031
「お嬢様のためでしたら、きっとみんないくらでも働きますよ」
「そーんなこと言ってると、私がいぢわるなオバサンに変身した時困るわよ」
「変身……ああ、変わるってことですね。でも絶対に変われないと思いますけどー?」
「そんなことやってみたいとわからないわょー? どこかの令嬢にいじめられるだけで、ただじっと耐えてたアーシエではなくなってしまったんだから」
「でも、今のお嬢様は本当に素敵ですよ。自分をしっかり持っていて、それでいて負けずに挑み続ける感じが」
「んー。負けず嫌いだからね。なんかただ逃げてるだけだと、私らしくないかなーって」
「それでいいと思います。前のお嬢様は、見いて本当に痛々しかったですから」
アーシエの過去。
ユイナ嬢からのいじめに、ただ耐えてきたんだっけ。レオのために。
そしてレオもまた、ユイナ嬢 に弱みを握られて何も出来ずにいた。
でもレオの方はたぶん片付いてはないみたいだったわね。
ただレオをいじめても、私とルドの婚約が止められないと思って標的を変えただけ。
「ねぇサラ、レオはどうしてユイナ嬢に弱みを握られてしまったの?」
「それは……」
「ああごめん。言いにくいことだったら、いいの。ふと、気になっただけだから」
「……すみません。ですがこれだけは言わせて下さい。全てはわたしのせいなのです」
「サラの?」
「はい……」
「分かった。あとは今度、レオから聞くね。でもきっとサラのせいではないと思うよ」
「お嬢様!」
「それに、弱みを握って人を脅す奴が悪いんだからサラが謝る必要性なんてない」
「すみません」
「ほら、また。そんな暗い顔しないで。今からルドが手配してくれたドレスの仕立て屋さんがここに来るんだから」
「はい……。確か、王妃様御用達のデザイナー様ということでしたよね」
お茶会に恥をかくことなく出席するには、まず衣装が必要だった。
でも私には家にある手持ちのドレスと、ここでルドが用意してくれたものしかない。
ここのは、ほぼ普段使いでいいように、ルドがあえて派手な正式のドレスを置いてはいなかった。
だからこそ、急いで作る必要が出てしまったのよね。
普段用のドレスのが楽だし、使い勝手がいいから私は好きなんだけど。
さすがに正式なお茶会に着ていくわけにもいかないし。
過去に着たドレスは、基本的には何度も着回すものではないとサラが教えてくれたから、どうしても作らなければいけないし。
ルドがどうせ作るのならば、他の令嬢と差を付けるためにも、王宮御用達のデザイナーがいいと言い出すし。
王妃様と同じデザイナーさんに作ってもらうとか、恐縮すぎちゃって着るのに緊張しそう。
「すごいデザイナー様だって殿下がおっしゃられていましたよね。楽しみですね、お嬢様」
「えー。むしろ胃が痛くなりそう」
「えええ? お、お医者様をお呼びいたしますわ」
「なんとか、たぶん大丈夫……。ああ、緊張する」
「お嬢様でも緊張なさるのですね」
「えー。そんなに図太そうかな、私」
「いえいえ、そうではなくて、いつもしっかり堂々とされているのでという意味ですわ」
「でもねぇ。相手は王妃様のデザイナー様だし。私なんて、まだ婚約者候補でしかないのにいいのかな」
「でもお嬢様が殿下の寵愛を受けてるというのは、誰もがすでに承知のことですよ」
「寵愛って……」
この場合の寵愛って、いい意味よね。
まさか、変な意味じゃないよね。
え。誰にもこんなこと聞けないし。
こんなことなら乙女ゲーム以外の恋愛とか人生全般、頑張っておくんだったなぁ。
半ば抜け落ちそうになる魂を引き留めつつ、私たちはデザイナーを待った。