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63話 黒光の兄、見参

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

「お邪魔しております」


「ええ、自分の家だと思って楽にしてください」


 キュウカはとある場所を訪れていた。


「それにしても、まさかシスハーレ君の妹さんが救援要請に来てくれるなんてね」


「まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いいたします」


 キュウカの対面に座るのは、クラウス・バーホン。

 バーホン伯爵家の一人娘で、ルドの幼馴染。魔法学園にルドが入学した時からの付き合いだ。


「噂は聞いていましたよ。シスハレナイン、素晴らしい部隊ですね」


「ありがとうございます。クラウス伯爵令嬢は魔術団に入団されたと伺っています」


「そんなに固い呼び方はしなくていいのよ。シスハーレ君の妹さんだもの、今はお互い友人でしょ?キュウカさん。今は領地に魔獣が多く出現しているので許可をもらって帰省をしていたのですわ」


「それでは失礼して……クラウスさん、これから魔獣の討伐作戦を開始します」


「はい、どうかよろしくお願い致します」


 クラウスの親であるバーホン領主は、現在王都にて対応を行なっている。

 そのためこの領地は娘のクラウスに任されているという状況だった。


 キュウカは作戦を行うことを報告に来ていた。

 他の妹達と騎士団の第三部隊は既に現場に向かっている。

 すぐにキュウカも合流する予定だ。


「すみません、私も同行して力になりたいのですが……」


「私達に任せてください。必ず魔獣を殲滅して、日常を守ってみせます」


 キュウカはクラウスにそう告げて、バーホン家の屋敷を出る。


『シロ、転移をお願いできますか』


『わかった……』


 シロにお願いするとキュウカは目の前が白く染まり、次の瞬間には草原地帯にやって来た。


 周りでは騎士団の団員達拠点とするための準備を行なっていた。


「キュウカ殿、ご苦労様です」


「お待たせしましたエルガーさん。状況は?」


「はい、現在は拠点を設営中ですが、調査班は既に調査を行わせております。今の所、前情報通り巨大なケルベロスが複数の魔獣を率いてる状況です。ダンジョン産と、現地の魔獣も含まれているとのことでした」


「把握しました。規模は?」


「恐らく……100体の魔獣は超えるかと思われます。内訳は、大型ケルベロスを異常種と呼称。それ以外はBランク相当の魔獣が20、Cランク相当の魔獣が30、Cランク以下の魔獣が50程度だと報告を受けています」


 100体の魔獣。


 この世界でも、数の暴力は圧倒的だった。

 100体の魔獣であれば、普通の街は余裕で壊滅するレベルだ。


 ルドのような強さを持っていれば全く無問題だが、大量の魔獣を一気に殲滅することは容易ではない。


 魔獣のランクは冒険者の討伐推奨ランクを表しており、Bランクの魔獣であれば、Bランク冒険者パーテーが討伐を推奨されるレベルの魔獣であることを示している。


 もしこの魔獣の群れがバーホン領の街を襲えば、ひとたまりもないことになってしまう。


「わかりました。異常種は私達4人で対処致します。他の魔獣の足止めは騎士団の方でお願いできますか?」


「任せてください。頼りきりで申し訳御座いません」


 正直騎士団で異常種以外をすべて対処するのは厳しい。

 不可能では無いが、そうなると負傷者が多く出てしまうことになりかねない。


 今回の作戦では、異常種を妹達が迅速に対処し、足止めをしている騎士団に加勢して被害を最小限で終わらせることを目標にしていた。


 この魔獣異常発生は各地で起きているため、騎士団はここの対処が終われば次の場所へ行かなければならない。


 魔術団も各地に派遣されており、人員は限られている。安全第一が求められるのだ。


 申し訳なさそうにするエルガーに、笑顔で答えるキュウカ。


 その姿を見ていたエルガーだけでなく、周囲の団員達も一瞬心を奪われたのは仕方のないことだった。


(絶対キュウカさんの役に立つ……!)


「それでは準備が出来次第、殲滅作戦に取り掛かります」



 ———————————————————————



「ウド、そのまま気を引き続けて! シロとフェルは小型の狼を処理! サンキは必殺の一撃の隙を伺って! タイミングは指示します!」


「おっけー! 任せて!」


「フェル……次はあっち」


「アウォーン!!」


「もう少しでイケるデス!!」


 状況は悪くない。異常種のケルベロスもノーブルの召喚したケルベロスよりは強力で、小型の狼のような魔獣を発生させ続けるが、そちらはフェルに跨ったシロに対処させている。機動力を持った砲台の完成だ。


