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79話 謁見に来た魔王軍

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

また、カクヨムの方で妹とイチャイチャするだけの物語も執筆しております。

そちらはなろうには転載しませんので、是非カクヨムでご覧ください。


「ルド! 久しぶりだな!!」


「ルオ! ルオ!」


「お会いしたのはついこの間ですよ。こんばんはルドさん」


 夜——


 アルちゃんに頼まれていた仕事をするために魔界を訪れた。


 折角なので街に移り住んでくれたモミジとメズとウラさんに会いに来たところだ。


「こんばんは、夜分にすみません。こちらの暮らしはどうですか?」


「はい、とても満足しております」


「すっげーんだぜこの家! トイレがビューって!!」


「ビュー!!」


 3人にも満足して貰えているようだ。


 アルちゃんによると、俺が魔界に来て最初に訪れた村の人達は皆ここに移り住んでくれているみたいだ。


 他の魔族達も続々と集まっているらしい。


「この国は凄いです。生きていく上で困ることは何もありませんから。まだ慣れないことも多いですが」


 そう言って照れながらスマートフォンを手に持つウラさん。あれ、可愛い。もしかして妹属性持ってますか?


「それで……イツキは……」


「はい、元気にやっています。人間の常識などを知ってもらう必要があるので、まだしばらくはうちの中で勉強することになると思いますが」


「そうですか……それはよかったです」


 長女のイツキを預かっていることはウラさんには話してある。親だから心配だろう。


 イツキも頑張って人間のことを勉強していた。学園に通える日も遠くはない。


「短いですが、今日は様子を伺いに来ただけですので、これで失礼します」


「えーもう帰っちゃうの?」


「ルオー!」


「ルドさんも忙しいのです。困らせてはいけませんよ」


「今度アーシェとアルちゃんも連れてくるから。また一緒に遊ぼうね」


「わかった! 絶対だかんね!」


「アーシ! アウ!!」


 妹達の小さい頃を思い出すな。ここにはたまに顔を出すのも悪くない。


 3人が暮らしている家を後にし、元天空城へ向かう。

 王座の間という物が準備されているらしいので、そこに転移した。


 転移——


 おぉ! なんか凄いことになってるな!


 転移した先で目にした王座の間は、想像していたギラギラの王座の間というよりも近未来感溢れる空間に仕上がっていた。


 基本的には白の空間だが、所々で枝分かれした赤い光が地面や壁、天井を走っている。また、入り口から王座にかけても絨毯ではなく、赤色の光が浮かび上がっている。上手く表現出来ないな。


