76話 ヒュドラーと九星の巫女
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
また、カクヨムの方で妹とイチャイチャするだけの物語も執筆しております。
そちらはなろうには転載しませんので、是非カクヨムでご覧ください。
「みんな、アルちゃんが隠し部屋を見つけたみたいなんだけど、どうする?」
「隠し部屋!! 行きたいデス!!」
「よしそれじゃ、いってみようか」
隠し部屋は草原の地面に隠し階段があり、その奥に続いているようだ。四大属性の魔力を注げば階段への道が開くようだな。
サクッと魔力を注いで階段を出現させ階段を下っていく。すると、一つの部屋に辿り着いた。
「5階層と6階層の間でしょうか?」
「ダンジョンは亜空間だからね。そうとも言い切れないよ」
「あそこにあるのは……宝箱でしょうか?」
部屋の奥には宝箱が置かれていた。通常であれば喜ばしいことだが、このテンプレ……
「罠だね」
「罠だと思おう」
「罠ですわね」
「え? 罠なのデスか?」
さすがに露骨すぎよサンキ。まぁサンキは罠なんて正面からねじ伏せれる力があるから関係ないかもしれないけど。
さて、何が起きるだろうか。
俺たちは罠だと思われる宝箱に近づき、触れてみる。
すると、部屋の中が徐々に大量のモンスターで埋め尽くされていった。
「モンスターハウスか」
「もんすたーはうす? それはなんですの?」
「罠の一種で魔獣が大量に湧くことだよ」
「いいねそれじゃここは私に任せてもら——」
「ウド! ここはもう6階層のようなものですわ! ならば私の出番ではなくて?」
「え〜まだ途中だったのに。まぁいっか」
ウドは優しいな。ロッカに出番を譲ってあげるようだ。
ロッカは愛用のステッキではなく鞭を取り出し一歩前へ出た。強くなり過ぎたせいか、人間や弱い魔物のときは鞭を愛用しているロッカ。
「さ、お仕置きの時間ですわ」
鞭を鳴らし、向かってくる魔獣を迎撃する。
おいおい、なんで鞭が刺さるんだ……魔法でヒット時に硬化と鋭利化してるのか。すごいなこれ、兜割りとかと同じ要領じゃないか?
烏合の衆である魔獣達は、前の方からロッカに処理されていく。
一応魔獣のレベルも5階層付近では考えられない強さだけどな。ロッカには関係ない。
だが、戦闘はあっけなくは終わらなかった。
「数が多いな」
「そうだね……もしかして、無限に湧き出るとかないよね?」
キュウカも同じことを考えていたようだ。
ロッカが戦闘を始めてから数十分、魔獣は止めどなく湧き出てくる。
ロッカが倒した魔獣の数は1000を軽く超える。これでは普通の冒険者であれば絶対に生き残れないカオスな罠だ。
それに魔獣の素材が残らないことも気になる。これは、魔力に戻って再度構築されている、リサイクルか? であれば——
「ロッカ、悪いけど交代して貰ってもいい?」
「もう充分ですわ。正直飽きて来たところですわ」
そりゃ1000体以上も同じ魔物を鞭でペチペチしていれば飽きもする。
さて、アルちゃん。
〔呼ばれると思った。それで、魔力に還さなければいいの?〕
〔いや、一旦魔力を集めてリサイクルさせない方向でいこうか〕
〔はいは〜い〕
「それじゃ早速、魔力還」
俺は魔獣達を一度魔力の状態に戻す。そして、アルちゃんの超正確な魔力操作で魔力に還った魔獣達を一箇所に集めて留めた。
俺だけでも出来そうだが、アルちゃんの方が完璧だからな。
さて、これで魔獣は……
「収まったみたいだな」
「流石です兄上」
「随分凶悪な罠でしたわね。普通の冒険者であれば脱出不可能ですわ」
うむ、もっと我を褒めよ妹達よ。俺は妹達に褒められて伸びるタイプだ。
さて肝心の宝箱だが……
「中身は……空か。どういうことだ?」
「上げて落とすタイプかな……どうしてこんな……」
そのとき、空間に魔力の作用を感じる。これは——転移か?
抗うことも出来たがここは素直に正規ルートに従ってあげよう。
俺たちは謎の転移へ別の場所に飛ばされた。
目の前の景色が変わって、最初に目にしたのは湖だ。
「ここは……どこですの?」
「う〜ん……ダンジョンの中だとは思うけど……」
「くる」
シロが声を上げたとき、湖に巨大な何かが出現する。これは……なんだ?
9つの首を持つ魔獣? だが魔力ではない。これは精神力か?
