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62話 なんだこれ

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

「ボスの部屋はまだ見つからんのか」


「恐らくそろそろかと」


「うむ」


「少し休まれますか?」


「今は一刻も早く勇者の右腕を回収せねばならん。全く、何故私がこのようなところまで回収しに来なければならないのだ」


 へぇ、勇者の右腕ね。


 まさか封印って、バラバラにされているの? それ死んでない?


〔顔、胴体、右腕、左腕、右脚、左脚、右手、左手、右足、左足、心臓、脳に分けられて封印されてるんだって〕


 アルちゃん有能過ぎ。てかなんで俺でもまだ知っていないことを知っているんだ?


〔だってあいつの脳を解析すればわかるじゃない。なんで兄さんはやってないのよ〕


 確かに。言われてみればそうだな。

 おっさんの脳みそなんて読み取ったら、嫌な情報とかありそうで抵抗があったんだよ。だってさ……偉いおっさんだよ? 絶対変な癖とかあるよ。


〔はぁ……兄さんって、ハイスペックなのにちょっとお馬鹿さんだよね〕


 お馬鹿さんは言い過ぎだろ……だが嫌いじゃない。


 黒マントの男と一戦交えた後、調査を再開した俺は一目散に枢機卿がいる場所を目指して来た。


 そしてやっと見つけたのが20階層だ。


 ここは天井も高く、幅もある道で構成されたエリアだった。


 現在俺はコウモリのように天井に張り付いてぶら下がっている状態だ。なんとなく腕を組んでいる。


 隠密関係の魔法も使っているので、バレることは無いだろう。


〔さっきの黒マントは近くにはいないみたいだね。そっちは任せてよ。兄さん頼りないから〕


 すごく頼りにしている。アルちゃん。

 ぶっちゃけここにいて俺の脅威になる相手は今の所あいつだけだ。


 現在、ここには俺含め3つの勢力がいる。


 まずは20階層の探索を行なっている教会関係者。あ、そっちの道は行き止まりなんだよなぁ。さっきの道を右に行かないとボスの部屋には辿り着けないよ。


 そして俺と同じように隠密魔法で姿を隠してそれを見守るアポカリプスの赤マントの集団。集団といっても4人しかいないが。その中に一人諜報員もいるとのこと。


 これらの情報もアルちゃんに教えてもらった。どうせならマントの色も統一しろよと思ったのだが、どうやら派閥で色々あるらしい。まぁ世界屈指の闇組織も一枚岩ではないということだ。


 てかアルちゃんマジで有能。1番の懸念は有能過ぎて俺が乗っ取られないかだが。

 正直AIを作ることに躊躇していたのはそれが1番の理由だ。アルちゃんだったら、並列思考とか余裕で実現できるから1000体のアンドロイドを操作して国落としとか出来そう。


〔出来るとは思うけど、兄さんから生まれたんだから兄さんの考えに沿わないことはしないつもりだよ〜。今わね〕


 あらまっ。恐ろしい子っ。

 まぁなったらなっただ。こんなに可愛いんだから、アルちゃんに罪はない。


 さて、これからどうしようか。


 まず案としてあるのは、ボス部屋に先回りして枢機卿が探している勇者の右腕を回収すること。


 次に教会関係者とアポカリプス関係者からの情報集めだが、これはアルちゃんが既に終わらせている。


 ここの階層にいる人間の脳は全部スキャン済みとのことだ。

 その情報によると、アポカリプスの奴らは調査というよりも護衛依頼を受けてここにいるらしい。


 教会が闇の組織に護衛依頼するか? すごく怪しい。

 上司に言われるがままやって来ただけの末端兵らしく、詳しい情報は持っていなかった。


 そして枢機卿だが、どうやら教会の中でも汚い金が大好きな部類の人間らしく、勇者のことについてはほとんど情報を持っていなかった。


 知っていることとしては、教会は血眼になって勇者の各部位を探しているということ。そしてそれがここ最近(はかど)っているということ。


 今回も教皇に、いついつに新しいダンジョンが出来るから、そこの20階層のボス部屋にある勇者の右腕を回収してこいと言われただけだった。


 金の力でのし上がって来た枢機卿も、流石に教会のトップには逆らえないのでこうして足を運んでいるということだ。


 一応、聖なる力も使えるらしい。


 教皇は何か知っていそうだな。なんなら教皇以外知らないのでは?


 気になる点としては、なぜ枢機卿でなければいけないのか。

 こんなおっさんを行かせるよりも、見張りをさせている騎士に普通に取りに行かせればいいのに。


 そして、各地に出現する魔獣の謎が解明出来ていない。

 このダンジョンで見かけた魔獣ばかりが出現していることは明らかだが、それを行なっている奴が見当たらない。


 お、どうやら行き止まりに気づいて戻って来たようだ。


 先回りして腕を回収する案だが、なんか引っかかるので一旦やめておく。


 まずは枢機卿に回収させて奪うことにしよう。枢機卿が来た理由が引っかかる。

 もしかしたら聖なる力を使える者しか触れれないなどの制限があるかもしれないし。


 もうめんどくさいから別ルートの道は塞いでおこう。これでボス部屋までは一直線だろ?


