65話 帰ってきた日常
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「というのが今回の調査で分かったことだ」
「それが、勇者の右腕か」
俺は現在アーノルドの部屋に来ていた。
アポカリプスのクソガキを「結!滅!」した後、妹達との再会を喜んだのも束の間、騎士団の皆さんの容体がおかしいことに気付く。あと数分もしないうちに毒で死にそうなところだった。
そこで俺が一気に回復しようとしたところ、ウドが「私に任せて、兄さん」といって祈りを捧げるポーズをとった。
「お願い。みんなを治して」
すると、ウドの精神力が毒を調和していき、ついでに団員達の精神力を回復していた。すげぇなこの精神術。
毒は魔力でも回復出来るものだったが、精神力まで回復させるとは。
「どう? 少しは役に立てるようになったでしょ?」
「あぁ、流石だなウド」
そう言って頭を撫でてやると、気持ちよさそうな顔をして受け入れてくれた。
それをみた妹達から「私も頑張った!」アピールをされたので、みんなの頭を撫でていく。
ただ、その中で1人俯いている妹がいた。
「どうしたんだい、キュウカ」
「私には……お兄ちゃんに褒めて貰える資格なんてない」
そういうキュウカは泣きながら今の思いを吐き出した。
俺が連れて行ってくれなかったことに対して、まだ信用されていないのかと思っていたこと。
だからこそこの任務で完璧な成功を収めて認めて貰おうとしたこと。
でも結果的には他の妹達も、騎士団も危険に晒してしまったこと。
そして最終的には俺に頼ってしまったこと。
キュウカにその気は無いかもしれないが、その言葉には精神力がのっていたため、騎士団の皆さんはキュウカの涙に吊られて嗚咽を吐きながら泣いていた。おっさん達の泣く姿なんて需要そんなに無いぞ。
「キュウカ、俺はそうは思わない。キュウカがいたからこれだけの被害で済んだんだ。それに、俺はキュウカに助けられた」
そう言いながら、キュウカを抱きしめて頭を撫でる。
「あの時、孤独の闇に呑まれそうな俺を助けてくれたのは、みんなの、キュウカの声だ。1人でも欠けていたら俺は戻れなかったかもしれない。謝るなら俺の方だ。世話をかけてごめんなキュウカ」
「ずるいです……お兄ちゃん」
俺の胸の中でワンワン泣くキュウカ。しっかり者のキュウカが泣くことは滅多にない。これは貴重だ。俺の自動撮影魔法の全リソースを投入して、キュウカの泣き顔を1万枚は秘蔵フォルダに入れておこう。頑張れ、自動撮影君。
キュウカがひとしきり泣き終わった後は、事後処理を行った。と言っても、ダンジョン産の魔獣は消えてしまったし、たまたまついてきた魔獣の処理を騎士団の人が処理してくれて、余った人員は拠点の撤去をするくらいだった。
クラウスさんへの報告はキュウカに任せた。俺は今回の任務には関係ないからな。顔を見たい気持ちもあったが、それはまたの機会でもいいだろう。
俺は一足先に王城へ戻り、第一王子であるアーノルドに報告をしたところだ。
なんか忘れている気がするが……
「それでこの勇者の腕はどうする気だ?」
「俺でも触れれないが、扱えるのも俺だけだ。だから俺が生み出した別次元で管理することにした。俺が1番安全だろう」
「その場合、お前に刺客が差し向けられることになるが?」
「それはしょうがない。他に頼める奴がいないからな」
精神力を操れるのは、知っている限りだと俺と妹、そしてアルテミスくらいだ。
妹達に任せるのは論外。アルテミスに頼むような事でもない。必然的に俺になる。
「わかった。こちらとしても教会とアポカリプスの動向には目を光らせておく」
それからは色々なところに挨拶して回った。
アルテミスや魔術学園、実家、騎士団長等の関係者だ。
