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 ドレスを頼んだ日からお茶会まではあっと言う間だった。


 それなのに子爵夫人からはお茶会用のドレスが二着と、夜会用のドレスが一着届いた。



「すごーい、三着も届いてるし」


「子爵夫人様よりのご伝言で、夜会用のドレスはまだ仮縫いだそうで、デザイン等がお嬢様のお気に召したようでしたらこのまま作成を進めさせていただきますとのことでした」



 宵闇を思い浮かべる黒から紫へと色がグラデーションに変わるシルクのドレスは、裾などに小さなダイヤのような石が縫い付けられていた。


 鏡の前で合わせると、マーメイド型のドレスは私の体形にピタリと合わせてある。


 すごい綺麗。


 シックだし、この細身がいいわね。


 それにこの肌触り。こんな高級な贈り物をもらってもいいのかしらね。


 ドレスは男性が贈るものだって、ルドには言いくるめられてしまったけれど。


 それにしても綺麗ね。


 これ着るの頼みしだわ。


 ただこれ以上太れないのが難点ね。ルドにお菓子とか餌付けされまくってるから、気を付けないと。



「そんなドレス初めて見ました! これがこの前お嬢様が言っていたドレスなんですね」


「そうそう。いつもの広がってるドレスだと、座るのとかも大変だからこういう形のドレスを作って欲しかったのよね」


「これを着て行ったら、みんなきっと注目して下さると思いますよ」


「だとうれしいな。それにしても、あんな風に言っただけでドレスを作ってしまうマリナ夫人はすごいわね」


「わたしには作った子爵夫人様も、それを提案をしたお嬢様もどちらもすごいと思いますけどね」


「ふふふ、そうかな」



 前世の記憶からと言っても、やっぱり褒められるのはうれしいものね。


 昔の記憶を使って、便利になるのは絶対悪いことじゃないと思うもの。


 でもモノ自体を知ってはいても、構造とか作り方とかそういうのは分からないからなぁ。


 もっとちゃんと生活していれば、再現できたのかもしれない。


 ん―。勿体なかったな。



「ドレスが届いたのかな」



 短いノックの後、ルドが部屋に入って来る。


 今日は朝からお仕事へ行ってしまっていたのだが、ドレスが届く時間にわざわざ戻ってきてくれた。



「お帰りなさいルド様!」


「アーシエただいま。そうやってニコニコしながら僕のとこに飛び込んできてくれて、本当に可愛いね」


「大げさですよ、ルド様は」


「そんなことないさ。可愛い君の顔が見たくてこうして僕は帰ってきたんだから」


「ふふふ。お世辞でもそう言ってもらえると、うれしいですよ。ルド様に今日のドレスを選んでもらいたかったんですから」



 今日の勝負服ともいえるお茶会のドレスは、どうしてもルドに選んで欲しかった。


 大勢の人がいるところでは表立った攻撃を仕掛けてくることはないって分かっていても、やっぱり少し怖い。


 だからどうしても気合を入れたかった。


 ルドが選んでくれたものを身に付けたら……好きな人が選んでくれれば、それだけで強くなれる気がするのよね。


 なんとなく、だけど。



「ルド様はこのピンクのドレスと水色のドレスはどっちが似合うと思いますか~?」



 私は二着のドレスを交互に顔にあてた。


 自分で見てもどちらの色も可愛く、アーシエの顔には似合っている気がする。



「ん-、そうだなぁ。アーシエ自身が可愛いから、何を着ても似合うと思うんだが」

 

「むぅ。それでは答えになってませんよ。どっちもは着て行けないんですからちゃんと選んで下さいな」


「そうだなぁ。じゃあ、まずはこれかな」



 ルドは自分で持っていたやや大きめの箱を開け、私に見せた。


 中には中心に大きな石の付いたネックレスが入れられていた。


 石はルドの瞳によく似た紫色。しかも大きさは小指サイズほどある涙のような形だ。



「すごい……キレイ……」



 これ一個で、いくらぐらいするんだろう。


 でも値段がいくらしても、これは欲しい。


 ルドの色。きっとこれは何よりの御守だわ。



「これは虫よけだよ」



 ルドはそう言いながら、私にネックレスを付けてくれる。



「虫よけじゃなくてこれは御守、ですよ。だってルド様が一緒にいてくれるみたいですもの」



 無機質な冷たい石。


 でも何よりもキラキラ輝くその石が私には温かく思えた。


 本当に綺麗ね。恋人からプレゼントをもらって喜ぶ気持ちって、きっとこんな感じなんだろうな。


 しかも今日は何の日でもないのに。


 わざわざお茶会へ行く私のために、これを贈ってくれるなんて。


 うれしすぎて、私はどうすればいいんだろう。



「こんなプレゼントをもらってしまって……私はルド様のために何も出来ていないのに」


「アーシエが傍にいてくれる。それだけで僕は幸せだから大丈夫だよ。そしてこれも、僕が送りたかったんだ。ある意味、君は僕のものだっていう証さ」


「私がルド様のモノ……」


「そうだよ。好きな人には自分の髪や瞳の色と同じ色の宝石を贈る習慣があるからね。だからアーシエは僕のモノという意思を誰から見ても分かるように示してるのさ」



 #アーシエ__・__#は僕のもの。私はもう一度、首にかけられた宝石を見た。


 これはきっとうれしい言葉だ。それに、その想いは私も同じだから。でも――



「アーシエ、どうかしたのかい?」


「いいえ。すごくうれしですルド様。#私__・__#もですわ」


「それはうれしいな、アーシエ」


「ふふふ」



 笑顔で感情を隠し、ふと浮かび上がった黒いモノを、私は見て見ないふりをした。


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