69話 妹属性持ち以外には圧が強め
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「事情がわからなければ連れていくことは出来ない」
魔界に初めて訪れた日の帰り、魔族の女の子であるイツキに人間界に連れていって欲しいと言われた。また逆ナンだ。
「そこをなんとか……頼むよ!」
脳内を覗いてもいいが、あまり気が進まないんだよなぁ。
変なことを知って責任を感じるのも嫌だし。
「残念だけどそれは出来ない」
「くそっ……だったら……力尽くでも!」
そういって腰から短い剣を抜くイツキ。
抜いたな?
「アーシェ、下がってて。アルちゃんアーシェを頼む」
「あいよー」
「気をつけてくださいね」
さぁて、行儀の悪い小娘を少し教育してあげないとな。一教育者として。
「怪我をしたくなかったら黙って連れてってくれ」
「御託はいい。さっさと来い」
少し煽ってみると、怒ったイツキが叫びながら近づいてくる。
「どうなっても知らねぇぞ!」
うん。おっそいなぁ。
身体強化も使えないのか? 魔力はある筈だが。
そのまま剣で切りかかってくるが、避けるまでも無い。
殺気も感じないし魔力も乗ってないし、力任せの一撃。
とりあえず人差し指と親指で剣の側面を掴む。
「なっ!?」
「人間を舐めすぎでは? 魔法も使わないで勝てるとでも思ったか?」
驚きを隠せない様子のイツキ。すると、ビクともしない剣を捨てて後退した。
「ならお望み通り……オレの魔法を見せてやる!」
そう言って魔法を使うイツキ。だが……
「全てを焼き尽くす冥界の業火! バーンファイア!」
詠唱っ!? まじかよ!
旧石器時代じゃあるまいし!!
イツキから放たれたのはごく普通の火属性魔法。
これなら当たってもカスほどのダメージも受けない。
今回は避けずに食らってみよう。
「どうだ! 舐めた口を聞くからこうなる……なっ!?」
爆発で起きた煙が消え、俺が無傷で立っていることに驚くイツキ。
そろそろいいか。
一瞬でイツキの隣に移動し、手首を掴んで足を払う。そのまま仰向けに倒して、先程イツキから奪った剣を首に突き付ける。
「さぁ、人間界に行きたい理由を吐いて貰おうか」
イツキは何が起きたのか理解が追いついていない顔をしたが、一瞬で状況がわかったのか涙目になっている。
「兄さん、そろそろ勘弁してあげたら〜?」
妹属性が無いとどうしても厳しくなってしまうな……
「お話ししていただけませんか? 大丈夫です。悪いようにはしません」
アーシェとアルちゃんが近づいて話しかけた。この状況は女性に任せるのが一番だな。
イツキは少し考えたが、コクリと頷いたので俺も剣を引いた。
「ルド、テーブルと紅茶を出せますか? リラックスした状況でお話ししましょう」
アーシェにそう言われたので、簡易お茶会セットを亜空間から取り出す。ちなみに勇者の腕を保管している次元とは違うところだから安心して欲しい。
そのままお茶会の準備をしたアーシェは、イツキを座らせて紅茶を勧める。
森林のど真ん中で優雅なお茶会が始まった。
「まず、お名前を聞かせてください」
「……イツキ」
「もしかして……モミジとメズのお姉さんですか?」
「え……なんで知ってるんだ!?」
俺は知っていたけど。アーシェには気付けなかったようだ。まぁそこまで授業を進めていないしな。
「先程あなたの村で一緒に遊んだのです。二人とも元気で可愛い妹さんですね」
「そっか……妹達と遊んでくれてありがとう……」
警戒心は完全には消えないが、少しは信用してくれたみたいだ。
「それで、何故人間界に? モミジやメズ、ウラさんは置いていくのですか?」
「それは……お師匠様に言われたんだ……」
お師匠様か。
「お師匠様とは、どのような方なのですか?」
「お師匠様は、オレに狩りや魔法を教えてくれた人だ。あの人が、人間界に行けって……」
「何故お師匠様は人間界に行けと?」
「家族で住める場所を探せって……2年以内に」
家族を連れて逃げろということか。
2年後といえば魔王の季節がやってくる。
「誰にも話しちゃいけないって……」
「2年後といえば魔王の季節がやって来ますが、何故逃げる必要があるのですか? 魔王は魔族の王様では?」
「オレはそう聞いて育って来たよ。魔王様が誕生したらお祝いをしなきゃいけないって」
横の繋がりが無いのに、どうやって魔王が誕生したかを知るんだ? 魔王軍が伝えるのか?
