86話 真実
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「兄様!」
「兄様デス!!」
「あ……あ……」
「兄さん!!」
「お兄様!!」
「お兄様!!」
「ルド!!」
「お兄ちゃん!!」
ルドに駆け寄る妹達。だが、シロだけが動けなかった。
勘違いだったとはいえ、この世で一番愛する兄に対して殺意を持って攻撃をしたのだ。
〔シロ姉さん、兄さんは気にしてないから近くに行って手を握ってあげて〕
「アルファ……わかった……」
一歩一歩ルドに近づくシロ。近付くにつれて溢れ出す思い。
——また会えてよかった。
「にい……さま……!!」
涙を流しながらルドの手を取る妹達。
だが、ルドの目の光は失われたままだった。
少しの間兄の存在を感じる妹達。その存在は、妹達達が知っている兄の存在とは全く違ったものになっていた。
戸惑いが込み上げてくるが、なんとか感情を落ち着けて状況の確認を始める。
「それでアルファ、お兄ちゃんは……どうなってしまったの?」
〔うん……まず、兄さんが魔王と対峙したところから説明するね。兄さんはイツキから魔王が出現したという話を聞いてすぐに魔界にきたんだ〕
そこでモミジが魔王になったこと、どうにかモミジを救出出来ないかと考え、行動に移したことを説明する。
〔モミジの魂は魔王の力で消えかかっていたの……だから早く救出しようとしたとき、奴が現れたんだ〕
「奴? 奴とは誰なんだ?」
〔——勇者だよ〕
「勇者……」
〔奴は圧倒的な精神力の力で、兄さんも、魔王も、魔族も街も、全てを滅ぼしたんだ〕
「その様子はここに来る前に見ましたわ。とても……おぞましい光景でした……」
〔勇者の攻撃によって、兄さんの肉体は完全に滅んだんだ。魂も消えかかっていた。だから……どうしようもなくて……〕
「アルファ……?」
〔ごめんね……兄さんを、"孤独な者"として、覚醒させるしか無かったの……システムの一部のね……〕
「前にアポカリプスの連中も言っていたな……その孤独な者とはなんだ?」
〔それはね……私が背負わなきゃいけなかった運命なの……なのに兄さんが……ごめんなさい……ごめんなさい……〕
「落ち着くのですわアルファ! 私達はあなたに感謝しています。あなたのお陰で兄様とこうしてまた会えたのですから。ゆっくりでいいのです。説明してくれますか?」
〔……ごめんね。ありがとうジーコ姉さん……孤独な者の話をするには、兄さんの特別な力について話す必要があるんだ〕
「特別な力? 兄上は特別ではあるが」
〔単純に強いとかそういうのじゃないんだ。みんなも兄さんが知らない魔法を生み出せるのは知ってるよね? それと同じように、兄さんにしか使えない力があるんだ〕
「その力とは何なのですか?」
〔それは……"魂を取り込む力"だよ。自分の魂の中に別の魂を取り込んで、その魂の状態を自分のものにすることができるの〕
「そんな力が……だが、それと今の話に何の関係があるのだ?」
〔実はね……私も、兄さんに魂を取り込まれた存在なの。私は本当は、みんなの姉として、アルファルドとしてこの世界に生まれる筈だったんだ〕
アルファの口から飛び出したのは驚愕の真実だった。
〔何で私が生まれたかというと、兄さんが精神力を使って私を生み出したからなの。兄さんの精神力には、もちろん私の魂も含まれてる。だからこうして意識がしっかりあるんだ〕
「そんな……いや、信じないわけではないが……」
「アルファが本当はお姉さんだったのですね……」
〔最初は兄さんの魂の中で恨みもしたよ。私の人生を返せって。でも、この世界の仕組みを知るごとに私は私自身の人生の恐ろしさに気付いたんだ……そして、その運命を兄さんに背負わせてしまったことも……〕
「それが……孤独な者なのですね」
〔そう。孤独な者は……自分以外の全ての存在が感じられなくなって、永遠に孤独な世界を生き続けることになるの……孤独な世界で勇者のために人間を滅ぼし、最後には勇者に取り込まれるだけ……そして勇者の中でも孤独に永遠に生き続ける運命なんだ〕
