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「ただここで誤算が生じた」


「そうね……アーシエの中には私がいたから」


「そうです。アーシエの人格を記憶と共に消すことに成功したもものの、姉上の中には美奈さんという人格があったからこそ、そこまでは消すことが出来なかった」


「むしろ最悪な結果だったんじゃないかな、ユイナ令嬢たちにとっては」



 記憶がなくなってしまったことで、アーシエとしてや貴族令嬢としての遠慮とかそういうのもなくなってしまったわけだし。


 私は私として好き勝手に反撃させてもらったからね。



「確かにアーシエ姉さまを敵に回すよりも大変だったんじゃないですかねぇ」


「本末転倒ってとこね」


「まぁ、姉上の中までは向こうも知らなかったので、自業自得点ん…ご愁傷様というやつですね」



 私たちは顔を見合わせ、ふふふと声を出して笑った。


 計画通りにいかないどころか、私が強敵になって帰ってきたものだから、さぞかし腹が立ったことでしょうね。


 こういうのをきっと、ざまぁって言うのね。


 でもこれぐらいでは済ませないわ。だって、たまたま私の中に美奈と言う過去があったから良かったものの、本来はきっと死ぬよりもひどいことになっていたはずだもの。


 これくらいの仕返しで許されるわけないじゃない。



「まったく、やることなすこと最低な人間たちね」


「それほどまでに必死だったということですよ。どうしても次期王妃になりたかったようですからね」


「ユイナ令嬢はそこまでしても、ルド様のコトが好きだったのね」



 恋敵を殺してもいいぐらいにって、ある意味彼女もヤンデレ属性だったってことかしらねぇ。


 

「そこまでは僕も詳しくないので、なんともですけどね」


「そっか……」



 でもこれで1個だけハッキリしたことがある。


 私は初めから、アーシエとしてココに生まれてきたのね。


 そしてアーシエとして出会い、アーシエとしてルドに求婚をされた。


 でもなぜだろう。この胸のモヤモヤが晴れていかないのは。


 ルドは私を愛してるってずっと言ってくれていたのに。なのに……。



「なんでだろう。私がアーシエだって事実は、きっと嬉しいコトのはずなのに」


「姉上は複雑なのですか?」


「複雑なのかな。わかんない。わかんないのよ。自分の気持ちも何もかも」



 私がアーシエだったとしても、アーシエだった私はあの毒で消えてしまった。


 たぶんだけど、もうアーシエは戻らない気がする。


 それでも私は私として、ココで生きていくしかない。


 もう一度、アーシエとして……。



「今ならね、レオの気持ちが痛いほど分かるよ。私はアーシエであって、アーシエではない」


「怖いですか?」


「んー。ううん。何だろう。怖くはないけど、途方もなくてどうしようかなって感じ」


「姉上は姉上のままでいいと思いますよ」



 私は私のままで、か。


 大人しく慎ましやかな、貴族令嬢としてのアーシエではなくてもルドはきっと愛してくれる気はする。


 でも甘えたままの関係性では、きっとこの先は苦しくなると思う。


 それならもう、やることは1つだけ。



「帰ったらルド様に言うわ」


「記憶がないというコトをですか?」


「それよりも……記憶がなくなって、私はアーシエではないことを、かな」



 本当は怖い。言わなくていいのならば、このままずっと言いたくはない。


 だけど言わなければきっと、この胸のモヤモヤは消えないと思う。


 ルドを思うのならば、ルドに愛されたいのならば、きっと進まないとダメだわ。


 どこまでも頭が痛くなる話であり、どこから説明すればいいのかもわからない。


 もしかしたらその過程で、ルドは私のコトを変に思うかもしれない。


 ううん。それ以上に、もう愛してもらえないかもしれない。


 でもこのままの関係を進めていくには、私が苦しいもの。


 ルドが名前を呼ぶたびに、愛してると言ってくれるたびに、どんどん苦しくなっていく。


 それならば、愛想をつかされてしまったとしても今よりはきっと苦しくないと思うから。



「いいんですか?」


「うん。今より悪くなることはないはずよ。例え、婚約がなくなってしまったとしても」


「それは!」


「だって私はルド様を愛してるから。ムシのいい話だとは分かっていても、ルド様にも私を私として愛して欲しいの」


「……」


「そんなに暗い顔しないで、レオ。ダメならで出戻りしてくるだけよ。そしたら、次の嫁ぎ先探してね」



 私がいたずらっぽく笑うと、レオはやや諦めたように微笑み返した。



「その時は殿下にすら、ざまぁする方法を探しますよ」


「ちょっと、それ不敬罪っ」


「姉上風に言ってみただけですよ」


「まったくもぅ。ふふふ。でも、そうね。そーしましょう」



 ココで吐き出せたことで、ほんの少しだけ落ち着けた自分がいる。


 怖くてももう私には、進むしかないのだから。


 レオにまた来るとだけ伝えると、サラを連れて私はルドの元へと戻る馬車へ乗り込んだ。


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