少し慌ただしい日常にはなったが、帰還してから3日後には教職に復帰していた。
「みんな、私用で休んでいてすまない。遅れを取り戻せるように頑張るからよろしく」
「大丈夫ですよ、先生っ! それよりも、分子と魔法について早く授業をしてください!!」
日常っていいな。なんか帰ってきた感じがすごい。
それにしても何か忘れているような……
と思った時、バンッ! という音とともにドアが思い切り開かれた。
「隊長……僕達のことを忘れたなんてことはないですワン?」
「ずっと一人で寂しかったにゃ……置いて帰るなんて……なに考えてるニャ!」
まっずーーーいっ。
なんか忘れてると思ったら、初めてダンジョンに一緒に潜ったパーティーを置いてけぼりにしてた。
「先生その子達は??」
「誰でしょうか? 獣人の……子供?」
「まさか……先生の子だったりして!」
「キャー! ありそう!! 隊長だって!! 軍隊ごっこでもしてるのかな?」
「寂しくてここまで来ちゃったんだね! かわいい!」
おっと、生徒達が変な方向に勘違いをしている。だが本当のことを話すわけにはいかない。さて、どうしたものか……
その時、教室内に剣を地面に突き立てる音が響く。
「皆、鎮まれ。兄上、そ、そ、その子達は一体誰ですか?」
「まさか本当に……兄さんの子じゃ……」
「私達を差し置いて!? どうなんですかお兄様!」
「言い逃れは出来ませんよお兄様!!」
「ルド、私はあなたの婚約者です。まさか、私に隠し事なんてありませんよね?」
待て待て待て待て、みんなには説明してなかったっけ!?
〔してないよ〕
そっかぁぁぁぁ。そうだよねぇぇぇぇぇ。
さて、場が荒れる前にあれを使おう。
俺は教師だ。教師には、こういう時に使える特権というものが存在する。
俺は黒板にチョークで大きく文字を書いていく。
俺が発動させる特権——それは、
「みんな、今日は自習だ」
そのままルルとララを連れて転移した。
校舎裏に転移した俺は、とりあえず土下座をする。
「ごめんなさい」
「むぅ……そこまで謝れると怒れないワン……」
「仕方ないニャ……一回ガチの戦闘訓練で許してあげるニャ」
ふぅ。この場は何とか収まった。
やはりミスをした時の正解は、誠心誠意謝ることだ。言い訳などは決してするべきでは無い。
「まだこっちの話は終わってないよ、おにぃちゃーん?」
膝を突いたままの俺の肩に、そっと手が置かれた。
すんごいいい香りが鼻から入って全身を駆け巡る。
「自習と言ったはずだけど?」
「そ、それよりもその子達は何っ!!」
「部下だ」
「そんな小さい子が部下なわけがないでしょ! お兄ちゃん、ふざけると怒るよっ!!」
くぁぁぁあ可愛いなおいぃぃい。
とは言っても本当のことなんだよなぁ。
それから誤解を解くまでに30分程かかった。キュウカとイチャイチャ出来たからいいとしよう。他の妹達にも会話内容は念話で飛ばしていたので理解してくれたはずだ。
こうして本当の本当に、日常に帰ってきたわけだ。
今回のことでよく分かった。俺は、本当に妹がいないとダメダメだということ。
あの力が何だったのかはわからない。神様から貰った力なのかな?
アルちゃんは何か知ってるみたいだけど、頑なに教えてくれないし。
結果的には妹達に助けて貰ったからよかったものの、まじで危なかった。
この世界のことについてもまだ知らないことが多すぎる。
それらを調べることも大事だが、それ以外に1番大事なことがある。
それは、イレギュラーになりきることだ。俺はこの世界のシナリオの歪みになる必要があると感じた。
このクソみたいなシナリオを終わらせて、妹達が幸せに生きていける世界を創る。
そのためには——
「建国でもしよっかな」




