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エッセイ集

ある日八百屋で女性から声を掛けられた(逆ナンではない)

作者: たてみん

お読みいただきありがとうございます。

いつもの思い付き短編。普段はエッセイなのですが、エッセイっぽくない内容になったのでヒューマンドラマ部門での投稿です。


読んでスカッとする内容ではないとだけ先にお伝えしておきます。ご注意ください。

その日俺は、いつもと同じように仕事帰りに家の近所の地域密着型の八百屋へと来ていた。

この店は地元の幾つかの農家から直接野菜などを卸しているので大型スーパーなどと比べると季節の食材しか置いていないという欠点はあるものの品質は相当良いのでよく使わせてもらっている。


それは店の奥のきのこコーナーで「4個入り菌床しいたけ」と「6個入り原木しいたけ」を見比べて菌床しいたけの方を戻した時に起きた。


「あの、すみませんちょっと良いですか?」

「??」


隣から女性に声を掛けられた。

振り向いてみれば年のころは20~27位と言ったところか。

特別美人という程でもなく、さりとてそれなりには整った体型の女性だった。

もしかして逆ナンというやつだろうか。

いや違うだろうな。

残念ながら俺はモテるような容姿ではない。

近年料理男子は人気が出てきているかもしれないがそれもただしイケメンに限るというやつである。

俺はそれに該当しないと自負している。

……嫌な自負だ。言ってて泣けてくる。

まあともかく、少なくとも初対面のこの女性に惚れられた訳ではないと確信は出来る。

なら一体何だろうか。


「教えてください。なぜ今、そっちのシイタケを選んだんですか?」

「しいたけ?」


なんだそのどうでもいい質問はと思ってしまった俺は悪くないと思う。

彼女は俺の様子もお構いなしに話を進めた。


「そうです。値段はほぼ一緒。1つ1つの肉付きの良さで言えば4個入りの方がずっと良いですよね。

なのにちょっと見て6個入りの方を選んだのは何故ですか?

やっぱり菌床よりも原木の方が良いなんて都市伝説を信じているんですか!?」


菌床と原木のしいたけで、どれだけ味や栄養価が違うのか俺は知らない。

日によっては菌床の方を買う場合もあるし原木じゃないとダメという事も無い。

だけど今回に限って言えば俺は原木の方のしいたけじゃないと都合が悪かったんだ。


「えっと、俺が持ってる野菜、見えますよね?これが答えです」


そう言いながら手に持っていた9個入りのピーマンと、10本入りのオクラと、3個入りのナスを見せた。

どれも夏野菜として定番で、季節の野菜を置くこの店では棚の半分を占めている。

それに旬だから1つ1つが大きくて味も良い。

お陰で安く野菜が手に入るのは嬉しいんだけど最近の食事はこればっかりなのが辛い。

早く秋野菜も手に入るようになって欲しいものだ。農家の皆さんには頑張ってもらいたい。

と、それはともかくその女性は俺の示した答えに納得できなかったみたいだ。


「あの、答えとか言われても意味わかりません。はぐらかさないでちゃんと教えてください」


ムッとしたように言うその人に俺は敢えて遠回りな回答をしてあげた。


「俺一人暮らしなんですよ。で、今から帰ってこいつらを料理するんですけど、もちろん1回では食べきれないので3回に分けて料理するんです。つまり3日間同じ食材なんですよ。あ、多少味付けとかは変えますよ」

「いえあなたの事情なんて聞いてません!」


あれぇ、そうだっけ。

俺がどっちのしいたけを選ぶかを決めた要因って間違いなく今話した俺の事情によるところが大きいんだけど。

あ、もしかしなくてもそうか。


「お姉さん、実家暮らし?」

「え、はい」

「普段料理するのはお母さんとかですか?」

「そうですけど、それが何か?」


やっぱりなぁ。それじゃあ気付けないか。


「そういえば、なぜ俺がこっちのしいたけを選んだ理由を知りたいんですか?

