9話 Q.「妹さんをください」A.「殺す」
「全員、礼」
「「よろしくお願いします!」」
目の前に座る新入生達が挨拶をする。
今日は、新入生に初めて魔法の授業をするということで、魔法の先生からレクチャーの手伝いをして欲しいと頼まれた。
なぜ俺が頼まれたかって?
それは俺が魔術委員に所属しているためである。
魔術委員とは、各学級の中で、魔術の成績が優秀な者が入れる委員会だ。
活動内容は、こう言った授業の補佐や、魔法競技大会の運営、校内での魔法使用の取り締まりなど、多岐にわたる。
ちなみに魔法学園では、原則魔法を使用しての対人戦は認められていないが、やむを得ない場合は、魔法委員立ち合いの元、決闘などを行うことが出来る。
トラブルなども多いため、優秀なものにしか入れない言わばエリート委員会だ。
「さて、今日は初めてだから、お前達の魔法を見せてもらう。試験でも見たが、あの時は限定された内容だったからな。今回は得意な魔法を見せてくれ。その後はここにいる先輩達と、魔法対戦を行ってもらう。もちろん希望者のみだがな」
今日呼ばれた理由は、主に後半のためであるが、前半は魔法を当てる的の準備や、使用した魔法、魔力量、威力などの計測も行う。
今回補佐するために呼び出されたのは、俺含めて高学級から二人、中学級から二人だ。
生徒達は俺たち4人の前に好きなように並び、先生は全体を監督するという形だった。
まずは俺たちが配置に付き、次に新入生達が好きなところに並ぶ。
その時、少し騒動があった。
「なぁ先生、俺のところに全然人が来ないんだが……」
そう言ったのは先輩である高学級の人だ。
なぜそんな状況になったかと言えば、
俺の元に新入生の大半の女子が集まっているためである。
もちろんそこには9つ子の妹達もいるが、他の生徒もぞろぞろといた。
「ハァ、ルドは顔もいいからな、そりゃこうなるか。おい後ろに並んでいる奴ら、空いてるところに移動しろ」
先生が言うと、ほぼ均等に並んだみたいだ。
「俺はどうせあまり物ですよ……」
先輩、そんなことないですよ。
俺は計測を始めるために先頭の女子生徒を呼ぶ。
「では最初の子、前に来てください」
「は、はい!」
緊張しているようだ。
「大丈夫、リラックスしてね。君の得意な魔法を見せてくれるかな?」
すると女子生徒は顔を赤くしながら、
「は、は、はいぃ!!」
と答えた。うん。リラックス出来たみたいだ。
最初の子が終わり、次の子の方を見ると、見知った顔だった。
「次は、ジーコか、こっちにおいで」
すると後ろに並ぶ女子達から「キャー」という声が上がる。
俺は何もしていないぞ。
「兄様、恥ずかしいからやめてほしいわ!」
なんだジーコ、嫌だったのか?