 早く辿り着いてくれ。所定の残業時間超えちゃうよ。


 そうして教会関係者を誘導すること20分。少し怪しまれたがなんとかボス部屋に誘導することが出来た。


 教会関係者が扉に入っていくので、扉が閉まる前に俺も入る。アポカリプスの奴らも入っていったな。


 ボス部屋は10階層と同じく、円状の大きな部屋だ。亜空間だな。


 だが、そこにいたのは異質な存在だった。


 見た目はケルベロス。これは10階層と同じ。使い回しかよとも思ったが、ここはケルベロスのダンジョンなのかもしれない。おかしいのは、ケルベロスの真ん中の顔に、人間の腕が生えている。


 あれは……ヤバい。


 何がヤバいって、精神力が異常だ。四大精霊の存在感なんて比にならない。

 腕だけであれか……全部くっついたらヤバいんじゃね?


 入って来たドアが閉まると、部屋にはケルベロスだけでなく、このダンジョンんで遭遇した魔獣が大量に出現して部屋を埋め尽くしていく。


 教会の奴らは、近くにいる魔獣の対処に追われてケルベロスに構う余裕なんてない。なんとか1体づつ処理する護衛達だが、魔獣が増える一方で全く意味がない。


 その時、ケルベロスに寄生していた腕が突然枢機卿の元へと飛んでいった。

 腕をなくしたケルベロスはそのまま肉がなくなり骨だけになってしまう。もちろんボスが死んでクリア扱いなので、21階層へ続く扉が開かれた。


 枢機卿に飛んでいった勇者の腕は、枢機卿の右腕を吹き飛ばし、枢機卿に寄生する。なんだこれ。


「アガァァァァァ!! 腕が!! 私の腕が!! 誰だっ! 何を喋っている! やめ……」


 突然狂い出した枢機卿。騎士達は魔獣を対処しつつも枢機卿に声を掛けるが、その声は届かない。


「ああぁぁぁぁぁぁ!! アハハハハハハハァ。やはり人間の体は良いものだ」


 あちゃ〜、乗っ取られちゃった。どうするアルちゃん?


〔たぶん魔獣が出現していた原因はあの腕ね。自身が操った魔獣を次元を超えて送り込んで、情報を得ていたんだと推測するわ。あれの対処だけど……出来れば逃げる一択ね〕


 逃げるね……この状況でそれは選べないな。


 あれは放置すると良くない気がする。勘だが。


〔であればスピード勝負よ。まず腕を切り離して腕を回収する。もちろん触れちゃダメ。あとは私が兄さんの精神力を使って封じ込めるわ。でもそれも長くは持たない。あとは……出来れば精神力が溢れている場所か人のところにいければいいのだけど……〕


 精神力が溢れる? それには心当たりがある。


 その前にまずは腕の処理だな。


 俺は一瞬で勇者の腕持ち枢機卿に迫り、精神力の剣を生み出して腕を切る。


〔任せてっ!!〕


 腕が切り離された瞬間、アルちゃんが勇者の腕に精神力の圧をかけていく。おぉ、腕が地面に落ちてピクピクしている。


 最後の抵抗なのか、周りにあるものをどんどん転移させ始めた。魔獣も教会関係者もアポカリプスの人間が次々と消されていく。


〔ダンジョンで次元を超える方法が解析出来たわ! この腕も少しは役に立ったわね! 精神力が溢れている場所はどこ!〕


 アルちゃん、それは聞かなくてもわかるでしょ?


 お願いしますよ。


〔ったく、そういうことね。まぁ確かにそれが一番かもね! それじゃいくよっ!!〕


 よしきたっ! 遂に……遂に!!


 目の前が真っ白になり、転移とは少し違う感覚を感じながら自分の体が別の次元を通り過ぎるのを感じる。そして到着した先は——



「お……お兄ちゃん……?」


 妹達の元だ。

 精神力が溢れる場所。それは妹達の側にいる俺。

 あぁ、久しぶりの妹達だ。妹パワーが溢れてくるのがわかる。

 だが様子がおかしい。


「に……兄さん……来てくれたんだね……」


「恥ずかしいところを見られたデス……」


「ごめん……なさい」


 どうしてだろう。妹達がこんなにボロボロなのは。


「あれれぇ? 君は何かな急に出て来て? それと……なんでそれがここにあるんだ?」




 なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ




 今までに感じたことのない、黒い感情が花を咲かせてしまった。



「オマエ、ナニヲシタ?」



 勇者の腕? 教会? 任務? なんだそれ。

 クソ喰らえだ。




 全てぶっ潰す——


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