が本物の聖女であることを、そして私が今まで上げてきた魔獣討伐での功績の数々を知っていた。だから自分のためにも、国のためにも私のことを手放したくなかったのだろう。
私は、次期王妃という立場から解放された後も尚国に飼われ続けるなんてゴメンだった。魔獣討伐も魔法騎士団の皆様も嫌いでは無かったが、国の犬であり続けることの方がずっと嫌だった。
「こちらの要求を全て呑んでくださりありがとうございます。では、私は準備をしてまいりますので、今日はお暇させていただきます。」
ペコリと礼をし、会場を後にする。背後では勝ち誇った顔の王子と令嬢がイチャイチャしていた。もう見たくもない。
ああ、これてやっと……!!
こんなクソみたいな生活とおさらば出来るのね!!!
私はスキップしてしまいたい気持ちをグッと堪え、小走りで自分の部屋へと急いだ。