80話 兄死
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
また、カクヨムの方で妹とイチャイチャするだけの物語も執筆しております。
そちらはなろうには転載しませんので、是非カクヨムでご覧ください。
魔王軍がここを訪れてから、1ヶ月の月日が流れた。
その間は魔王軍に不穏な動きもなく、教会やアポカリプスの話題も聞かない日々だった。
このまま何事もなく妹達と幸せな日々を送りたいものだ。
〔兄さん、魔族が献上品を生み出した数が大変なことになってるよ……〕
そんな都合のいい話はなかった。
〔ちなみにどれくらい?〕
〔前までは1ヶ月に1個だったのに対して……多い魔族だと1日に1個生み出してる……〕
それ程までに街での生活が良いという証拠だろう。中には意欲的に商店でアルバイトをしている魔族もいる。
本来であれば喜ばしいことだが、献上品の件がどうも引っかかる。
魔王軍も回収の頻度を高め、今は2日に1回のペースで回収している。
魔族一人一人が献上品を生み出す効率が単純に30倍になったのだ。もちろん、街に移り住む魔族は日を追うごとに増加しているので、魔族全体の生産性が上がったと言っても過言では無い。
これにより何が起きるか。
俺の予想では……魔王の復活が早まると思っている。
〔私も同じ意見だよ。本来であればあと2年の猶予があったけど、このペースだと……もういつ復活してもおかしくないね〕
だよねぇ。魔王なんて大したことないと思って放置してたけど、そろそろ考えなければいけない。
まず魔王復活で早まるメリットだ。
一番に思いつくのは、ハーピの予知夢が外れるということ。
ハーピの力もあくまでシステム内の話だからな。イレギュラーの俺が関わっている時点で未来なんてコロコロ変わるだろう。
次に、システムの歯車に歪みが生じたということ。
魔王の復活を2年も早められるのだ。これは何かしらに矛盾などが起きてもおかしくはない。
そして、デメリットだが……
もしかして無い?
〔システムが変わったことによる歪みの影響は不明だから、なんとも言い切れないけどね〕
確かに。それくらいしか思い当たらないな。
とまぁこんな感じに魔王が復活しそうなので、魔王待ちの状態だ。
魔王が復活して歯向かうならねじ伏せるし、話が通じるなら俺の国を正式に認知して貰えばいい。
「ルド、手が空いているなら教えてほしいことがあるのだが」
家のエントランスで本を読んでいた俺に声をかけてきたのは、居候のイツキだ。
そういえばイツキは……献上品を生み出しているのを見たことがないな。
「丁度今イツキに用が出来た」
「そうか、であればこの目上の人に対しての敬語? というのを」
「イツキは献上品を生み出してないけど、別に生み出さなくても平気なのか?」
「オレが喋ってるだろうが! なに、献上品? あぁ、それならお師匠様が作らなくても良くしてくれたんだよ。そういえば……その辺りから魔王の存在に疑心的になった気がするな」
お師匠様はやはり何か知ってるな。出来れば会いたいものだが……
「お師匠様には出会った森で会えるのか?」
「いつもはそう。でも……たぶんもう会えない」
「どうしてだ?」
「最後の試練として、家族を守ることを伝えられたんだ。だから人間界に行けって」
最後の試練……魂がこの世から居なくなってしまったということか。
その前に伝えることは全部伝えた、と……会ったことはないが、惜しい存在を無くしたな。魔界事情を知っていて、それをどうにかしようと考える存在なんて情報しか持ってない。
「それはそうと、オレの質問にもこたえてくれよ! 敬語ってなんだよ! 敬うってなんだよ!」
「お前に今一番足りないものだな。メイド妹達をよく見て勉強するんだ」
そう言ってその場を立ち去ろうとした時、
「あ……魔王様が……降臨なされた」
イツキはとんでもないことを口にした。
噂をすればなんとやらだな。
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イツキの言葉を聞いた俺は、すぐに自分の国へと転移した。
イツキの様子がおかしかったが妹達に任せておいた。悪いとは思うがこちらの方が優先度が高い。
〔アルちゃん、状況は?〕
〔街の中でそれらしい反応を検出したよ。魔王軍は知ってたみたいで、すぐに魔王を迎えにいったみたい〕
〔おとなしいと思ってはいたけど狙っていたのか。やはり精神力が早く集まったから?〕
〔そうだと思う……ただ、魔王になった魔族なんだけど〕
そういえば魔王は、適当な魔族を依り代にするとイツキが言っていたな。
〔……モミジだよ〕
なんだと……これは偶然か?