「そっか、じゃぁジーコは別の人のところでやってもらうか」
「そう言う意味じゃありません! 兄様のイジワル! 早くやりますわよ!」
「すまんすまん。それじゃジーコの訓練の成果、見せてもらおうか」
ジーコにそう言うと、誇らしげな顔で魔法を発動する。
「ファイア・アロー!!」
ジーコが魔法を唱えると、火の弓と矢が出現した。そして火の矢を放つ。
放った矢は目印の中心に当たっており、貫通してることから威力も申し分ない。
「すごいなジーコ。頑張ったな」
そういって頭を撫でてやる。するとまた「キャー」という声が上がった。
「ルド、変われ。お前だと騒がしくて敵わん」
その声を聞いてか、先生が俺の方へ来て交代を言い渡す。
仕方ないので先生と交代して俺は全体の監督を行う。
あぁ、他の妹達が悲しそうな目でこちらを見てる。大丈夫だよ。少し遠くて、もちゃんと見てるから。
そんなこんなで計測は終わり、再度集合していた。
「ふむ。例年に比べて優秀な奴が多いようだ。まぁこの兄にしてこの妹ありという感じでもあるが」
そう。妹達はまさに天才だった。
今でも中学級には入れるんじゃないか? と思えるほど洗礼された魔法達。
努力が伺える。本当に頑張ったんだな。兄は誇らしいぞ。
「さて、ここからは魔法対戦となるが、」
と、ここで先生の話を遮る一人の男子生徒がいた。
「はい! 僕にルドさんとやらせてください!」
「ほう、ルドを選ぶとはな。見る目があるじゃないか」
先生が悪い顔をしている。あと妹達よ、睨むのはよしなさい。
「ルド、お前はどうだ?」
もちろん何も問題はない。ここは優しく手ほどきしてあげよう。
「はい。私でよろしければお相手致します」
こうして俺と新入生の魔法対戦が行われることになった。
現在は、新入生達を一度観客席に移動させ、訓練場には俺と新入生、そして先生の3人だけとなった。
「ルドさん、よろしくお願いいたします!」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
「あの、対戦前に一つお願いがあるのですが!」
「はい? なんでしょうか?」
「僕が勝ったら、妹さんを僕に下さい!」
はい……?
はい……?
はい……?
このクソ餓鬼、今なんて言った?
「言ってることが……どういうことでしょうか?」
「だから、僕が勝ったら妹のキュウカさんを下さいと言っています!」
はぁ……そうか。
こいつ、俺の"敵"だ。
「ルド、どうした? 準備はいいか? 手加減を忘れるなよ」
「えぇ先生。早く初めてしまいましょう」
そして先生が開始の合図を告げる。
クソ餓鬼は魔法を発動していた。
それは下級の火魔法。
「ファイアボール!!」
俺は避けずにくらう。
先生は「ルドっ!? 何をしている!」と言っていた。
新入生も「なんだよ、ちょろいな」なんて言っていた。
観客席からも戸惑う声が聞こえる。
その中で妹達の「まずい! 兄上がブチギレている!」「何やってんのよあいつ! 兄様を怒らせたらどうなるか!」という声も聞こえた。
はぁ、バカが。
お前楽に死ねると思うなよ?
「魔法の使い方を教えてあげよう。インフェルノ・カタルシス」
俺は魔力を膨大に練り上げ、技の発動を試みる。
先生は「バカ!! 最上級魔法を唱えるとはどう言うことだ!」と叫んでいた。
ちなみに新入生は腰が抜けてチビってる。
さぁ、裁きの時間だよ。
「フリーズ・ウォーター!!」
その時、俺の頭上から水球が降ってきて、全身がびしょびしょになった。
何かと思えば、緊急事態を察した妹達が、いの一番に駆けつけたみたいだ。
さっきの魔法はハーピか。普段は寝坊助なのに流石だな。もう中級魔法が普通に使えるなんて。
とりあえず俺は、妹達に被害が及んでは元も子もないので魔法を治める。
「どうした? 何かあったか?」
「何かあったじゃありませんわ! お兄様は頭に血が登ると周りが見えなくなるのですから!」
「そうですわ! お兄様、しっかりしてくださいまし!」
ロッカとチセのコンビネーションお叱りを受けた。
冷静になってみると、新入生の股間は大洪水。先生はどうにか魔法を抑えようと試していたため疲労困憊。まさになんだこれ状態だった。
あぁ、そういうことか。我を忘れてまたやってしまったらしい。
「あぁ……すまない。みんなのことになると、どうもこうなってしまうな」
「本当に兄上は……ま、まぁ私達も悪い気はしていませんよ」
イクスが顔を赤らめながら言う。世話掛けてすまんな。
「それじゃ、観客席に戻りましょ。あとはお兄ちゃん、お願いね?」
そうキュウカに言われて、事態の収束を測る。
まずは新入生だな。大分怖がらせてしまった。
俺は腰が抜けている新入生に近づき、手を差し伸べて言う。
「次、変なことを口走ったら、殺す」
新入生はわかってくれたようで、そのまま気絶した。
兄の鏡