92話 兄のいる時間 ロッカ、チセ
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「さぁ行きますわよお兄様!!」
「お兄様に私達の仲間を紹介しますわ!!」
「……」
ロッカとチセは、王都のとある場所にある倉庫を訪れていた。
表側の入り口は搬入口となっている為、裏口から中に入る。
通路を抜けてドアを潜ると、広い空間に大勢の人が立っていた。
その人達がロッカとチセの存在に気付くと、その場に膝をついて敬意を表した。
ロッカとチセはそのまま事前に準備されたお立ち台へと足を運び、壇上へ上がる。
「お兄様、ここにいるのは家族や仲間を失った者達ですわ」
「お兄様が私達に与えてくださった力で、守れたものですわ。そして、守れなかったものも……」
「そんなこと言わないでください、ロッカさん!!」
大勢の人の中で、1人の青年の男が声を上げた。
「確かに友人を失いましたが、それでも俺達は生きている……生かされている! ロッカさんやシスハレナインの皆様に救って貰えたんだ!」
すると、他の所からも声があがった。
「そうですチセさん!! 確かに仲間を失った悲しみは大きい……でも俺達には戦える体が残ってる!!」
「そうだ!! 俺の家族を奪った奴らに敵討ちをするんだ!」
そうだ、そうだという声が重なり合う。そんな中、ロッカが右手を上げて声を制した。
「残念ですが、あなた方ではアレに対抗出来ませんわ」
「そうですわ。敵討ちをしても返り討ちにあうだけですわ」
「だったら僕たちの悲しみや……憎しみは、どうすればいいのですか!!」
1人の青年の叫びが広場に響き渡る。
その声を聞いたロッカとチセは、同時に両手を胸の前で結んで、祈りの姿勢をとった。
「「祈るのです」」
「祈る……? 神にでも祈るしかないと言うのですか!」
「何を言っているのです。神に祈っても何も与えてくれませんわ。それよりも祈るべき人がいます」
「崇拝するべき人がいるのです」
「それは……誰なんですか」
「「私達シスハレナインの、お兄様です」」
2人の揃った声が通り過ぎる。一瞬何を言われたのか理解出来なかった大勢の人々。
「今は眠っておられますが、お兄様は私達に皆さんを救う力をくれた偉大な方ですわ」
「あなた方の怒りも、憎しみも、悲しみも、全てを背負って戦ってくれますわ」
「だからこそ、託すのです。お兄様に祈ることが、生き延びたあなた方が出来る最高の敵討ちになるのですわ」
「そんなこと……」
「思いは光となって、力となりますわ」
そう言ってロッカとチセが祈りながら精神力を放出し、ルドに注ぐ。
「なんて……温かい光だ……」
「そうだ……俺達はこの光に救われたんだ……」
「俺達にも……こんな光が……?」
「思いは光、思いは力。敵が討ちたいのであれば、祈り捧げるのですわ」
半信半疑ながらも、両手を組んで祈る人達が出てきた。すると——
「光の玉が……溢れてる!?」
「お、俺も!!」
「この光が……敵討ちの力になるなら……俺も!!」
「お願いします……私の夫を亡き者にした異形の人に……裁きを!!」
祈りを捧げた人達から小さい光の玉がいくつも生み出された。やがてそれはルドの元へと集まる。がその光がルドの体内へ入っていくことは無かった。
〔自然の精神力は効果がなかったみたいだけど、人の祈りも同じかな……〕
〔そんなことありませんわアルファ。例え光が届かなくても、思いは届いていますわ〕
〔そう……かもね。ちょっと魔王のシステムと似てて気乗りしなかったけど、兄さんがみんなの思いを背負うって状況は目を覚ますきっかけになるかもしれないしね〕
〔そうですわ。お兄様がお目覚めになった際はきっと勇者と対峙するはずです。その時にここにいる方々の思いの力があれば、勝てる可能性が増えることになります〕
〔ロッカ姉さんとチセ姉さんはすごいね。もう兄さんが戻ってきたときのことを考えてるんだ〕
〔もちろんですわ! お兄様は必ず戻ってくると信じておりますもの〕
〔そうですわ! このまま今生の別れになんてなりませんわ!〕
〔そうだね! 私もロッカ姉さんとチセ姉さんを見習って出来ることを一つずつやってくよ!〕
過去で時間が止まってしまった大勢の人々がルドに祈りを捧げる中、ロッカとチセの目は、未来を既に見据えていた。
ルドも、ここにいる人達の時間も、必ず進めてみせると強く思いながら——
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