8話 たくましい妹達
妄想上等
「シスハーレ君、これから委員会?」
「いえ。今日は委員会はお休みを頂いてます。妹達に王都を案内すると約束していまして」
教室で声を掛けてくれたのは、同じクラスのクラウス嬢。
バーホン伯爵家の一人娘だ。
「噂の妹さん達ね。あなたに9人も妹がいたなんて。驚きだわ」
強請られてもやらんぞ。妹は誰にもやらん。
「私も生まれて来た時は驚きましたが、とても可愛い妹達ですよ」
「噂をすれば……こちらを睨んでいる彼女達が、そう?」
クラウス嬢に言われて振り返れば、教室のドアからこっそりこちらを覗く妹達が見えた。
流石に9人で除いてたらバレるぞ。通り過ぎる人たちが変な目で見てるからよしなさい。
「すみませんクラウス嬢。妹達が待っているようなので、これで失礼します」
「えぇ。あなたも大変ね……」
大丈夫。俺は大変なんて思ったことはないぞ。
なぜなら妹達のために生きているんだからな。
そう思いながら教室を出ると、すぐに妹達に囲まれた。
「兄さん、お疲れ様。大丈夫だった?」
ウドが最初に話しかけて来る。
「あぁ。問題ないよ。待たせてすまないな。それよりも行こうか」
俺たちはゾロゾロと歩き出す。
「それにしても兄さんも、隅に置けないねぇ。あんな美人な人と仲良くしているなんて」
ウドが追い討ちをかけて来る。
「そ、そうですわ! あ、あの方は一体……何様ですの!」
ロッカ、伯爵様のお嬢様だからね、気をつけようね。
「お兄ちゃんに近づく不埒な虫か……うふふ」
あれ? キュウカ? そんなキャラだっけ?
「全く私達というものがありながら……スケベ!」
ジーコ、お前の言うことはごもっともだ。
そんな会話をしながら学園を出て、王都を散策する。
王都というだけあり、街は賑わっている。
メインストリートと呼ばれる中央の大きな道には、さまざまな店が並んでおり、飽きることはない。
「にぃ……さま……わたし……本屋に……」
「シロ、わかったよ。最初はみんなで本屋に向かおうか」
まずはシロの行きたがっていた本屋に向かうことに。
すると、本屋の手前の店から急に男が飛び出して来た。
「ふむ。危ない輩だ。もう少しでぶつかるところだったぞ」
イクスは飛び出しを察知して回避していた。
だが続いて、店から一人のおばさんが飛び出して来る。
「ど、泥棒よ!! 誰かそいつを捕まえて!」
ふむ。こうもテンプレ展開が続くとはな。
よし、ここは一つかっこいいところを見せて、妹達に出来るお兄ちゃんアピールをしとくか。
と思っていたが、ジーコがなぜか弓を引いている。
「兄様とのデートを……邪魔した償いは受けてもらうわ!」
おうおう、デレデレモード炸裂だ。
ジーコは得意の弓で矢を放った。矢は泥棒の進行方向に刺さり、思わず足が止まる。
「盗み……ダメ……」
今度はシロが魔法を唱えたようだ。
これは水魔法か。泥棒の頭上から水が滝のように落ち、びしょびしょになっている。
「鬼さんは、君だぁぁぁ!!」
最後にサンキが高速で泥棒に接近し、顎に一撃拳を入れる。
泥棒はトリプルコンボであっけなく気絶してしまった。
「ふむ、終わってしまったか。せっかくのチャンスであったのに」
イクスは抜いた剣を鞘に収める。トリプルコンボで済んでよかったな泥棒さん。
それにしても、アピールしたかったのは俺だけではなかったようだ。
「いい連携だった。みんなちゃんと訓練して来たんだな」
「あ、当たり前でしょう! 本当はみんな首席なのよ!」
実はみんな同率で首席だったが、代表してキュウカが挨拶を行ったらしい。
本当に誇らしい妹達だ。
「あぁ。俺はみんなの兄でいられて幸せ者だな。負けないように努力するよ」
そんな話をしていると、先程のおばさんが声を掛けて来た。
「本当にありがとうございます! よかったらうちの店を見ていきませんか? 皆さんになんでもお一つづつプレゼントしますよ」
おばさんの店は女の子が身につける雑貨を売ってる店だった。
泥棒さん、この店から何を盗みたかったんだよ。おばさんのハートか?
まぁ好意でもあるしここは有り難く受け取っておこう。
俺たちは雑貨屋に入ると、妹達は興奮して各々の見たいものを見に行く。
ふむ。イクスは鞭が気になるのか。なんで雑貨屋に置いてあるの?
ジーコは可愛い人形が気になるみたいだ。似合う。
サンキはグローブか。さっき殴ってたしな。なんで雑貨屋にあるの?
シロは女の子向けの本を見ている。そういう本も好きなんだな。
ウドは下着。なかなか露出がすごいな。なんで雑貨屋にあるの?
ロッカとチセは髪留め。確かに二人とも付けてるしな。
ハーピはベッドで横になる。なんで雑貨屋にあるの?
キュウカは鏡を見ていた。美人になった理由がわかる気がする。
それぞれに見ていた妹達だが、やがて一箇所に集まり出した。
最終的に考えることは一緒なんだな。
「お兄ちゃん、これにしようと思います!」
みんなが手にしたのは、色のついたリボン。
イクスは青。
ジーコは赤。
サンキは黄色。
シロは白色。
ウドは茶色。
ロッカは黄緑色。
チセは緑色。
ハーピはピンク色
キュウカは紫色。
そして俺が手渡されたのは、黒色のリボン。
「これで、みんな色違いのお揃いですね」
みんなが笑いながら俺を見ている。
あぁ。ちくしょう。
可愛過ぎだろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!