俺に興味が有った、なんてことは無いですよね?」

「当たり前です!」


あ、当たり前なのか。まあいいんだけど。


「私はとある会社のマーケティング部に所属していて、どういう商品が売れるのかを実地で調査しに来てるんです。

その調査結果しだいではあなたにだって恩恵は回ってくるかもしれませんよ」


なぜか若干上から目線で言われた。

もしかしたら独り身の寂しい奴とでも思われたんだろうか。

ま、俺も彼女に興味が失せて来てるしどうでもいいか。それより早く帰って料理したい。


「なら一つ提案があります。それを聞き入れてくれたら俺がこっちのしいたけを選んだ理由が分かりますよ」

「はぁ、良いでしょう。何ですか?」

「俺が買おうと思ってたこのナスとピーマンとオクラと、棚に戻したしいたけをあなたに渡します。

あなたはこれらを今日から3日掛けてこれらの野菜を自分で料理して食べてください。

毎日全種類の野菜を使って3日目の料理が終わった時には全部使い切ってください。

お勧めはみそ炒めです。それぞれの野菜を一口サイズにカットして塩コショウで炒めつつ最後に少量の水で溶かした味噌で味付けるだけのお手軽料理です。

今行った事を実践してもらえれば、自ずと答えは分かるでしょう」


ちなみにこうしてそれほど広くも無い店内で長々と会話してれば当然周囲から注目を浴びている。

中には俺の手の中にある食材を見て「ああ、なるほどね」と頷いて行く人もいる。

それくらい俺が6個入りのしいたけを選んだ理由は単純なんだけど、この女性にはまるで理解出来ないようだ。

俺は仕方ないなぁと思いながら持っていた野菜たちと4つ入りしいたけを彼女に持たせた。

そしてレジはあっちですよと指し示した。


「って、私が買うんですか!?」

「お前が食うんだから当たり前だろ」


少なくとも彼女の為に買ってあげる義理は無い。

全部で500円程度なのだから勉強代というにも烏滸がましい。

これでも俺は全部親切心でやってあげたつもりだ。

しかし彼女には違って伝わっていたようだ。

彼女は顔を真っ赤にして怒り出した。


「なぜ私がそんなことをしなければならないんですか!」

「え、お前が無知だからに決まってるじゃないか」


何を当たり前な事を言ってるんだ。

しかし次に彼女が取った行動はいただけなかった。


「いい加減にしてください!

こんな野菜ごときで何が分かると言うんですか!!」


そう言って、あろうことか手に持っていた野菜を地面に叩きつけたのだ。

息を呑み静まり返る店内。

当事者である俺がいち早く動き出した。


「おいこらバカ女。ちょっと表出ろ」


かなり冷めた口調でそう言いつつ、彼女の腕を掴んで背中を押し強引に店の外に叩き出した。


「ちょっ、何するんですか。警察を呼びますよ!」

「好きにしろ。言っておくがお前は店内に居た全員を敵に回してるんだからな。よく覚えておけ」

「なっ!」


俺は何か反論されるのも面倒だとさっさと店内に戻った。

そして店員さん達に頭をさげていく。


「すみません、お騒がせしました」


そうして地面に投げ捨てられていた野菜たちを拾い、気の良い店員さんから「あの良かったら他のと交換しますか?」と聞かれたけど笑顔で大丈夫ですと答え、レジに向かおうとしたところでさっきの女が店に入ろうとして門前払いを食らっているのが見えた。

女は何かを喚きたてていたけど、肝っ玉母ちゃんのような店員さんに歯が立つわけもなく逃げるように去って行った。

レジに入ってくれた店員さんから逆に「ご迷惑をお掛けしました」なんて謝られたけど店員に落ち度は何もないので笑顔で「大丈夫です」と答える。


「ちなみにさっきの人、前にも何度かこの店に来てるんですけど1度として買い物してくれたことが無いんですよ」


と帰り際に教えてくれた。

まったく、就職出来てるなら多少なりとも金銭に余裕はあるだろうと思うんだけどなぁ。

まあそこは家庭の事情があるのかもしれないから何も言わないけど。


ちなみに俺が原木しいたけを選んだ理由は単純に3で割り切れる個数だったからだ。

たかがしいたけと思われるかもしれないが菌床の方は1つが大きかったから1日に2つ食べようとすると量が多くなり過ぎるんだ。

オクラは10本入りだけど1つ1つが小さいから3,3,4で食べても大丈夫というだけ。

でも一人暮らしもしていない、料理も碌にしないではそんな単純な答えにすら辿りつかない。

あの女がこの答えを理解するのはいつのことになるのやら。



実際に絡まれた訳ではなく、単純にどっちのしいたけを買おうかな~と思い悩んだ瞬間にはっと閃いたので投稿してしまいました。


やはり自分で体験するのは大事。

親の苦労だって自分が親になって初めて分かるんです。

私は結婚すらしてませんが汗

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