022
ため息ばかりをついているわけにも行かず。
かといって見たくもない現実はすぐ目の前にある。
一番に頭を悩ませる、私は誰で、アーシエはどこにいってしまったのか。
この答えがどこにあるのか……。たぶんヒントはレオが持っているとは思う。
ただそれを聞いたところですんなり解決するのか、それとも苦しくなるのか。
「あー。なんだかなぁ」
「どうかなさったのですか?」
「ん-。考えなきゃいけないことが多すぎるのに、考えたくないの」
現実逃避だって分かってはいるんだけどね。
今はまだ、そんな気分じゃない。
「それなら、中庭などにお散歩などはいかがですか?」
「お外! それは行きたいかも。でも、出たら怒られるんじゃないかな。ほらルド様は、私を#鳥籠__ココ__#に閉じ込めておきたいわけだし」
「あー。そうですねぇ……。ではこうすればどうでしょう。誰かに言付やお手紙などを頼んで、殿下に届けていただくっていうのは」
「お手紙かぁ。確かにそれはいいかも。ま、ダメ元だと思ってやってみようかな。この中にずーっといたら息がつまってしまうし」
「ではすぐお手紙を書くものをいただいてまいりますね」
「ありがとう、サラ」
私の返事を聞くと、サラはにこやかな笑みを浮かべながら部屋から出ていった。
手紙を書くなんていつぶりぐらいだろう。でも伝言を頼むよりも、紙で残った方が絶対いいものね。何かあった時に証拠にもなるし。
ホントはメールとかなら誰が見ても絶対なんだけど、さすがにココにはないしそこまでは残せないからね。
さて、なんて書こうかな。丁寧な書き方とか、この世界での礼節が分からないけどこれって普通に書いてもいいものなのかしら。
サラに聞いたら分かるかな?
「お嬢様、手紙を書く用意をお持ちいたしました」
「ありがとう、サラ」
サラから淡いピンク色の封筒と便せん、それに筆ペンを受け取る。
封筒の表側には、小さな金の模様が書かれているだけの質素なものだ。
ここではこれが普通なのかな。絵とか、柄とかないのね。
「ねぇサラ、手紙の書き出しとかって何か決まりとかあるの?」
「招待状などではないですし、思うままに書いていいと思いますよ?」
「そっか。りょーかーい」
まずはルドのフルネームを書いて、で、内容は今から離宮の周りを一周くらいしてもいいかと尋ねる。
そのあとにお仕事無理しないで下さいと結べば完成。
素っ気ないかなとも思わなくもないけど、でもダラダラと書いてもね。
仕事中なのに、邪魔してしまっても申し訳ないし。
「お嬢様は字がお綺麗ですね」
ベッド横のサイドテーブルで私が書き上げた手紙を、サラが覗き込んだ。
「そうかな?」
「ええ、とっても」
あれ。私、この世界の文字を書いている。
全然気にせずにそのまま書いていたのに、前の世界の文字ではなく、ちゃんとこの世界の文字になっていた。
そしてその文字を私は読むことも書くことも出来るようだ。
「私、覚えているんだ……」
「え? どうかされましたかお嬢様」
「ううん、なんでもない」
そう咄嗟に誤魔化す。でもそうね。
頭では全くアーシエの記憶なんて私にはないものの、この体はアーシエだったことをちゃんと覚えている。
でもなんだかそれが、違和感のような変な感覚だ。
自分なのに自分ではない。体を借りているそんな感覚。言い方は悪いけど、着ぐるみの中に入っているみたい。
ぴったりしていないような……そんな感じね。
「それならいいのですが。お嬢様、さっそく殿下宛に届けてもらいますか?」
「ああ、そうね……。んー。なにか添えるようなお花はないかしら」
きょろきょろと部屋を見渡せば、暖炉の上に飾られた花が目に入る。
ああ、ちょうどいいわね。あれにしよう。
「お嬢様、お花などどうするのですか?」
「お手紙と一緒に殿下に届けて欲しいの。お手紙だけだと、なんだか素っ気ないからね」
私は花瓶から花を一輪取り出すと、下の部分を切り取ってもらう。
そして手紙にそれを添え、サラに渡した。
「では王宮の侍女に渡してまいります。お嬢様からのお手紙なら、すぐお返事をいただけると思いますわ」
「そうね。もし許可が下りたら、二人でこの離宮の周りを一周しましょう。あまり離れたとこへ行って、なにかあると困るから」
「そうですねお嬢様。でも例え何があっても、サラが御守りいたしますからね!」
「うん。期待しているわ」
私よりも小さく若いサラに護られるなんて、なんだか変な感じね。
でもいざとなったら、二人で走って逃げればなんとかなるでしょう。
別に遠くへは行かないわけだし。