「ただ、お師匠様が今回は"生贄の魔王"が完成するって……オレにもよくわからない」
生贄の魔王……そのための献上品か? 魔族を生贄に捧げて誕生するのだろうか。
出来ればお師匠様とやらにも話が聞きたいところだが。
「話はわかった。でも今すぐには連れていけない。その話が本当かどうかもわからないしな。ただ、必ずどうにかすると約束しよう。俺も魔族に危機が迫っているならなんとかしたいと思っている」
もし魔族が生贄ならば、それを行わせないことでさらに世界の歯車が狂う筈だ。
魔界で国を作るのは確定だな。
「だが……」
「そうだな……2日後のこのくらいの時間に必ず来る。それまで待ってはくれないか」
「……わかった。あんたの強さを見込んで今日は帰ることにするよ」
「ありがとう。それじゃ俺たちも今日は一旦帰るよ。ちなみに、お師匠様はどこにいるんだい?」
「お師匠様はどこに住んでるかわからないんだ。森の中でしか会ったことがない。会うのはオレが狩りをしている間だけさ」
〔イツキの言ってることに嘘は無いよ。それとお師匠様だけど、多分肉体がある存在じゃない……〕
ほう。それは面白い情報だ。
となると精霊か……アポカリプスの黒マントみたいな奴か?
〔会わないとわかんないかな。私たちの前に姿を現してくれればだけど……〕
今は考えても仕方のないことか。この先、嫌でも知ることになるだろう。
「ありがとう。それじゃ二日後にまた」
「あぁ、よろしく頼むよ」
俺達はそのままイツキに別れを告げ、姿が見えなくなったところで転移をした。
別れる直前イツキの足が震えていたのは気のせいだろう。
まずはアーシェの送迎だ。
既に学校が終わり、放課後になっていた。
アーシェを一瞬で制服に変え、アンドロイドアーシェとアンドロイドルドを人気のないところで回収する。
「それじゃ、帰ろっか」
「そうですね。その前に——」
アーシェが何かを言いかけたかと思えば、俺の頬に軽く触れるようなキスをした。
「今日は楽しかったです。私の希望を叶えてくれて有難うございました」
俺は終始情報集めしかしていなかったが、アーシェにとってはすごく新鮮で楽しい時間になったみたいだ。
たまにはこうして出かけるのも悪くないな。
「俺もアーシェと一緒で楽しかったよ。意外な一面も見られたしな」
「意外な一面?」
顔を傾けながら考えるアーシェ。うむ。可愛い。
「よし、それじゃ帰るよ」
「はい、今日もお願いします」
そう言って手を繋ぐ俺とアーシェ。本来転移に手を繋ぐ行為は必要ないのだが、初めて一緒に転移した時からこれがデフォルトになった。
特別感があるとアーシェが気に入っているためだ。
そのまま転移でアーシェを送り、家に帰る。
家の前まで転移し、扉を開ける。
わかっている。わかっているよ?
妹達が全員、家のエントランで俺を待ち構えていることは。
「お兄ちゃん〜? 一体アーシェと二人で何をしていたのかな?」
俺はとりあえず妹達の前にジャンピング土下座で——
「すみませんでしたぁぁあぁぁぁあああ!!」
こういう時は誠心誠意謝るしかない。
〔兄さん謝ればいいと思ってるよね最近。まぁ姉さん達も甘甘だからなぁ〜〕
「兄上! 次からは我々にどこに行くかくらいは教えて欲しいです!」
「そうですわ! 何も言わずに行動するのは兄様の悪い癖ですわ!」
「私も行きたかったデス!」
「私は……無事に……帰って来てくれる……なら」
「シロ、甘すぎだよ! そんなだから兄さんはまた何も言わずに出てくんだから!」
「そうですわ! 今日もどれだけ大変だったか!」
「アルファも同罪ですわ!」
「ルドは今日一緒に寝てくれるの〜?」
「お兄ちゃん、この後全部聞かせてくれるんだよね?」
何でだろう。怒られているのに——
妹パワーが溢れてくるぅぅぅぅぅぅ!!
悪くないな。
〔ダメだこりゃ……兄さんのせいで私も怒られてるよ〜〕