 まるで……SFのラスボスの空間という印象が浮かんだ。世界観が違いすぎるが、一周回ってありなのかも知れない。


〔そうでしょ? それにこれをつけてと〕


 アルちゃんが何やら魔法を発動すると、俺の来ていた服が黒い鎧にきりかわった。これは……ブラックを模した物だな。


 随分前に妹達を助けるために生み出したやつが、ここにきて日の目を見るとは。確かに見た目も厳つくていい。


〔それじゃ、兄さんはここに座っておいてー〕


 そう言われて案内されたのは、階段の頂きに設置された王座。


 うむ。悪くない座り心地だ。まるで王様になった気分だぞ。あ、俺王様目指してるんだった。


 そんなことを1人でボケーっと考えていると、王座の間に声が響く。


「魔王軍御一行、入場されます」


 考え事をやめて扉の方を見ると、赤い光の絨毯の両脇にはアンドロイドアルちゃんが整列していた。いつの間に……


 ドアが開かれて見慣れない魔族が入ってくる。あれが……魔王軍か。


 魔王軍の面々は、部屋のデザインに驚きを隠せないのか辺りをキョロキョロ見渡しながら入場し、王座へ続く階段の前まで歩いてくる。


「お主がこの街を作った者か」


「如何にも」


 それっぽい感じで喋っておけばいいだろう。


「魔王軍の許可も無しにこのようなものを作りおって。許されると思うのか?」


「これは魔王様への冒涜である!!」


「直ちにこの街を我らに明け渡すのだ!」


 おうおうおう。


 中々の言い分じゃないか。ならばこちらも反論しよう。


「街という言葉は知っているんだな。魔族は人間の常識に疎いと思っていたぞ」


「魔王軍ともなればそれくらいは知っておる」


「では何故それを魔族に伝えない?」


「魔族には魔族のやり方があるのだ」


 へぇ。そういう言い分か。


「民に献上品を生み出させるだけの日々を送らせておいてよく言えたものだ。あれのせいで民の自主性がどれほど失われているか知っているのか?」


「貴様……献上品をどこで」


 精神力で献上品を生み出すとはどういうことか。


 精神力は思いの力だ。思いとは即ち、思考を意味する。誰かを考えたり、何かを考えたりすることが精神力に繋がるのだ。


 ではその精神力を奪うとどうなるか?


 全く思考しない人形の出来上がりだ。


 もちろん魔族もそこまで精神力を失っている訳ではないが、思考力が低下しているのは間違いない。


 でなければここまで文化が発展しないことなどあり得ない。一種の洗脳といえる。


「あれを生み出し続けるということが、魔族の未来を奪い続けているのは知っているな?」


「……」


「笑わせるなよ魔王軍。運命に縛られて思考を停止し、ただ役目を全うすることを"生きる"とは言わない。それは死んでいるのと同義だ。この世に生まれた者は皆自由だとは思わないか?」


「黙って聞いていれば……調子に乗りおって!!」


 後ろに控えていた一人の魔族が火魔法を発動する。魔法陣は無い。やはり魔王軍は意図的に情報を隠蔽していると思っていいだろう。


 魔族の火魔法はそれなりの威力だ。魔術団の上位者レベルの魔法ではあるな。だが——


 火魔法は王座を囲んでいる見えない壁に阻まれて消えた。


「なっ!?」


「少し冷静に考えた方がいいぞ? この街を数日でどうやって作ったと思う。そう、魔法だ。魔王軍は、圧倒的な力の差もわからない愚か者の集団か?」


 街を作ったのはアルちゃんだけど。


 そう言ったあと、今まで黙りを決め込んでいた先頭の隊長らしき魔族が手を上げる。そして初めて口を開いた。


「此方としては、献上品さえ回収できるのであれば問題ない。それが叶わないのであれば全戦力を持ってこの地を血で染めよう」


 出来ればうるさいと言いたいところだが、残念ながらこればかりは受け入れるしかない。


 この街に住み着いてからも、魔族が魔王を崇拝する思考は無くならない。


 献上品を生み出す限り、魔族の時間は止まったままだ。


 それでも祈るのを禁止しないのは、献上品を生み出すのに使う精神力以上にこの街で刺激を受けて生まれる精神力の方が多いからだ。


 強制的にやめさせたら、それこそ民の反感を買いかねない。


 少しずつではあるが、魔族もいい方向に向かっている。


 落ち着くまではこちらとしても面倒は避けたかった。


「わかった。民も魔王への祈りは続けておる。献上品の回収だけは認めよう」


「この街に関しては魔王様が顕現なされた時に決めさせてもらう」


 もちろんだ。魔王でも何でもきやがれ。返り討ちにしてくれるわ。



 こうして魔王軍との話し合いは終わった。

 今回はジャブを打ちに来たというところか。俺がどんな奴かをその目で拝みに来たという様子だな。


 いずれ魔王軍なんて組織は一気に壊滅させよう。あの感じだと必要無さそうだし。


 それにしても、一体何故魔王軍は情報を隠蔽しているのだろうか。


〔兄さん、一つ耳に入れておきたいことがあるんだけど〕


 ん? アルちゃんか。どうしたんだろ。


〔この街にいる魔族が生み出す献上品なんだけど……量も質も上がっているんだよね……何か嫌な予感がするよ〕


 街で刺激を受けて精神力が多く生まれるようになった。それが影響していると?


〔うん。それでも前よりも多く精神力が残るから、いい傾向にあるのには変わりないんだけどね。ただ、魔王軍が大人しく引いたこともそうなんだけど、何か引っかかるよ〕


 確かに。少し気にしておくか。


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