ということは……精霊? 似たような存在感は放っているが。
「お兄ちゃん、これと似たものを……見たことがあるよ」
「そうなのか? どこで見たんだい?」
どうやらキュウカだけではない。他の妹達も見たことがあるようだった。
「お兄様が……暴走したときですわ」
え? まじで?
確かに9つの首を持つ存在になる寸前とは聞いていたが、こんな禍々しいシルエットだったの?
てかなんで俺がそんなものに……
そのとき、脳内に声が響く。
『我が名はヒュドラー。海蛇を座する者なり』
おっと、これは大物が釣れた予感がする。海蛇ときたか……
『九星の巫女よ。相見えるこの日を待っておった』
『勝手に話しているところ悪いが、お前はなんだ?』
『アルファルドよ。お主と話す時では無い』
アルファルド? 誰のことだそれ。なんか的を得ている言葉だな。
と思ったら言葉も発せないし、身動きも取れない。アルちゃんも応答しない。なんだこの状況?
『九星の巫女よ。名を教えてはくれんか』
馬鹿野郎が。うちの妹達には知らない人に個人情報を教えてはいけませんって小さい頃から教えてるんだよ。その言いつけを破ることなんて——
「イクスだ」
「ジーコよ」
「サンキデス」
「シロ」
「ウドだよ」
「ロッカですわ」
「チセですの」
「ハーピぃ」
「キュウカです」
ってウッソーン。あれ、目の奥から光が消えてる。洗脳か……?
『九星の巫女よ。世界の歯車は狂い出しておる。時の流れに歪みが生じておる。覚醒の時は……目の前だ』
勝手にペラペラ喋りやがって。お前が妹達に何かしてるのか?
〔やっと戻れた! 兄さん、まずいよ!!〕
おぉアルちゃん! どこにいってたんだよ! 寂しかったぞ!
『歪なものが紛れおったか』
〔まずいバレた!! とにかくこれを聞いて!〕
アルちゃんが急いで何かを繋いでくれた。
「兄上……お助け……」
「なんですの……私の中に……」
「気持ち悪いデス……」
「飲まれて……いく……」
「まずいね……これ……」
「やめて……くださいまし……」
「いやですわ……こんな……」
「ルドぉ……」
「お兄ちゃん……ごめん……」
妹達の魂の叫びだった。
コロス。
『アルファルド、我が魂より落とされた子よ、お主が……イレギュラーに取り憑かれていたとはな』
全身から制御出来ないほどの力が溢れてくる。
だが前回のように自分を見失ったりしない。なぜなら、
俺には妹が付いていると信じているからだ。
「さっきから意味のわからんことを言ってるが、お前には消えてもらう。それが嫌なら妹達を解放しろ」
『我を消す? 海蛇を座するこの我を? 私から生まれ落ちた存在に寄生する者が偉そうでは無いか』
「二度は言わん。早く解放しろ」
『消えるのは貴様だ。星を失うのは痛手だが、イレギュラーである以上仕方あるま——』
ヒュドラーが言い終える前に、首を一つ落とす。
「かはっ……兄上!! お逃げください!!」
イクスが正気に戻った。が、首がまた生えて来てイクスは再び目の光を失う。
なるほど……首と連動しているのか。
『我を屠りたければ、お主の妹達を殺す他にない。果たしてお主にそれが出来るか?』
そうか……であれば、
お前と繋がっている妹達の繋がりを断ち切り、奪い去ってやろう。
抑えていた力を解放し、俺はヒュドラーと同じ形をした化け物へと姿を変えた。
そして、9つの首全てを俺の9つの首で喰らいつく。
『貴様如きに何が出来る。何の意味も……なんだと?』
感じる。ヒュドラーの首にある妹達の繋がりが。それは、オレダケガモッテイイモノダ。
『クッ……イレギュラーめ。小癪な!』
ヒュドラーの胴体が俺に向かって突進してくる。その衝撃で噛んでいた首が肉を抉って離れてしまった。ならば何度でも。
『九星の巫女よ。いずれ我らは一つになる定めだ。再び相見えようぞ』
俺が再度噛みつこうとしたとき、ヒュドラーは湖から消え去ってしまった。それと共に俺たちも強制的に転移させられる——
あいつは一体何だ? 妹達との繋がり? そしてアルファルド。
ただの妹達とのデートだったはずなのに、予想外の出来事に巻き込まれた。
とりあえず、妹達には申し訳ないがダンジョンには今後立ち入らないで貰おう。恐らくここがあいつのテリトリーだ。そんな気がする。
そんなことを考えていたら、転移先についたようだ。
そこは、見覚えのある扉の前だった。これは、ボス部屋特有の扉だな。
〔ここ250階層だよ。多分最下層。大丈夫?〕
え……まさか……
さっきのショートカットイベントだったの?




