64話 妹に手を出した奴には、完全なる無を
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「へぇ、人間の身でそこに辿り着くんだ。面白いね」
「兄さん……それは……ダメ……」
良くない力だと直感的にわかったキュウカが、ルドに声をかけるが届かない。
〔みんな、聞こえてる? 今は時間が無いからとにかく聞いて!〕
そのとき、聞き覚えの無い声が頭の中に響く。
『キュウカ! この声はなんだ? そちらで何か起きているのか?』
『ごめんなさいイクス……お兄ちゃんが……』
〔ごめん、時間がないから簡潔に説明するね。私は兄さんが生み出した新しい妹よ。今は兄さんの中からみんなの中に話しかけているの〕
状況が全く掴めないイクス班と、現場にいても困惑するキュウカ班。
〔今兄さんは危機に瀕している。この危機を脱するにはみんなの力が必要なの。今からこっちにイクス達を転移するよ〕
そう言うと、イクス、ジーコ、ロッカ、チセ、ハーピが強制転移でこちら側に移動してきた。
「キュウカ! サンキ! ウド! シロ!」
「ごめんね……」
イクス達が現場に到着すると、倒れている妹達に駆け寄り、回復魔法をかけていく。
〔回復しながら聞いてね。兄さんは今良く無い力を目覚めさせようとしている。とにかく、その力を目覚めさせてはダメ!! それを止めるために、みんなの精神力を借りるわ!〕
「精神力……? それは一体なんだ?」
〔ごめん! それも説明している暇はないの! とにかく、兄さんのことを強く思って声をかけ続けて!!〕
そうこうしている間にも、ルドの体は黒く染まっていく。
「へぇ、どこに座する者かと思えば孤独なものねぇ。面白いじゃん」
「油断するな。奴は既に精神力を使う」
「おわっ! 急に出てくるなよ! それに腕、なんであいつに取られてんのさ」
「泳がせてみただけだ。結果、面白いことになっただろう?」
「確かに……これは、いいねぇ」
キュウカ達を瀕死に追いやった男の隣に、黒マントの男が現れて何やら話をしている。二人は妹達に一切興味を示していなかった。
その時、ルドの体から溢れる黒い光が形を成していく。
「ほらきたっ、覚醒するんじゃない?」
「おかしい、伝承にはまだ今は覚醒時期ではない。イレギュラーの可能性があるから注意しろ」
そこには、9つの首を持った巨大な生物の影が浮かび上がっていた。
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あれ、ここはどこだろう。
俺は何をしているんだろう。
確か昨日は会社に行って、帰りには妹妹パラダイスの新作を買って帰ったはずだ。
それを今夜はクリアしなきゃいけなかったはずだ。
あれ……もうクリアしてたっけ。
そうだそうだ。あれはひどかった。最後に妹が死ぬエンドなんて、俺の心をどれだけえぐったと思っている。泣ける? 馬鹿を言うな。殺す気か。
次は……新しい妹に会いにいくんだっけ?
そうだ……俺死んだんだっけ。
あぁ、そうだった死んだんだった。
てことは俺はもう魂だけの存在か。
そっか、どんなに好きだった妹達も、死んでしまったら会うことはない。
俺は結局孤独なまま死んでいくんだ。
俺は……誰にも……愛されないまま——
「兄上……兄上!!」
なんだろ、どっかから声が聞こえる。
「兄様! 嫌ですわ! 兄様!」
あぁ、なんかいい声だ。暖かい。
「兄様! 目を覚ますデス!!」
ずっとこの声を聞いていたいな。
「ダメ……にいさん……!!」
どうしたんだろ。
「兄さん! 帰ってきて!」
どこか悲しんでいる気がする。
「お兄様! お兄様!!」
どうしたんだい、そんなに泣かないで。
「どうしてしまったのですかお兄様!」
あぁ、そうか。
「ルド! ルドォ!!」
俺は……俺は——
「お兄ちゃん。安心して、私達はそばにいるよ」
こんなにも愛されているじゃないか——
「あれれ? 収まってきちゃったよ?」
「伝承違いで抑制されたか? 覚醒はまだということだ」
あぁぁぁぁぁ、首痛ってぇ。
なんか9つに首が裂けたみたいな痛さだな。
とりあえずだ。
「みんな、ありがと」
振り返らずに、背中越しに、感じる俺の存在の全てにお礼を告げる。
「よくぞお戻りで……」
「全く、世話が焼けますわ!」
「遅いデス!!」
「怖かった……」
「兄さんは馬鹿ですわ!」
「本当ですわ!」
「ヒヤヒヤさせないでくださいまし!!」
「ルド!! おかえり!!」
「お兄ちゃん、ごめんね……あとは任せます」
ふぅ。少し取り乱しちゃったようだ。テヘッ
〔テヘッ☆ じゃないわよ!! 本当に大変だったんだから!〕
あまり覚えてないけど、なんか大変なことになってっぽいね。ありがとアルちゃん。
〔本当にわかってるの!? 全く!!〕
アルちゃんを怒らせてしまった……ごめんヨォ……
それよりも、まずはこの状況をどうにかしようか。
「お、黒マント。お前もいたのか」
「悪運が強い男だな。まさかあそこから帰ってくるとは」
「ほんとつまんない〜ねぇねぇ、もう一回やっていい?」
「あぁ、妹達に救われたよ。お前はなんでここにいるんだ?」
「その腕を返してもらいに来た。それは我々のものだ」
「おい! シカトすんなじゃ」
「ダマレヨ、クソガキ」
お前に発言権はない。もう少ししたら殺してやるから黙ってろ。
「ほう……精神力で拘束するとはな……アンタレス、俺は引かせてもらうぞ。お前はどうやら踏んではいけない虎の尾を踏んだようだ。この場合は首か」
「んんんん!!」
「えぇ、仲間の危機なのに冷たいな」
「であれば見逃してやってくれるのか?」
「無理な相談だ」
「そうであろう。二人もここで落ちるのはまずい。俺は逃げさせてもらう」
流石にこのクソガキを対処しながら黒マントを逃さないようにするには、今の俺には出来ないなぁ。
「いずれお前とも決着をつける」
「いいだろう。我が名はカマリ。その腕はいずれ返してもらう。それまで大切に保管しておくんだな」
え、そう言われると壊したくなっちゃうんだけど……怒られるかな?
