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「な、なんなんですの?」
「だってほら、お席がないなら増やさないとダメじゃないですか~」
「だからと言って、これはわたくしのお茶会なのですよ! 非常識ではないですか」
「えー。知ってますよ? さすがにアーシエでもそれくらい分かりますわ。非常識って言われても、ユイナ令嬢のお茶会の規模を大きくしてあげただけですもん。親切心ですわ」
それでも十分すぎるほど、失礼なのはもちろん知ってますよ?
でもね、失礼には更なる失礼を~だよ、ユイナ令嬢。私はやられてらちゃんと倍返しするような性格なの、ごめんねー。
同じテーブルに同じお茶セット、全て同じものというトコがミソなのよ。
ちゃんとリサーチしたんだもの。
表向きは本当に規模の拡大だからね。これではなんにも言えないでしょう?
「そーだ。皆さまにお土産も持ってきたのですよ。ささ、そーんな顔せずに皆さん座って下さいな」
私とユイナ令嬢の顔色を窺うように、令嬢たちは交互に見合わせていた。
どちらについた方が得なのか。
みんなそんなことを考えているのだろう。
「ああ、大丈夫ですよ。ちゃぁんと皆様の分はありますから、どちらに座っても#私__・__#は何とも思わないですからね」
ユイナ令嬢と違って、私はそんなに心は狭くないもの。
だからちゃんと自分たちで選んでね。
どっちの味方になるのか。
申し訳ないけど、こっちにだって選ぶ権利はあるんだから。
「なんなのよ、本当に!」
「そんなに怒ったお顔なさらずに楽しいお茶会、始めましょう?」
対照的な私たちの顔色を伺いながらも、令嬢たちは恐る恐る席に着いた。
私の席が、私を入れて五名で、ユイナ令嬢の席が全部で六名かぁ。
自分が勝ったとばかりにドヤ顔をしているユイナ嬢を私は華麗にスルーする。
別に数なんて興味ないのよね。
誰が座ってくれるのかが大事なだけで。数なんて興味はないの。まったく子どもね、ユイナ令嬢は。
まぁ、ある意味分かりやすいから扱いやすいけどね。これで本当に黒幕なのかしらって思うわ。
アーシエにはこんな子どもからの嫌がらせでも苦労していたのかな。なんか思ったより簡単にやっつけられそうなものだけど……。
やっぱりレオの件があったからかな。
「ああ、お土産、お土産。持ってきてちょうだい」
私は侍女たちに合図をして、レオからの包みを全ての令嬢たちに手渡した。
そしてその反応を見つつ、自分の席の令嬢たちをサラに目もメモするように小さく言づけた。
なにせ、令嬢たちの名前すら思い出せないから。私ではどうにもならないのよね。
「あの、これは……」
私の席に座った一人の令嬢が、嬉しさを隠しながらも声を上げた。
こっちの席のコたちは、表情もいいし、スパイっぽいコはいなさそうね。
「弟が今日のお茶会に参加する令嬢たちにって用意してくれたのですわ」
「まぁ、アーシエ令嬢の弟君が」
「ここってすごく有名なお店ですわよね」
「ええ。確か予約しても中々買えないから大変だって」
「……うれしい」
令嬢たちからは口々に高評価が飛ぶ。
レオが選んでくれたお菓子は大正解みたいね。
賄賂って分かってても、純粋に喜んでくれる辺りはやっぱりうれしい。
アーシエはこういう駆け引きもせず、ただじっとユイナ嬢からの攻撃に耐えて来たみたいだし。
今から全部挽回して楽しい人生やり直ししないとね。
「ああ、もちろんユイナ嬢にもありますよ?」
侍女に合図をして、一番大きな包装のプレゼントをユイナ嬢に差し出してもらう。
しかし怖い顔をこちらに向けたまま、受け取ろうとはしない。
お菓子に罪はないんだけど、プライドが高いから受け取りはしないと初めから予想はしてたのよね。
「本当にあなた何なのですの? 人のお茶会に来てこんな風に邪魔をするだなんて」
「邪魔? 何に対する邪魔なんですの?」
私をいじめるための、だなんて言えないわよねユイナ令嬢。
でもね、ココにいるみんながきっと分かっているわよ。
このお茶会の目的も意味も。
ただ誰もあなたが怖いから言及もせずに大人しく従っていただけで。
「いい加減に!」
「まぁまぁ、楽しそうなお茶会をなさっているのね」
ユイナ嬢が大きな声を上げ、立ち上がると同時にその声は少し遠くから聞こえてくる。
私はたちはその涼やかな声に、やや顔をこわばらせながら一斉に立ち上がった。