「そんな……そんなことって!!」
〔私はこの世界のシステムにアクセスして全てを知ったんだ。多分勇者の中には……前代の孤独な者達も未だに生きてる……永遠の孤独の中で〕
「……兄さんもずっと言ってたそのシステムって結局何なの?」
一呼吸置いてウドの質問に答えるアルファ。
〔この世界のシステムはね、簡単に言うと勇者の畑。勇者が自分の食事を自給自足で得るために作られたものなの。人も魔族も魔王も精霊も鍵も、全て勇者の思惑で育てられてる……そして最後には食べられる運命〕
予想外の話に理解が追いつかない妹達。
「兄さんは薄々気付いていたみたいだけどね……こんなことになるならちゃんと話しておくべきだったよ……私の呪われた運命を兄さんに背負わせてしまったと知られたく無かったからこんなことに……全部私のせいなの」
魔力で肉体を生み出し、妹達の前に現れたアルファ。
その表情は、自分がしてきたことを全てを悔いている悲痛な表情だった。
「そんなこと……そんなこと兄さんが思うわけないだろ! アルファ!!」
立ち上がり叫ぶウド。
「兄さんは、私達兄妹のためなら……なんだってしてくれるんだよ!! それはもちろんアルファも含まれてる!! 兄さんはきっと、アルファのひどい運命を自分が背負えてよかったって言って、それでもどうにかするために動くはずだよ!! 兄さんはそういう人なんだ!! だからみんな……大好きなんじゃないか……」
そう言ってアルファを抱きしめる。アルファは、作り物の体でも確かにウドの温もりを感じた。
「そう……だね……兄さんなら……そう言うかもね……」
「そうですわ! だからこそ、今度は私達がお兄様を救うのですわ」
「そうですね。ずっと守られてきた私達だけど、今度は私達がお兄ちゃんを守ろう」
「そうだね……そうだね……!! 兄さんは本当にいい妹を持ったよ」
妹達の間に、少しだけ笑顔が戻った瞬間だった。
「それでアルファ、兄上はどうやったら元に戻るんだ?」
「兄さんは肉体が無くなって完全に魂だけの存在になったんだ。アポカリプスの黒マント達と同じようなね……みんながここに来てくれるまでは私が兄さんが暴走しないように全リソースを注いで兄さんの力を抑えてた。今はみんなが手を握って精神力を注いでくれてるから暴走を抑えれてる状態だよ」
「つまりこの手を離したら……」
「——兄さんは完全に孤独な者になって戻ってはこれない」
「まだ望みはあるということですわね」
「うん。ここから先は未知数だよ……私達の精神力が兄さんに届けば元に戻る可能性もあるけど……今は延命措置として精神力を注ぎ続ける以外の方法がないんだ……」
「一時も絶やしてはいけないということか……わかった。兄上には今後交代で私達が精神力を注ぎ続けよう」
「そうですわね。何年掛かったとしても必ず兄様を連れ戻しますわ」
「私達が咲き遅れる前に戻ってきて欲しいけどね。本当に、世話が焼ける兄さんだよ」
ルドが戻ってくる希望が見えたことで、妹達にも精神的な余裕が生まれてきた。
「そういえば……魔王は結局勇者に殺されているということですか?」
「キュウカ姉さん、そのことなんだけど……魔王は死んでないよ」
「死んでない? だがさっき兄上と一緒にやられたと……まさか……!?」
「そのまさかだよ。兄さんはモミジを助けるために、無意識で魔王の魂ごとモミジを取り込んだの。今の兄さんは、孤独な者でもあり、魔王でもあるんだ」
「だから魔族達が魔王城の周りで祈りを捧げているんだ……魔族もどうにかしないと」
「そっちは任せて! さっきまでは兄さんにリソースを割く必要があって何も出来なかったけど、もう魔王の魂の権限は得てるから私の方でなんとか出来ると思う」
「任せたぞアルファ。まずは……帰ろう。兄上を連れて。私達の家に」
「そうですわね」
暗黒の中で光る小さな光を追い求めて、妹達は歩く。
また光に包まれることを夢見ながら。




