82話 シスハレナイン、出動
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「すまないアーシェ、急に押しかけてしまって」
「イクス、貴方達でしたらいつでも歓迎します。それで、本日はどのような用件でこちらに? 慌てているようですが……」
「アーシェ、落ち着いて聞いてくださいまし。兄様が……失踪しましたわ」
ガタンを音を立てて倒れる椅子。アーシェは思わず椅子を倒す程の勢いで立ち上がった。
「そ、それは……どういうことですか?」
その問いに対して、イクスが起きたことの説明をする。
話を聞いていくうちに、アーシェは涙を溢した。
「アーシェ、お兄ちゃんは死んでなんかいないよ。私達が絶対に見つけてみせる」
「そう……ですよね……ルドがそう簡単に死ぬとは考えられません。わかりました。そういうことでしたら——」
"ルドを必ず見つけてきてください"
アーシェがそう言おうとしたところで、城内に大きな声が響き渡った。
『緊急事態発生! 緊急事態が発生しました!!』
「これは……」
「何が起きたのか確かめた方が良さそうですわね」
すると、1人の騎士が部屋にノックも無しに駆け込んで来た。そして、アーシェ達の元へ一直線に向かって来る。
騎士は皆の前に片膝をついて告げる。
「ご歓談のところ申し訳ございません、王女殿下。王都が……襲われております」
「襲われている!? 一体何者の仕業ですか!」
「わかりません……ただ、異形の人だという情報が入っております」
「異形の……人?」
「はい。襲撃者は皆……白い翼が生えており、頭上には光の輪が浮いているとのことです。それらが複数で王都を襲撃しております」
話を聞いた限りでは信じられないような情報が騎士の口から出た。
「わかりました。一先ずお兄様の所へ向かいます」
「なりません! 一刻も早く避難を!」
「私が民より先に逃げる事はありません。シスハレナイン、ルドの件でそれどころでは無いかもしれませんが……着いてきてくれますか?」
アーシェが妹達をシスハレナインと呼ぶ時は、第一王女として話すときだ。
「今は緊急事態ですので、まずは状況の確認をしましょう。お兄ちゃんがいない間に王都が無くなってしまったなんて、失望されてしまいますからね」
アーシェの目を見ながら答えるキュウカ。その目に写るのは、兄のように今度は私が守るというケツイの光だった。
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「アーノルドお兄様! 状況はどうなのですか?」
「アーシェ、騎士には逃げろと伝えたはずだが?」
「この状況で私だけ逃げるなんてことは出来ません」
「そうか……誰に似たんだ全く。妹達も一緒なら都合がいい。お前達の兄貴とは連絡が取れないようだ」
アーノルドの側では、ルルとララが黙って目を閉じていた。ルドに念話を送ることを何度も試みている状況だ。
「それについても私達からお話があります。緊急事態なので簡潔にお話ししますが、お兄ちゃんは現在失踪中です」
「失踪? 妹達を置いてか? 彼奴のやることとは思えんが」
「それについては……魔王の復活に関係があると思われます」
「魔王の……復活だと? 魔王の季節はまだ先のはずだが」
「何らかの理由で復活が早まった可能性があります」
「だとすると……これは魔王復活による影響か?」
「わかりません……過去の文献にも魔王の復活でこのようなことが起きたことということは書かれていません」
「間違いない……文献は全部……覚えてる」
シロが持つ知識の中にも、魔王復活と異形の人を関連付ける要素は無かった。それどころか、異形の人の情報は何一つ無い。
「とにかく、今は王都で起きている襲撃の鎮圧が最優先だ。シスハレナイン、頼めるな?」
「すみません一つだけ……シロを、お兄ちゃんの捜索にあたらせてください」
「戦力が減少するのは許容できんな。だが、彼奴が戻っくるのであれば別だ。心当たりはあるのか?」
「はい。兄は魔界に国を作ると言ってました。恐らく魔王が出現したときも魔界へ行ったと思われます。シロであれば、精霊に乗り最速で魔界へ行くことが可能です」
顎に手を当てて少しの間思考するアーノルド。
「わかった。では残りの8人は2人1組になって事態の鎮圧化を図れ。異形の人は少数でも生捕りにして欲しいが、最優先は民の安全と王都の死守だ。全て屠って構わん」
「ありがとうございます。シロ、お願い出来ますか?」
「わかった……必ず……にいさまの痕跡を……見つける……」
「頼みましたよシロ。それではシロ以外で編成を行います。1班はイクスとロッカ、2班はジーコとウド、3班はサンキとチセ、私とハーピはそれぞれの班の中心で指揮をとります。いいですか?」
「了解した」
「わかりましたわ」
「さっさと片付けて、兄様を探すデス!」
「そうだね。兄さんが住む街を壊させはしないよ」
「目に物を見せてやりますわ」
「後悔させてやりますわ」
「頑張ろぉ!」
「皆さん、よろしくお願いします」
妹達が意気込んだ後、アーシェの言葉で締め括られる。
緊急事態の対応と、ルドの捜索についての方針が決まったところで、妹達はそれぞれの役目を全うするために動き出した。
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「ヘーラクレース様、五体満足のご感想は如何ですか?」
「少し身体が鈍ってるが、悪くない」
「左様でございますか。ここからはどのようなご予定で?」
「想定よりも事が早まって果実が熟れていない。魔王は熟していたが、魔族も人間もまだだ。それに十二の試練もある。暫くは畑を見守ることになるだろう」
「畏まりました。人間界に送り込んだ天使はどういった理由で?」
「果物には、一定の刺激を与えた方がよく育つという説がある。その検証だ」
「なるほど。それであれば私の方でも少し動いてみましょう」
「減らしすぎなければ好きにして構わん。俗事に興味はない」
2人の男の会話はそこで終了し、ヘーラクレースと呼ばれた男は自身で生み出した亜空間へ入っていった。
残された1人は呟く。
「世界は、果たしてどちらを選ぶのか」
呟きが消えた頃には、部屋には誰も残っていなかった。




