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72話 魔族の子のホームステイ

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

「待ちくたびれたぜ、今日は1人なんだな?」


「あぁ、早速本題に入るぞ」


 次の日の放課後、俺は魔界でイツキに出会った森の中を訪れていた。イツキと交渉するためだ。


「まず、人間界に連れて行く準備は出来た。だが条件がある」


「条件? 一体何をさせようってんだ?」


 胸を抑えながらそんなこと言うな。妹属性が無ければ残念ながらエクスカリバーはピクリともしないぞ。


 俺は特にツッコむことも無くイツキに条件を話した。


 人間と魔族の交流が可能か見極めるため。

 魔法を覚えて貰うため。

 魔族の常識や価値観を知るため。


 簡潔に言えば、あなたを利用するってことだ。その代わりに人間界でのサポートをするという交換条件。


 イツキはその話を聞いて少し悩むが、最終的には納得してくれた。


「わかったぜ。ただ、オレの家族は?」


「それについては考えがある。実は近々この辺に、人間と魔族が交流出来る国を作ろうと思ってる。魔族も、もう少し他の世界に目を向けた方が、より豊かになれると思ってな」


 魔族の件は建前だが、俺の国を中心として魔族が変わっていくのは間違いないだろう。


「なぁ……あんたって、実はすげぇ奴なのか?」


 さぁね。妹達を守るという一点に関しては世界で一番凄い自信はあるけど。


 ただ守られてくれていれば楽ではあるんだけどな。誰に似たのか、妹達も俺を守りたいと思ってくれているし、なんなら全てを守りたいとまで考えている。


 俺は妹達のそんな願いを支えたい。全力でな。


「よし、それじゃいこうか」


「わかった。母ちゃんと妹達にはしばらく家を開けると伝えてきたから大丈夫だ。1日くらいで往復出来る距離なのか?」


 はははははは。面白いことを聞くね。


「何を言ってる、一瞬だ」


「え……えぇぇぇぇ!? ここはどこだ!?」


 森で「え?」と言ったのに次の瞬間には俺の家で「えぇぇぇ!?」と叫ぶイツキ。こいつ……面白いな。ことごとくテンプレ的な反応を見せてくれていじりがいがある。


「ここは俺の家だ」


「さっきまで森の中にいたじゃないか!」


「転移したからな」


「テンイ……?」


 今わからないのは仕方のない事だ。今後知っていけばいい。


「ルド様、おかえりなさいませ。そちらの方は……イツキ様でしょうか?」


「お、おい……誰だよ……」


「あぁ、俺の家でメイドをしてくれてるユナさんだ。メイドっていうのは、身の回りのお世話全般をこなしてくれる人のことだな」


「そ、そうか。よろしくユナ」


「はい、よろしくお願いします。既にお部屋の準備は整っておりますが、ご案内してもよろしいですか?」


「お願いします。荷物を置いたらそのまま食堂に。夕食を食べながらみんなに紹介しますので」


「畏まりました。それではイツキ様、こちらになります」


 ユナさんはイツキの大きな手荷物を持って部屋へ向かった。イツキは終始キョロキョロしているな。


「お兄ちゃん、今のが?」


「あぁ。魔族の子、イツキだよ」


「お兄ちゃんがまた女の子を連れてきた」


 あら、キュウカ的にはちょっと嫌だったか。


「すまない。出来れば少しの間仲良くしてやって欲しい」


「いいよ。お兄ちゃんに変な気を持たない内はね。その代わり指令はちゃんとやるんだよ?」


 もちろんだ。妹達の指令は今の俺の中でも最優先事項だからな。


 先に食堂に移動して、みんなが集まったところでイツキがユナさんに連れられて食堂に入って来る。


「おぉ……どうも……」


「あなたがイツキか。私達は兄上の9つ子の妹だ。これから一つ屋根の下で暮らすことになる。仲良くしていこう。私は長女のイクスだ」


 妹達が順番に自己紹介をして、メイド妹達も同じように自己紹介をした。


 イツキはその度に「よろしく……」と呟くだけだった。二日前とは別人のように縮こまってるな。


「さ、イツキ。みんなみたいに自己紹介をしてくれるか」


「自己紹介か……おしっ。オレの名前はイツキ。魔界からやってきた魔族だ」


「……」


「……」


 続く言葉を待ったが、一向に言葉が出てくることはなかった。


「……えっと、それだけ?」


「ん? そうだけど……」


