90話 兄のいる時間 シロ
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「はぁ……よいしょ……」
「アウゥ?」
「大丈夫……私が押していきたいの……」
「アウッ!」
早朝、シロはルドが座る車椅子を押していつもの散歩道へ向かっていた。
本来であれば転移で一瞬で到着なのだが、今日はシロが車椅子を押していた。
「私も……強くなったところ……見せたいから」
シロは元々体を動かすことは苦手で、ルドとの散歩で以前よりは体力がついたものの大人一人が座る車椅子を押して学園までの距離を歩くのは簡単ではない。
それでも成長した姿を見せたいがために、フェルの手助けの申し出を断って自分で車椅子を押すシロ。
「まだ……頑張れる」
そこには、自分の短所を嘆いて泣くだけの少女の姿はなかった。
ゆっくりと歩いて目的地である散歩道へ到着したシロ。
「ふぅ……私も……できる」
「アウッ!!」
「……」
自分のことのように喜んでくれるフェルを撫でるシロ。ルドの意識があればきっと"絵になるなぁ"と言っていただろう。
「にいさま……到着……しました」
「……」
「アウゥ……」
「草むらさん……にいさま……つれてきたよ……」
シロが草むらさんに語りかけると、草むらさん達から光の魂が生み出された。
その光がルドの体を包み込む。だが、体に触れることが出来ない様だった。
「やっぱり……直接じゃないと……ダメみたい……」
シロからルドの状況を聞いていた草むらさん達は、自分たちも力になりたいと申し出ていた。シロと接するうちに精神力を生み出せる様になった草むらさん達が、自分たちの精神力をルドに分けてあげると。
だが、その試みは失敗に終わってしまった。
項垂れる様にぐってりとする草むらさん達。
「大丈夫……にいさまは……任せて……みんな……ありがとう」
草むらさん達にお礼を告げるシロ。
「少し……歩く……」
「アウ」
「……」
再びゆっくりと車椅子を押すシロ。いつもであれば逐一様々な自然に声をかけるが、今日は自然達に見守られながらただ散歩道を歩く。
「体を動かすのが……嫌いじゃなくなったのも……にいさまの……おかげ」
「……」
「みんなと……出会わせてくれたのも……にいさまだった」
「……」
「私は……にいさまに……沢山のものを頂いてる……」
「……」
「それなのに……私は……にいさまに向かって……」
「……」
シロの脳裏に浮かぶのは、魔王と勘違いしてルドに殺意をもって攻撃をしたことだった。
「ごめんなさい……」
「……」
「アウゥ……」
そのとき、自然達が生み出した光の玉がシロを包む。シロにしか聞こえない自然達の声が届いた。
「うん……にいさまは……強くなったって……言ってくれるかも……でも」
「……」
「にいさまに……気づけなかった……私が憎い……」
「……」
シロはルドに気づけなかったことに対して一番負い目を感じていた。存在自体が変わってしまっているので、気づけるはずが無いのだが、逆にルドだったら妹達が何になってしまったとしても絶対に気づくだろうと考えるからだ。
「にいさまの……妹……失格……」
「……」
「わかってる……にいさまは……そんなこと思わないって……だから……」
前までのシロであればそのまま折れてしまっていたかもしれない。だが——
「もう一度……にいさまに……認めてもらうの」
ケツイの篭った目でハッキリと告げるシロ。それはルドに向けたものか、話を聞いてくれた自然達に向けたものか、自分に向けたものかは定かでは無い。
だが、確かにシロの中に生まれたケツイがあった。
朝から車椅子を押していたのもそういった理由だ。
【もう一度、兄に認めて欲しい——】
そんな些細な、でも本人にとっては無視できないほど大きな思いを抱く一人の少女は、車椅子を押して歩き出す。
自然達によって生み出された光の玉が照らす光の道を。
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