68話 魔界事情
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「こんにちは、私は人間のルドです。こっちはアーシェで、こっちがアルちゃんです」
「ルドにアーシェにアルチャン! 面白い名前だな!」
「ルオ! アーシ! アウ!」
「おいらはモミジ! こっちは妹のメズだ!」
メズはまだ2歳になる前くらいで、言葉を喋れるようになったばかりのようだ。
モミジはメズよりもお姉さんで、8歳くらいだろうか。しっかりしている。
「よろしくね。2人はここの村の子?」
「そうだよ!! うちはあと、おっかぁとねぇちゃんと4人で暮らしてる!」
「おっか! いっき!」
ほう。2人とも他人の妹達属性持ちか。アーシェと同じだな。
「よろしければ少しお話しませんか? 美味しい紅茶を出しましので」
「いいよ! あっちにうちがあるから!」
そう言ってアーシェの手を引くモミジ。メズも反対側で手を繋ごうとするが、モミジが早くて追いつけない。
それにアーシェが気付いて少し待って手を繋いであげた。
なんだろう。
こういう一面を見ると素敵な女性だと改めて感じる。
これからは、もう少しアーシェといる時間を作ろうと思った。
「私達もいこっか、兄さん」
俺達はモミジとメズのお家にお邪魔することになった。
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「うーん。そうじゃなくてこうだよっ!」
「先生、もっといつものように理論的に教えて頂けると……」
「理論っていってもなぁ……空気を圧縮するだけなんだけど……」
アルファは困っていた。
実践してみたは良いものの、空気の圧縮について生徒達が理解出来ずにいた。
アルファ自身はルドから生まれたAIであるものの、知能が高すぎるが故に生徒達が何がわからないのかが理解出来なかったのだ。
「そうじゃありませんわ。このようにして——」
その時、ロッカがこちらに来て教え始めた。
よくよく周りを見れば、他の妹達もわからない生徒に教えてくれている。
「こうなると思いました。アルファ」
「やっぱりキュウカ姉にはバレてたか」
「他の妹達も状況は把握しています。お兄ちゃんが操っていればこうはなりませんからね。全く……私達を置いてアーシェとイチャイチャして……」
「ほ、ほ、ほら、そこはやっぱ婚約者なんだし? 兄さんも気を利かせたんじゃないかなー?」
「まぁいいです。私達もフォローしますので、今日の授業を乗り切りますよ」
「ありがとぉぉキュウカ姉さん!!」
キュウカに抱きつくアルファ。
でも側から見れば授業中に妹に抱きつく兄の絵だ。
周りからは黄色い声援が上がるのは当然のことだった。
今日一日で、ルドが築き上げて来た良い先生のイメージが完全に崩れ去った。
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「おっかぁ! お客さんを連れて来たよ!」
「あら、どうもこんにちは。人族の皆さんですね?」
モミジの家に招待された俺達は、お母さんであるウラさんと挨拶を交わした。
「うちにはモミジとメズの他に、15歳のイツキという娘がいます」
長女のイツキは15歳か。妹達と同じだな。
「今回この村を訪れたのは、魔族の方々との交流を目的としてまして、宜しければ少しお話を伺ってもいいですか?」
「もちろんです」
俺とウラさんはテーブルに座り、アーシェが出してくれた紅茶を飲みながら話をした。
モミジとメズは、アーシェとアルファと一緒に遊んでいる。
「まずは国のことについてなのですが、魔界にはどのくらいの国があるのですか? 知っている限りで構いません」
「そうですね……恐らく魔界には国という概念がありません。私達も、国という概念は過去に訪れた人族の方の話でしか聞いたことがありませんでした」
国が無い……?
統治されておらず、ある程度の集団で好きに暮らしているだけなのか?
「この村以外にも魔族は住んでいるんですよね? その魔族達と交流であったり、揉め事のようなことはないんですか?」
「定期的に魔王軍の方が来られることはありますが、他のところに住んでいる魔族が来るといったことはありません。他の魔族については魔王軍の方からお話は伺っていますが」
魔王軍か。
「その魔王軍とは?」
「文字通り、魔王様に仕える魔族の方達です。季節の変わり目に、現世に現れる魔王の身の回りのお世話をしています」
「魔王がいないときは?」
「そうですね……魔王の住居のお掃除をしているのでしょうか?」
魔王軍が何なのかは、魔族の人達でもよくわかっていないということか。
「そうですか。ちなみに魔王軍の魔族は何のために村を訪れるのですか?」
「それは、魔族の使命である"献上品"を受け取りに来るためです」
献上品?
「献上品とは何か伺っても?」
「はい。少しお待ちください」
そう言って部屋の奥の方へ行くウラ。
少し待っていると、ウラが一つの箱を持って戻ってきた。
先程いた席に座り、箱をテーブルの上において開く。
「こちらが献上品になります」
中には、直径3cm程度の小さな玉が入っていた。その玉は眩い光を放っている。
嫌なことを知ってしまった。
これは、精神力の玉だ。精神玉といってもいい。
魔族には精神力を知っている存在がいる? なんの目的で精神力を集めている。
「これは、どうやって作るのですか?」
「はい、毎日魔王様に祈りを捧げると、月の初めに生み出されるのです」
祈っただけでこんな物が生み出されるわけがない。何か仕組みがある筈だ。
そして目的もわからない。何の為にこんな物を集めているのか。
今回は深く調査などを行うつもりはないが、いずれは調査が必要だな。魔王関連の情報は全て知っておきたい。
「ありがとうございます。色々と知ることが出来ました」
「こちらこそ、人族の方とお話出来てよかったですわ」
ほっぺに手を添えて微笑むウラさん。あれ、人妻の魅力……悪くないぞ。
〔みんなに言いつけちゃお〕
おっほん! とりあえず最低限のことは聞けたな。
この情報から考えるに、国を作ることは出来そうだな。魔王軍はあくまで魔王に仕えているだけで土地の管理などや魔族の管理などは行っていないみたいだし、作っちゃって魔王が生まれたら交渉してみよう。
案外魔族の人達と同じように温厚かもしれないし。
殺される予言はあるが、それは力でねじ伏せればいい。
〔精神力を扱える可能性がある点は注意が必要かもね〕
そうだな。そうと決まれば一旦今日は帰ろう。今後はここを拠点にして、良さげな土地を探すか。魔族にもコミュニティーを広げてもらい、横の繋がりを作ってあげればより歴史を大きく動かせそうだ。
「アーシェ、アルちゃん、今日は帰ろうか」
「もうそんな時間ですか? 楽しかったですねモミジ、メズ」
「うん! アーシェまたくる?」
「アーシ! アウ!」
「はい、また一緒に遊びましょう」
モミジとメズにも挨拶をして帰ることに。長女であるイツキは狩りにいってるみたいなので、今度会えたらいいな。
俺達はモミジ達の家を後にして、村長にお礼を言って村を出た。
アーシェの色々な一面も見れたし、新天地の調査も行えた。初回の成果としてはいい出来だ。
そんなことを思いながら歩いていると、
「待て。お前達、人間か?」
今度は一人の女性? にナンパされた。
魔力の感じでわかる。この娘、モミジのお姉さんのイツキだ。
妹達と同い年だが、少し幼く見える。あ、妹達が大人びすぎているだけか。
「そうですけど、どうしましたか?」
「たのむ。何も聞かずにオレを人間界に連れてってくれ」
オレっ娘キタぁぁぁぁぁぁあああ!!
だが妹属性は無い。残念。