今は壊せそうにないけど。
そんなことを思っていると、カマリの姿が消えていく。とりあえず手を振っておいた。
さて、
「お前には罪が3つある」
そう言いながら、口の拘束だけを解いた。
「おまえふざけんな! なんだこれ! 早く解きやがれ! くそっカマリの奴逃げやがって……二人でやればこんな奴」
ドゴォォォォオオオオオオ!!
うるさいのでとりあえず腹パンをしておく。もちろん精神的にね。
「1つ目の罪は、妹を傷つけたことだ」
「ぐぅぅぅ……ざけんなよ……こんなんで」
ドゴォォォォオオオオオオ!!
「2つ目の罪は、妹を悲しませたことだ」
「がはっ……そ、それがなんだって」
ドゴォォォォオオオオオオ!!
「3つ目の罪は、妹の視界に入っていることだ」
「そ、それは!!」
「さて問題です。魂を持った精霊のような存在を殺す方法が存在するのでしょうか」
「……」
「問題の意味がわかりませんか? ではわかりやすく説明しましょう。お前を殺す方法を俺が持ち合わせていないと思っているのか?」
「……何をするつもりだ」
先程の精神パンチは、ダメージを与えることは出来ても殺すことは出来ない。
一応魂に直接攻撃出来ているが、魂はそんなに脆くは無いからな。
であれば、どうやって殺すか。
精神力を枯渇させれば、この世界に留まることが出来ないと考えているが、魂を殺すには到らない。出来ても輪廻に帰るとかその程度のことしか起きないだろう。
俺はこいつの魂を完全に無に返したいのだ。
そこで閃いた方法がある。
ここに来る前不思議な光景を目にした。それは、枢機卿の最後だ。
勇者の腕に寄生された枢機卿は、心臓は動いているのに死んでいた。生命活動は続けているのに、精神力が完全に無くなっていたのだ。
〔確かに枢機卿の魂は消えていたけど……するどいね兄さん。やっぱり妹のことになると優秀なんだね。それにしても性格悪いねぇ〕
そう。ここに、精神的な存在に対して最強の剣、エクスカリバーがある。
「おい……その勇者の腕をどうするつもりだ……」
直接触れるのは危ないので、精神的な力で持ち上げて、試しに近づけてみる。
「やめろ……それをこっちに持ってくるな!!」
ビンゴだ。
今の俺は多分ニタァって顔をしているのだろう。
「おい、そんなことをして何になるんだ……ふざけんな! 俺は養分になんてなりたくない!!」
養分か。消えると言うよりは吸収なのか? まぁどちらにせよ、こいつが消えるならなんでもいいや。
「ふははははははははは、俺の妹に手を出したこと、後悔しながら消えろ」
「やめろ! やめてくれ! 頼む!! やめてくだ! あぁぁあああああああああああああああああ!!」
勇者の腕で、クソガキの頭を撫でてあげた。
「いやだ!! 消えたく無い!! 消えたく!! やめろぉぉっぉおおおお!!!」
へぇ、魔力で構成された肉体には寄生したりしないんだな。
もうちょっと観察したいから一度離してみる。
「て、てめぇ……悪魔か……」
ピタッ。
「あがあぁぁぁっぁあ!! やめろよぉぉぉぉ!!」
こいつ面白いな。リアクション芸人に向いてるんじゃ無いか?
残念ながら、お前に来世は無いがな。
そのまま精神力が食い尽くされ、完全に消えるまで俺はクソガキの頭を撫で続けた。
最後には涙とか流して命乞いしていたが、妹に手を出した時点でお前の運命は決まっていた。その選択をしてしまったのはお前自身だ。
さて、邪魔者もいなくなったしゆっくり妹達を愛でるとしよう。
なんか勇者の腕がめっちゃ光ってるけど、まぁいっか。
俺は妹達の元へ向かい、みんなと再会の抱擁を交わした。




