81話 エピローグ
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「イツキ、大丈夫ですの?」
「うん……少し頭が痛いけどなんとか……」
「魔王が……生まれたと仰ってましたわね」
「そう……さっきまでは頭の中が魔王のことで一杯だったんだけど、少し落ち着いてきたみたい」
イツキが落ち着いてきた理由は、お師匠様が施した術によるものだ。
「イツキの具合はどうですか?」
ロッカとチセがイツキの側で看病しているところに、キュウカが訪れる。
「少し良くなってきたみたいですわ」
「そうですか。それにしてもお兄ちゃん……大丈夫かな」
キュウカが懸念していることは、ハーピの夢の件だ。
予知夢の内容とは随分とかけ離れた状況ではあるが、ルドが死ぬという夢がどうも引っかかる。
その時、
『ガシャン』
食堂の方で何かが割れる音がした。
その音を聞いたメイド妹のリンが様子を見に行く。
気になったキュウカも食堂へ行き、リンに声をかけた。
「リン、大丈夫ですか?」
「キュウカ姉様、大丈夫です! 食器棚に飾ってあったカップが割れてしまっただけですので。ただ……これはルド兄様のカップでしたのでどう致しましょうか?」
「お兄ちゃんの……カップ……?」
それは、ただのカップではない。
ルドがこの家に住む人全員分用意されたそれには、隠された機能があった。
実は、それぞれの人の魔力と繋がっている。
生命力の低下などで魔力が減少した場合、カップにそれが現れるという機能だ。
これは以前アポカリプスの謎の男と対峙した後に、ルドに教えて貰った機能。あの時もキュウカとサンキとシロとウドのカップには亀裂が入っていた。ルドが妹達に機能を説明しながら直していた記憶がキュウカにはあった。
カップが割れてしまった場合、瀕死か既に死んでいる可能性があると——
「まさか……お兄ちゃん!!」
ルドに何かがあったことを察したキュウカは、居ても立っても居られずに家を飛び出す。
『お兄ちゃん! アルファ! 無事なら返事をして!』
念話で語りかけるが返答はない。監視魔法も魔界までは届かないので何が起きたか把握も出来なかった。
生まれてきて初めて感じる類の不安。
気付けば、キュウカは涙を流しながら王都の中を走っていた。
どこに向かうという目的もなくひたすら。
『キュウカ、急に家を飛び出してどうかしましたの?』
一心不乱に走る中届いたのは、妹達全員に繋がれている回線で念話をしてきたロッカの言葉だった。
『何かあったのか? 私も今戻っているところだ』
『私ももう少しで到着しますわ』
イクスとジーコの念話も届く。
足を止め、パニック状態のキュウカは返事を返した。
『お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……』
その時、キュウカの脳裏に浮かんだのは、ルドとの幸せな日々の欠片だった。
何一つ忘れることのない大切な思い出。
それらが全て崩れていくような錯覚に陥り——
「うあああああぁぁぁぁぁ!!」
キュウカはその場で泣き崩れた。
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キュウカが目を覚ましたときに初めて見たのは、自分の部屋の風景だった。
(なんで私は自分の部屋で……)
そう思って直前の記憶を辿れば、思い出したくもないような精神的ダメージを負ったのだと理解した。
「キュウカ、大丈夫?」
声をかけられた方を向くと、そこにはウドの姿が。
キュウカが起きるまで看病をしていた。
「はい……とりあえずは……」
「びっくりしたよ。街の中で倒れてるって聞いた時は本当にどうかしちゃったかと思った。でもあれを見たら仕方ないよね。兄さんのカップを、見たんだね?」
「……」
カップが割れることがどういうことかウドも知っている。
「馬鹿だなぁキュウカは。兄さんが魔王なんかにそう簡単にやられるわけないだろう? きっと何か事情があるんだよ」
そう言ってキュウカを抱きしめながら頭を撫でるウド。
だが、キュウカはウドの身体が小さく震えていることを感じてしまった。
皆同じように不安だった。
生まれてからずっと一緒だったこともあり、目に見えない繋がりが兄妹の中にあることは常に感じていたが、今は兄との繋がりを感じられない。
それが妹達を不安にさせている一番の要因だった。
だが、だからといって不安を放置するわけではない。
「私は……魔界へ行きます」
「うん。そういうと思った。キュウカが寝ている間に私達も話し合って、同じ結論に辿り着いたよ」
ウドがそう言うと、みんなが部屋の中に入ってくる。
キュウカの周りを囲んでみんなが手を握ってくれた。
「兄上はこんなところで亡くなる方ではない。私は何があっても信じている」
「そうですわ。まだ兄様には何も返していませんもの」
「ここで死なれたら困るデス!」
「大丈夫……」
「早くお迎えに行ってあげないと、泣いているかもしれませんわ!」
「そうですわ! 私達がいないと何も出来ないお兄様ですわよ!」
「そうだねぇ。ルド寂しがってるよねぇ」
温かい思い達がキュウカの心に火を灯した。
「そうですね。ここで泣いているのは愚か者のすることでした。ごめんなさい。まだ何も決まって無いですよね……お兄ちゃんに、会いに行きます」
そう言ってベッドから出るキュウカ。
妹達は愛する兄を見つけるために行動を開始する。
妹達の本当の物語は、ここから始まる——