 そうか。生まれたときから特定の魔族としか関わらないから、自己紹介なんてしたことがないのか。


 これは教えることが山程ありそうだ。


「まずは自己紹介から教えていくか」


「そうですわね……」


 ジーコも同じことを思ったようだ。呆れたというよりも、仕方のないといった感情の方が大きいな。


 魔界に国を作る上での参考にさせて貰おう。


 それから、夕食をとりながら色々な話をした。


 基本的には魔族のことだが、妹達が人間はこうという話を交えてくれるので互いに利益のある情報交換になったと思う。


 一番驚いたのは、魔王は誰かの身体を依り代にするという話だ。


「オレが聞いた話によると、ある日突然魔王になるんだって。オレは魔王の季節をまだ知らないけど、村の奴らが魔王軍に言われたらしい。魔王になった奴がいたら報告して、魔王城に連れてかれるんだってさ」


 魂が乗っ取られるのか、それとも同居するのか?

 確かにこの世界では魂さえあれば問題ない。肉体はどうとでもなるしな。


「みんなはそれを誉れだっていうけど、オレはやだよ。お師匠様によると、魔王になったらもう自分には戻れないって言われてさ。それに、村の奴らも家族も喜ばないといけないんだって。魔王が降臨したって」


 日本の赤紙のようだな。祖国のために戦争に駆り出される子供を万歳しながら見送る。


 そんな状態ってことは、魔王に命令されればなんでもやる下僕と変わらないな。


 一種の宗教のようにも感じる。魔族の意識改革が必要だ。


 話が終わると、次はお風呂だ。


 今回は妹達がイツキと入ってくれるようだ。

 魔族は風呂という文化もなく、基本は水浴びしかしないらしい。


 まるで原始人だな……


 さて、みんな風呂に入ってしまったし、メイド妹達も夕食の片付けをしてくれている。


 今日はジーコを寝かしつける日だが、時間はまだありそうだ。であれば——

 俺は転移で魔界の建国予定地へと転移する。


 転移して驚いた。既に街を囲む壁が出来ている。さすがだなアルちゃん。


〔当たり前でしょっ! 1000体も入ればちょちょいのちょいよ〕


 今はアルちゃん部隊を全力で投入して、街を作ってもらっている。

 街へ入る門をくぐれば、統一感のある建物がいつくか建てられていた。明日からでも少しくらい住めるんじゃ無いか? ちなみに真ん中は天空城を置くように大きな窪みが出来ている状態だ。


 あとはどう国として認めてもらうかだが、そもそも魔界には国がないから魔王軍に認められればいいというわけだ。


 ここで遊んでいれば嫌でもあちらからコンタクトがあるだろう。


 その後、徐々に人間との交流を始めて、人間界の各国に国として認めさせればいい。


 魔界にある国だから、魔の国とかになるのか? 表向きはそれでもいいか。

 一応裏向きは世界のシナリオをぶっ壊すことだが、他にも考えていることがある。


 それは、ここを妹達の国にすることだ。


 恐らく勇者を中心としたこの物語が終わっても、世界は止まることなく回り続ける。


 俺は妹達が天寿を全うするまで、健やかに暮らして貰いたい。


 そのためには、妹達のためだけの国があればいいと思ったのだ。


 ゆくゆくはこの王都を中心に9つの街を作り、妹達一人一人の手で街を育ててもらいたいと思ってる。


 イクスであれば騎士の街かな。

 ジーコであれば弓の街?

 サンキは武術の街。中二病の街もありだろう。

 シロは自然の街。

 ウドは音楽に溢れた街とか合いそうだ。

 ロッカとチセは冒険者の街とかいいな。互いにどちらの冒険者が強いか競いあっても面白そうだ。

 ハーピは眠る街。眠らない街はイメージがつくけど、眠り続ける街もありじゃないだろうか。

 そしてキュウカは政治の街。他の妹達の街を管理したり、他国と交渉したりするのもいい。


 妹達の個性を活かした街を作って、一生をかけてやってみたいことに存分に取り組める環境を準備してあげるつもりだ。もちろんみんなに意見は聞くけどな。


 その場合、ヒュトラ王国との関係性や立場も考えなければいけないが、上司の許可は下りているのでなんとかなるだろう。


 出来上がっていく街を見ながら、柄にも無くワクワクしてしまった。


 さて、妹達の指令を全うするために今日はもう帰ろう。

 今日はジーコの寝顔を存分に眺めさせて貰うか。


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