間話 文化祭 ※妹バンド楽曲有
このお話は、現在61話より少し先のお話になりますが、本編の進行上に影響はありません。(無事帰還するネタバレくらい)
Youtubeでオリジナル楽曲を公開しておりますので、是非近況ノートから楽曲を良きタイミングで流しながら読んでいただけると、2倍、いや100倍楽しんで頂けます!(♪マークは歌詞の部分になります)
遂にこの日がやってきた。
文化祭だ。
俺が在学中に、生徒会長権限で生み出したこの学園の新たなイベント。
最初こそお堅い学習発表みたいになってしまったが、今では学園の目玉とも言われる一大イベントになっていた。
生徒達は2日前から文化祭に向けて準備を進めてきた。
エンターテイメントと魔法の融合。
それが唯一体験できるのが、この学園の文化祭だ。
職員である俺は、この期間は休暇でもいいし生徒達と交流を深めてもいいというなんともホワイトな待遇を受けている。
そのため、今年は全力で楽しむつもりだ。
まず、絶対に外せないのはウド達のバンド演奏とミスコン。
先日ウドから「兄さん、次の文化祭はバンド練の成果を見せてあげるから楽しみにしててね!」と言われた。
やっと許可を貰えたのだ。3年も待ったからな……死ぬほど楽しみっ!!
そしてミスコン。ミスコンは高学級生に参加資格があるため、今年から妹達も参加することが出来る。
果たして誰が1番に選ばれるのか……
〔みんなの中から選ばれるのは確定なんだね〕
当たり前だっ。妹達を差し置いてミスコンになる子はいない。と思う。
いや、他の子達も充分かわいいよ? でも妹達のレベルが高杉ちゃんなのだ。
そんなことを考えながら、校舎の中を歩く。
色々な出し物を考えたなぁ。
魔法ありのお化け屋敷に、魔法で作るスライム体験、魔法射的に、魔法メイドカフェ。どれもこれも面白そうだ。
出来ることなら全てを回りたいが、残念ながら時間はそんなにない。
何故ならこのあとウド達のライブが始まってしまうからだ。
ということで武道館へ向かおう。
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武道館の2階へ行き、教職員のみが使える座席の最前列に座る。
1階は座席が撤去されており、アリーナのような仕様になっている。そこには床が見えなくなるほどの人で埋め尽くされていた。
ステージには幕が降りていて、幕には「シスターズ・カルテット」というロゴが浮かび上がっている。
カルテットは弦楽四重奏のことを指したりするが、妹達4人の合奏という意味ではピッタリな言葉だ。
会場は若干ざわついており、その時を待っている。
俺も本当は近くで見たかったが、今日は一人でじっくりと聞きたかったため、この席をチョイスした。
よくよく会場を見てみると、観客達とステージの間に柵と2m程度のスペースがある。そこにはロッカとチセが観客の方を向いて立っていた。
あれは乗り越えてきた奴を監視する係か? ダイブするやつでもいるのかな? 本格的過ぎるだろ。
ステージの袖からは、キュウカが時折顔を出して会場の様子を伺っている。恐らく生徒会長としていろいろ動いているのだろう。
シロとハーピは……いた。PAブース??
あそこは会場に流す音量などを調整するプロの現場だが……2人にそんな技術あったっけ? まぁ、卓の前に座ってるわけじゃないから直接2人が何かをするわけじゃないと思うけど。
その時、会場を薄らと照らしていた照明が一気に消える。
それと同時に会場は歓声が満ち溢れた。
『シスカル! シスカル! シスカル!』
おぉ、シスカルコールが始まった! なんかいいな!
〔シスカルっ! シスカルっ!〕
アルちゃんも待ち遠しいようだ。
ステージ前にはスモークが焚かれ、コールに合わせて幕が上がっていく。
遂に来た。
幕が上がる中、ステージの奥に設置された白い光が、夜明けのように会場全体を照らしだす。
4人は逆光の中で笑っている。シルエットしか見えないが俺にはわかるぞ。
そして幕が上がり切った時、ジーコのギターが会場に鳴り響いた。
いい歪みだ。音も抜けが良くて感情を掻き立てる。
4小節で会場を魅了したあと、他の楽器達も音を奏で始めた。
イクスの存在感のあるベースライン。そしてベースに乗ったおっぱい。最高だ。
サンキの力強くも安定感のあるドラムサウンド。特訓の成果は出ているな。戦闘ではみんなに攻撃のチャンスを作って貰う役割だが、ドラムをさせたことでチャンスを作る側の考えを理解出来ている。今のサンキは完璧にこのバンドの土台を担っていた。
そして——
「みんな! 今日は来てくれてありがとー!! 精一杯みんなに歌を届けるよ! moon drop!」
ウドが観客を煽れば会場の熱気は最高潮となった。
そんな完璧の雰囲気を生み出し、遂にウドが——
♪星空はちょっと回りくどい スマートな輝きね
♪遠くでぶら下げた 希望を見せつけたいだけ
歌うんまぁぁぁぁぁぁ!?
まじかぁぁぁぁぁ!!
