007
カーテンから日差しがこぼれ、うっすらと頬に当たる。
気だるさはいつも通りか。今は一体何時だろう。って、夜勤なのに、朝日で目が覚めるってマズイでしょう。もしかして、やっちゃったの?
飛び起きようとした私の体を、何かが阻む。
なんで上手く起き上がることが出来ないの。固い何かに、しっかりとブロックされているというか。掴まれているというか。
私はわけがわからないまま、意識を浮上させて辺りを見渡す。すると目の前の視界いっぱいに、ルドの顔が広がった。
「やぁ、おはようアーシエ」
「お、お、お、おはようございます? ルド様……」
この状況はなに? え、私今どうなってるの、これ。
「うん、よく寝ていたね、アーシエ。ずいぶんと疲れていたみたいだ」
「そ、そうですね。すみません。昨日は食事を取りに行っていただいたのに、私は寝てしまったのですね」
「そうだね。あのまま傍にいたら、君が眠りに落ちる瞬間も見れたのに残念だったよ。確かに君の言う通り、侍女は必要だね。君をずっと見ているためには」
「侍女、そうですね。侍女は必要です。って、それはそうなのですが、あの、これはどういう状況なのでしょうか?」
いや、確認しなくても分かるんだよ。
分かるんだけど、頭の中を整理するためにもこれは確認させて。なにがどうなったら、ルドの同じベッドで寝ているのかなぁ。しかもしっかり抱きしめられているし。
そう。ブロックされているように思えたのは、ルドのしっかりと腕だった。
王太子のわりにと言っては失礼かもしれないが、やや日に焼けたその腕はしっかりとしている。
太いというわけではなく、そう筋肉がちょうどいい感じに付いている感じ。剣とかも使ったりするのかなぁ。
ん-。普通の乙女ゲームだと戦闘シーンとかないんだけど、コレがどんなモノか分からないから、一概に戦闘シーンがないとは言えないのよね。
戦闘シーンがあっても私はアーシエじゃないから何も出来ないんだけど。
あ、でももしかして魔法とか使えたらうれしいな。って、今はそんな場合じゃない。
「どういうって? 添い寝かな」
「かな、じゃなくて……。こ、こんなことダメです」
「どうしてだい?」
「だって、まだ私たちは」
「婚約なら心配しなくていいよ。僕は君以外とするつもりはないし」
「そうだとしても、私たちはまだ婚前なのですよ」
「相変わらず、アーシエは固いなぁ」
「固いとか、固くないとかそういう問題じゃありません」
「じゃあ、どういう問題なんだい?」
「それは体裁というものもありますし、こんなことでルド様のお立場や何かあったら大変ですし」
「それだけなのかい?」
確かに、これだけでは好きとは伝わらないわよねー。
形式的っていうか、あくまで令嬢としての意見でしかないし。ルドは満足しないわよね。
「それに、です。ルド様の胸の中で眠るなんて、ドキドキして心臓が持ちませんし、気になって熟睡できませんから」
「あはははは。それはまた可愛いな、アーシエ」
「もう、からかわないで下さい」
「いや、からかってなどいないよ。あまりに素直な反応だったので、可愛かったんだ」
普通に笑うルドの方がよほどかっこいいのになぁ。
スチールとかじゃなくって、生身の殿下とか、破壊力ありすぎでしょう。しかも初めてちゃんと普通に笑ってくれた気がするから余計ね。
まったくアーシエさんはルドが病んでしまうほど、何をしてくれたのかしら。ある意味、私にとっても本当に迷惑だわ。
まぁ、事情があったのだとは思うけど。
「んんん?」
「どうしたんだい、急に変な声を出して」
「わ、私ってドレス着ていませんでしたっけ?」
確かに意識を手放す前は私、ドレスを着ていた。
薄汚れていたし、ベッドを汚さないためにも着替えなきゃって思ったけど、あまりに疲れて寝てしまったのよね。
でも今はその時着ていたドレスではなく、ネグリジェのようなワンピースになっている。
しかもこの部屋には侍女はいなかった。ってことは、つまり、つまりそういうことよね!
「ルド様が着替えさせたのですか!」
「あのまま寝かせるわけにもいかなかったからねぇ。寝苦しそうで可哀想だったし」
「えーーーーーー」
「大丈夫だよ、ちゃんと全部は見てないから」
「ちゃんと全部は、って。でも全部じゃなければ見たってことですよね?」
「それはほらねぇ、今後の楽しみにとっておかないと」
「んんんんん」
私は自分でも見なくても分かるくらいに赤くなった顔を、両手で覆い隠した。
あああああ、ルドに見られた。だからちゃんと着替えなきゃって思っていたのに。
ううううう、もうお嫁に行けない。本当に行けないよーーーー。