84話 魔王城
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「ご苦労だったなシスハレナイン。皆の功績によりなんとかこの窮地を乗り切ることが出来た」
「いえ、当然のことをしたまでです。それで……王都の被害はどうでしょうか？」
「正確な情報は入っていないが……酷い状況だと聞いておる。多くの人が死に、建物はほとんどが壊された。ヒュトラ王国は、数年は復興に尽力することになるだろう」
「そうですか……お兄ちゃんが居てくれれば……」
「お前達も充分に尽くしてくれた。兄と比較せずとも誇っていい」
「——ありがとうございます」
王都を襲撃した異形の人を排除し、アーノルドへ報告を行っているシスハレナイン。
「それで、シロの方は？」
「もう魔界へはとっくに着いていると思いますが……」
「今戻った」
「シロ、イツキ。無事に戻ったか」
「ただいまイクス……その……」
「ん？ どうしたんだイツキ……」
イツキはシロの方をチラチラと見ている。それにより皆の視線がシロに集まった。
「シロ、魔界の様子はどうでしたか？」
「——魔王を殺しにいく」
「え？ なんと仰いましたの？」
シロから紡がれたのは、普段からは想像もできない言葉だった。
「魔王を……殺す！！ にいさんを殺ったのは……魔王だ！！」
シロは感情が昂り、肩で息をしていた。
「落ち着くんだシロ。兄上が死んだとは決まっていない」
「イクス……その……あれを見たらそうは言えないぜ……」
「一体……何を見たんだ？」
シロが喋れる状態では無かったため、代わりにイツキが魔界であったことを説明した。
精神力で抉られた大地。頭に響く声。それらのことから推測して、ルドを殺ったのは魔王である可能性が高いこと。
「嘘ですわ！！ 兄様が魔王なんかにやられるわけがありません！！」
「オレもそう思いたいけど！！ でもあれはさすがに……」
「話の途中ですまない。ここからは私も現場で指揮を取る必要があるのだ。酷ではあると思うが、ここからの身の振り方を決断してくれ」
アーノルドが妹達にそう告げる。
それは、好きにしていいというアーノルドなりの優しさでもあった。
「私は行く……一人でも……魔王を……殺す！」
「私もこの目で確かめますわ！！ 魔王に兄様の話を聞くまで信じません！」
「私も同感だ。兄上は絶対に生きている」
「もちろん私も行くデス！！」
「行かないわけにはいきませんわね」
「そうですわね。落とし前をつけさせるべきですわ」
「ルドぉ……やだよ……」
「アーノルド殿下……申し訳ございません。国が大変な時に……それでも私達は行かなければなりません」
「そうか……わかった。ただし期限は2日だ。お前達なら、可能だな？」
復興のためにシスハレナインの力が必要なのも事実。そして兄を殺った魔王相手に無事に帰って来れるのか？ という意味も込められていた。
「「「「「「「「「はい！！」」」」」」」」」
「決して何があっても後を追って死んではならん。必ずこの地に戻ってくるのだ」
アーノルドの言葉を聞いたシスハレナインは、そのままシロの転移で魔界へと向かったのだった。
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「これは……」
「ひどいですわ……」
シロの転移で魔界へ来たシスハレナインが見た光景は、魔王がやったと思われる街の悲惨な姿だった。
「にいさんの魔力の痕跡は……ここで……最後」
シロの指さす方にあるのは、抉れた大地だ。
「嘘デス……」
「そんなわけない……兄さんがこんなんでやられるわけないって！！」
「ウド……」
「私も信じたいですわ……まだお兄様は生きていると……」
「ルド……会いたいよ……」
「そうですねハーピ……私もお兄ちゃんに会いたいです」
一歩間違えれば絶望に身を包んでしまってもおかしく無かったが、そうならなかったのは妹達が9人一緒にいたからだった。
「シロの言う通り、まずは魔王に会って兄上の情報を聞き出す」
「そうですわね。まだ本当に兄様が死んだと決まったわけじゃありませんわ」
「イツキ、魔王城の場所はわかる？」
「あぁ……行ったことはないけどずっと感じる。多分あっちだ」
そう言ってイツキが指さす方向は、人間界とは逆の方向だった。魔界の奥へ足を進める必要がある。
「残された時間は少ない。すぐに行こうか」
「そうですわね。このまま魔王の前に転移でも構いませんわよ」
「それは出来ない……魔王のいる場所は……結界が張られている」
「シロでも突破出来ない結界ですの？ 厄介ですわね」
「とりあえず近くまで移動しましょう。そこまで行けば入れる方法があるかもしれません」
キュウカ言葉に全員が納得し、魔王がいると思われる場所の近くへと転移する。
そこでもシスハレナインは予想外の光景を目にするのだった。
「これは……魔族か？」
「全員が……膝をついて祈っている？」
「不気味ですわね……」
魔王がいると思われる城を、大勢の魔族が取り囲んでいる。
魔族はどうやら魔王に向かって祈りを捧げているようだった。
「ごめん……オレももう……頭がパンクしそうだ……」
魔王城に近づいたことで、遂にイツキが膝をついて祈りを捧げ始めてしまった。その目には光が灯っておらず。どこか遠くを見つめているようだった。
「イツキ……ごめんなさい。必ず迎えに来ます。」
無理やりイツキを連れて行くことは、イツキにとって良くないと判断したキュウカ。心苦しくはあるが、今は先を急ぐことにした。
「魔族……魔王……全部……殺す……」
「シロ！！ 復讐に心を染めるのはいけませんわ！！ 兄様を信じるのです！！」
「……ごめん……なさい」
シロの精神的疲労も限界に近かった。今は復讐するという目的でなんとか動けているが、本来は精神が壊れてしまってもおかしくないほどのショックを受けているシロ。
もちろんそれはシロだけではなく、他の妹達も同じように不安定な精神状態だった。
そんな状態で魔王城を目指して歩き出す妹達。
全ては——愛する兄に会うために。