「騎士団の皆さん、無理はいけません! もう少しで私たちも加勢しますので、持ち堪えてください!」


「うぉぉぉぉっぉおおおお!!」


「わかりましたキュウカさんっ!!」


 キュウカは支配の力で騎士団にバフを与える。これでよっぽどのことがなければ壊滅することもないだろう。


「準備できたデス!!」


「発射の方角はケルベロスの下からよ! ウド、離脱して!」


「やっと準備完了か! 任せたよサンキ!!」


「いくデスよぉ!! アルティメット・カタストロフィ!!」


 サンキの全てを無に返す必殺技が異常種ケルベロスの命を狩り尽くす。

 それと同時に小型の狼達は消え去り、どこか統率されていた魔獣達も同士討ちなどを始めた。


「そのまま魔獣を殲滅します! 最後まで気を抜かないで!!」


 その後は問題なく魔獣を殲滅していく。

 妹達が加われば、100体の魔獣の殲滅に時間を要することはなかった。


「やりましたね、キュウカ殿」


「えぇ、ありがとうございます。エルガーさん」


 魔獣の殲滅は終わり、これで任務は達成。

 バーホン領の日常は守られた。


「そりゃ、ノーブルには少し厳しい相手だったわけだ」


 突然、背後から聞き覚えのない声が聞こえる。

 キュウカ達は、一瞬で警戒を強めた。


「あれ? びっくりしちゃった? 初めまして、次代の鍵の少女達」


「見たところあなたの方が幼く見えますが、何者ですか」


「あはは、確かにそうだね。やっぱり近くで見ても殺すのはもったいないくらいかわいいな」


「あなたがこの件の首謀者ですか?」


「ん〜それはどうなんだろうね? 僕らの主がやったことだから、間接的には僕も首謀者なのかな?」


「主とは誰ですか? なぜこのようなことを?」


「質問ばっかりでつまらないなぁ。どうせなら君のことをもっと教えてよ。君の……血の色とかさァ!!」


 その時、風の斬撃が飛来するのを感じて、キュウカは咄嗟に体をねじって回避する。


 だが、完璧に回避することは叶わず肩を負傷してしまった。そして背後にいた団員が真っ二つになる。


「お下がり下さい!! キュウカ殿!!」


「ダメです! これはあなた方ではどうすることも出来ない相手! すぐに逃げてください!!」


 剣を抜いてキュウカの前に達エルガー。

 その姿を見て次々と抜剣する騎士団の団員達。


 他の妹も、既に謎の男を取り囲んでいた。


「アハハハハ、弱いくせにかっこつけちゃってさ。きめぇな」


 謎の男がそう告げると、騎士団の団員達が次々に意識を失っていく。


「何をしたの、やめなさい!!」


 キュウカが叫び、シロが咄嗟に魔法を放つ。

 しかしその攻撃は謎の男には届かない。


「うるさいからちょっと静かになるお薬を盛ってあげただけだよ。大丈夫、あと10分もしないでみんな死ぬから」


「最低だなこいつ……」


「今すぐやるデス……!」


 そう言って謎の男に接近するウドとサンキ。キュウカとシロも補助に周り、完璧なコンビネーションで攻めていく。


 だが、どの攻撃も謎の男に届くことはなかった。それどころか、妹達は反撃を貰う一方だ。


「あぁもうめんどくさいな。これあげるよ」


 謎の男が右手に小さな魔力球を出現させる。小さいが、濃度がおかしい。


「シロ、魔法障壁を!」


「間に合わ……」


 かろうじてシロが魔法障壁を展開するが、重ねがけることは出来なかった。

 謎の男が小さな魔力球を握りつぶすと、巨大な爆発が発生した。


 妹達も騎士団も、全てを飲み込んでしまった。


「えぇ? まさかこれで終わりじゃないよね?」


 爆発の煙が晴れると、地面に倒れている妹達の姿があった。


「こ、これは……まずいかも……」


「みんな……生きてる?」


「一応大丈夫……デス……」


 このままではやられてしまう。直感的にそう感じた妹達。


(お兄ちゃんに頼ることしか出来ないなんて嫌……私たちも力になりたい……でも……)


 兄はこのような化け物達から自分たちを守ってくれていると知ってしまった。

 だから私達は連れて行かれなかったんだと。

 信じる信じないの問題ではない。次元が違う世界で戦っているんだ。

 私たちを守るために——



(ごめんねお兄ちゃん……私達……まだ何もわかってなかったんだね……)



 兄の言う通りに守られていればよかったのか?

 そうだとしても、もう遅い。

 せめて、自分以外の妹は逃がさないと。


 キュウカは最後の力を振り絞って、支配の力で妹達を洗脳し逃がそうと考えたその時。


 今一番会いたい、でも自分が情けなくなってしまうので会いたくない人が現れた。


「お……お兄ちゃん……?」


「に……兄さん……来てくれたんだね……」


「恥ずかしいところを見られたデス……」


「ごめん……なさい」


 他の妹達も同じように感じていたようだ。

 言葉に乗る思いには、どこか申し訳なさが感じ取れる。


「あれれぇ? 君は何かな急に出て来て? それと……なんでそれがここにあるんだ?」


 兄の足元には、異様な存在感を放つ人の腕が落ちている。見ただけでわかる、触れてはいけない存在。


 だが、今はそんなことはどうでもいい。

 そんな歪な存在よりも、もっと気になることがあった。


「オマエ、ナニヲシタ?」


 それは、全身から黒い光を放ち、目から血の涙を流す兄の姿だった。


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