エピローグ ~溺愛ルートは鳥籠の中~
「姉上、やっと王妃なったというのに、帰ってきても大丈夫なんですか?」
レオはそんなコトを言いながらも、とてもにこやかな笑顔を浮かべている。
前国王の戴冠式、ルドの即位式、そして私たちの結婚式。
先月には新婚旅行という名の、外遊にも出かけてきた。
目まぐるしく変わる環境の中でもルドは相変わらず、私の元へ帰ってきてくれている。
「いーんじゃないかなー。だってお忍びの里帰りだしー」
「まったく新婚早々、何をしてるのやら。で、今回は何が原因なのですか? 喧嘩でもしたんでしょう」
「ん-。喧嘩って言うかさぁ、陛下が記憶のことを持ち出すから……」
一連の行事が始まる前に、家族にはキチンと自分のアーシエとしての記憶がないことは告げていた。
さすがに、過去の記憶がないことまでは伝えられなかったが。
それでもなにか察することがあるかのように、みんなは私を受け入れてくれたのだ。
今のありのままの私を。
「記憶って言っても、アーシエがアーシエでないことに対して、陛下がなにか言ったわけではないのでしょう?」
「うん……それはそうだけど……。記憶を取り戻したいっていうから」
「それはある意味、義理兄上が姉上のことを思っての提案だったんじゃないんですか?」
「分かっるよ。きっとそうだって……。でもさぁ……」
分かってはいても、そんな些細な言葉で傷つく自分がいる。
それはきっと、ルドが本当に好きだから。
ルドの口から記憶のことを言われると、なんだか記憶がないことがダメなコトのように思えてしまったのだ。
頭では、他意などないことは分かっているのに。
おそらくルドにではなく他の人に言われていたら、なんとも思わなかったのだろうな。
「陛下に……ルド様には言われたくなかったの……」
「まぁ気持ちは分かりますよ。今の自分を否定されたような気がしたんですよね?」
「そうなの、そうなのよレオ。レオなら分かるでしょう」
「分かりますが、そういうのはココで愚痴を言っても始まらないのですよ姉上。言いたいことはちゃんと本人に言わないと」
「……ぅん、わかってるぅ」
「分かってないですよ。もう家族なんだから、そういう会話はきちんとしないと」
「うー。レオが優しくなぁい」
「あんまり姉上を溺愛すると、あとが怖いですからね~」
「えー、なにそれぇ」
レオは立ち上がった後、テーブルに突っ伏す私の頭を撫でた。
「ほらほら、噂をすればなんとかですよ。あとは自分で頑張って下さい姉上」
そう言って、レオは屋敷へと戻ってゆく。
「アーシエすまない! 君がこんなに怒るなんて思わなかったんだ」
「陛下、公務を抜け出してどうするんです」
「僕はただ、君に記憶が戻った方が君がこれからも安心して暮らせるのではないかと思っただけで……」
「知りません」
「アーシエ」
「だって……。記憶がない不完全な私のことが嫌になってしまったのかと……悲しくなってしまったんですもの」
これは本音だ。
あれから日記を読んでも母たちから幼い頃の話を聞いても、思い出の場所に行っても、微かになにかは記憶しているものの、すべてが戻ることはなかった。
それがいつまでも不完全のような気がして、ことあるごとに私を苛める。
私はは私。そう受け入れているはずなのに、ほんの少しのことで揺らいでしまうのだ。
「愛している、君を。たとえ君が誰であっても、なんであっても。この世界でただ一人の、そのままの君を愛しているんだ」
ルドは跪き、私に手を差し伸べる。
「な、な、な。陛下、いけません。国王たるもの、そのような」
ルドの行動に驚いた私は、勢いよく立ち上がった。
「国王であっても何であっても、愛する人のためなら、どんなコトだって僕はいとわないよ。だから機嫌を直しておくれ」
この笑顔に、この行動。もうホントに、反則だわ。こんなコトを言われたら、もうなにも言えなくなってしまう。
「帰ってきてくれるかい? 鳥籠に」
「もぅ」
ぶぅっと頬を膨らませたあと、それでも私はルドの手を取った。
「あなたのいるとことならば、鳥籠でもなんでも入りましょう。だって、あなたが私を愛してくれるなら」
断罪ルートと勘違いしたあの日から、私の心はもうずっととらわれている。
でも幸せだから、そんなことはどうでもいいのだ。
鳥籠は私を守るためのモノだって、もう知っているから。
私はルドの手を取ると、二人で歩き出した。
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