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94話 兄のいる時間 キュウカ

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

「会長、予算の資料が出来上がりました……」


「ありがとうございます。目を通しておきますね」


「そ、その……」


「どうしましたか?」


 生徒会室で仕事をこなしていたキュウカ。だが、今日はやけにみんなの視線を感じた。


「何故、先生が……?」


「あぁ、すみません。気にしないでください。今も治療中ですので」


 そう言って2人を繋ぐ手錠を見せる。


「は、はぁ……体調が悪いのは聞き及んでましたが……それで治療になってるのですね」


「はい。片時も離れてはいけないそうです」


 そういうキュウカはどこか嬉しそうだった。

 それはそうだ。意識が無いとはいえ仕事中でさえもルドと一緒にいられるのだから。


 そんなキュウカを見て、一瞬ときめきを感じる生徒会の生徒達だったが、それは全てルドに関連することだと認識して気が滅入る。


 生徒達の中ではもはや神秘的な存在となっているシスハレナイン。


 頭脳明晰、容姿端麗、国を救った英雄。

 誰もが憧れ、男であれば一度は惚れたことがある存在。


 そのシスハレナインに喜怒哀楽をもたらすのは実の兄だけであるのは周知の事実だった。


 故に触れることが出来ず、高嶺の花として崇め続けているのだ。


「そうですか。先生、早く良くなるといいですね」


「ありがとうございます」


「それにしても、先生は幸せ者ですね。会長みたいな妹さんにこんなに愛されて」


「確か貴方にも妹さんがいらっしゃいませんでしたか?」


「よく覚えてらっしゃいますね。私にも妹はいますが、愛されているよりも邪魔者扱いです」


 自分の家族構成を覚えていて貰えて内心嬉しい生徒。


「それは、貴方が妹さんを愛する気持ちが足りないからです」


 生徒の気持ちとは裏腹にキュウカは真面目な顔で告げた。


「いいですか、愛というのは形こそありませんが必ず相手に伝わるものです。私達はお兄ちゃんから沢山の愛を貰って育ちました。返すことなど出来ないくらいです。だからこそ私達はずっとお兄ちゃんを愛し続けるのです」


 真剣な表情でキュウカの話を聞く生徒会の生徒達。


「愛される、ということは愛することと同じです。あなたも、自分から妹さんを愛してあげてください。その気持ちは必ず妹さんに届くはずです」


 少しの間、静寂に包まれる生徒会室。


「は、はい!! ありがとうございます!」


「決して独りよがりな愛を押し付けてはいけませんよ。見守り、慈しむ。必要な時に手を差し伸べる。貴方があらゆることから妹さんを守ってあげてください」


 キュウカの言葉には説得力がある。支配の力を使わずともだ。

 話を聞いた生徒達は拍手をしたい気持ちをグッと堪えて、話の内容を噛み締めた。


(この人に一生付いていきたい……!!)


 この空間にいた皆がそう思った瞬間だった。


 皆に諭すように話していたキュウカだが、実は自分に言い聞かせていた。


(必ず……この思いはお兄ちゃんに届いてる……そうだよね? お兄ちゃん?)


「……」


 何度もそんな思いを込めた視線を送るが、返事は一向に無い。その度に不安が押し寄せてくるが、ルドを信じる気持ちだけで折れずに待ち続けた。


 アルファからの連絡があったのは、そんな時だった。


〔みんな! 兄さんを元に戻せる可能性がある物を見つけたよ!!〕


 ガタンという音とともに椅子を倒しながら立ち上がったキュウカ。


「どうしましたか、会長?」


「急用が出来ました! 皆さん後はよろしくお願いいたします!」


 勢いよく車椅子を押し、生徒会室を後にするキュウカ。


(お兄ちゃん……待っててね!!)


 今こそ愛を届ける時が来た。


長い作品になりますので、よければ【ブックマーク】してお楽しみください。

またページ下部の【☆マークで評価】していただけると、ハジけるほど喜びます。

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