俺がたまたま初めに出会った女の子が魔王だと?
まだ知りもしない魔族であれば簡単に受け入れられたが、モミジとは既に面識があり、なんなら親しい間柄とさえ感じている。そう簡単には受け入れられない。
依り代となった魔族はもう戻れないとも言っていた。
そうだとすれば既にモミジの魂は無くなっているかもしれないが、もしかしたらまだ残っている可能性もある。
出来ることならば救いたい。最悪魔王を殺してでもだ。
〔もちろんだよ。そもそも誰かを生贄に降臨する魔王なんてクソ喰らえだね〕
アルちゃんも同意見のようだ。それなら、
〔モミジを助けに行こう〕
——城の外に出て魔王がいるところへ向かう。
街の道には、魔族達が並んで祈りを捧げていた。
魔王の通り道を演出しているのか。胸糞悪い。
洗脳を解いてあげたいが今は時間がない。
魔王——モミジは、既に街の外へ出る門へと迫っていた。周りは魔王軍の奴らが囲んでいる。
「待て」
俺は魔王達の前に出てその足を止めた。
「何者だ! 魔王様の御前である! 頭が高いぞ!!」
魔王軍の一人にそう言われるが、構っている暇はない。
「モミジ、聞こえるか?」
魔王となったモミジに声をかけると、こちらの目を見たが反応はなかった。
〔どうアルちゃん、モミジは無事そう?〕
〔確信をもって言い切れないけど、モミジの精神力は残ってるよ。まだ完全に消えたわけじゃないと思う〕
そうか。とりあえずは間に合って良かった。
「モミジ、今助けてやるからな。おい、魔王」
俺から目を離さない魔王に向かって話しかけてみる。
「お前が乗っ取った子を返してもらおうか」
「我は……生贄の魔王。六道と現世を行き来してはや百二十年。ついに……あのお方の元へ」
そう言いながら両手を空に向かって広げる魔王。こちらに害を加えるかは無いようだが、何かを狙っているのか?
「それはご苦労だった。だがお前が消そうとしているその子は、俺の大事な人なんだ。返してもらうぞ」
といってもどうすればいい。魔王を滅ぼせばいいのか?
〔待って、今魂に作用する術を検索してるから!〕
検索って……なに? アルちゃんって世界のデータベースにアクセスでもしてるの? 恐ろしい子や……
「嗚呼……迎えに来て下さったのですね」
その時、今までに感じたことのないプレッシャーを背中に感じる。
〔兄さん……まずいよ……逃げて!! 絶対に、たたか——〕
「おい、俺の腕を返して貰おうか?」
馬鹿な……いつの間に。気配なんて全く感じなかった。
クッソ。腹を貫かれて穴が空いてる……自己治癒の魔法が効いてない……
そいつは片腕が無い存在。残っている腕で空間をなぞると、そこから別の腕を取り出した。
俺の亜空間に勝手に入りやがって……
「イレギュラーだと聞いていたからどの程度かと思えば、所詮こんなものか。魔王もろとも回収してやろう」
腕を取り戻したそいつは、天に向け腕を伸ばし、次元の違う量の精神力を放った。
「さらばだイレギュラー。面白い取り組みだが、甘かったな」
最後に見たのは無表情でそう言う勇者の姿だった。
そして俺は——
イクス、ジーコ、サンキ、シロ、ウド、ロッカ、チセ、ハーピ、キュウカ、アルちゃん——
ごめん。
直後、魔界の街全てを飲み込むほどの圧倒的な精神力が降り注ぐ。
街も、魔族も。魔王も、そしてルドも。
全てを無に返した存在は、光が収束する頃には姿を消していた。
後に残ったのは、巨大なクレーターだけだった。