♪お月様だけ丁度良い ワタシ達ドコカ似テルシ
♪近くで光ってるだけ でも心地良い暖かさ
ふと思い浮かぶのは、3年前に夜空を見上げていたウドの姿だった。
♪アナタへは上手く話せそう
♪そのまま眩しさで染めてくれないかな
確かにあの日はいろんなことを話したね。
♪八方塞がりを望んだ いつも側にいて欲しいから
♪特別だって欲しいけど それ以上にさよならは要らない
♪愛する事に溢れたいんだ 誰かに聞かせたいメロディー
♪星空の下 届いて moon drop
ウドの純粋な願いが、すっと心に入り込んでくる。
どこか儚い想いが、波のように会場全てを包んでいった。
♪星空へ近づきたい それがワタシの輝き
♪流れては願うも 眺めるだけ まるでため息
1番とは違うリズムパターンにすることで、音の見え方が変わった。
♪お月様へ聞いてみたい ドウスレバ届クノダロウ
♪スポットライトのような 魔法でもかけてほしい
ジーコのバッキングギターが曲にノリを生み出し、サンキが前衛の顔を出す。
ここはイクスが土台になって全体をまとめているから噛み合っている。
♪どうせなら一つ教えてよ
♪そのままワタシを伝えてもいいのかな
ウドの感情も徐々に高ぶっているのを感じる。
会場を包む音の色が一段と濃くなった。
♪八方塞がりの心が 生み出した想いは愛なんだ
♪言葉に出せないなら 指先だけでも良い
♪誰かに望む願いなんて 自分にも聞こえないメロディー
♪月明かりの下 やっと気づいた
先程の情景がまた浮かび、決意の色を瞳に宿すウドの姿が目に浮かぶ。
♪背伸びしすぎて 見えていなかった灯
♪儚く 色濃く持っていたんだ
♪ワタシは貰っていた これは愛の真ん中
今までになかったメロディのCメロ。
後半に向けて心を叫び、その思いを引き継ぐようにジーコのギターソロが、全ての人に感情の矢を刺していく。
♪八方塞がりが良いんだ いつも隣にいてくれるから
♪特別は求めない それ以上も何も要らない
落ちサビ、今までとは全く違う繊細なウドの声。
聖母のような優しさがこの世界を包んでいる感覚だ。
その時、会場に光の粒が降り注ぐのが見える。これは、シロとハーピだ。
そのために会場を一望できるPAブースにいたのか。最高の演出をしてくれる。
さぁウド。妹達のお膳立ては完璧だ。あとはその思いを受け継いで、ウドの今日一番の声を届けてくれ——
♪八方塞がりが良いんだ いつも側にいてくれるから
♪愛されてる私は ずっと愛する事を伝えるよ
♪相応しい世界と思えた ワタシから歌いたいメロディー
♪星空の下 もう迷わない
♪この場所から 届けよう moon drop
曲が終わると、数秒間この世界から音が消えた。
気持ちはわかる。みんな同じように噛み締めているんだ。
だがそれも一瞬。噛み締めていた感情が爆発し、会場の人々は大歓声を上げる。
大声で泣き出す男子生徒、終止泣き続けてる女子生徒。
歌に感情を乗せて、魂に向けてウドは歌い、それが届いた。
俺は、始まってから涙が止まらなかったが、最後のサビからは嗚咽を漏らすほど泣いていた。周りに人がいなくてよかった。
ウドの葛藤と、その先に見つけた愛が詰まった最高の1曲だった。
俺はこの瞬間を忘れないだろう。
妹達全員で作り上げたこの奇跡。俺一生の宝物だ。
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「さぁさぁ! 今回のミスコンに選ばれたのは……」
シスターズ・カルテットのバンド演奏が終わった後は、そのまま文化祭最後の目玉イベントであるミスコンが行われた。
ノミネートされたのは、9つ子の妹達。ここまでは想定通りだ。
気になるのはここから。果たしてこの中で誰が一番に輝くのか。
「ハーピさんです!!」
なんと、ハーピがミスコンになるとは。
いや、ハーピもミスコンに選ばれるくらい充分かわいいのは、俺が一番良く知っているが、どちらかといえば生徒会長で目立っているキュウカや、バンドのボーカルのウド、目立ちたがり屋のロッカとチセが選ばれるかと思っていた。
ハーピやシロは性格が控えめなので学園内の認知度は低いと思っていたが、やはり美少女は隠しておけないということか。
それか胸か、胸なのか。ちくしょう。気持ちはわかる。触れたらコロス。
今はハーピに賞賛を送ろう。そのうち二人でお祝いにどこかに連れて行ってあげるのもいいかもしれない。
ハーピは2階席にいる俺に向かって、ひまわりのような笑顔を見せてくれた。
あぁ、そんな顔が出来るならミスコンになるわけだ。
こうして文化祭が終わった。
今回の文化祭は、俺は一つも手を加えていないが過去最高に盛り上がって、過去最高に楽しく、過去最高に思い出に残る文化祭だった。
こんな風に、歴史というのは積み重なって偉大になっていくんだろうな。
「兄さん、まだここにいたの?」
武道館は既に生徒会によって片付けが行われていたが、俺は2階席から一歩も動けずにいた。
ずっとこの空間、この時間を抱いていたかった。
「あぁ、なんか離れたくなくてね。本当に楽しかった。ウドの歌声も最高だった」
「ありがとっ。私達もやっと兄さんに聞かせて上げれてよかったよ。あわよくばミスコンも狙ってたんだけどね」
「次の文化祭が楽しみだ」
「来年だよ? 全く。本当に楽しかったんだね」
あぁ。これ以上に表現出来ないくらい。
「毎月出来るように職権乱用しようかな?」
「キュウカに怒られるよ。それに、私達も新曲作りたいから、1年くらいは待ってよ。次も最高のクオリティでお届けすることを約束してあげるから」
そういって俺の顔を覗き込んで笑うウド。
そっか、今気づいた。ウドの精神術、精神力を他人に分け与える能力か。俺の中にウドの精神力があるんだ。
ここを離れたらそれが無くなってしまいそうで、だから動きたくなかったんだな。
でも、ウドがいてくれるなら無くなることなんてないんだな。
「いこっか、兄さん」
「あぁ、今日は奮発して文化祭の打ち上げだ」
ウドは俺の手をとってくれた。俺はこの手を離すことは無いだろう。
もし離れたとしても、俺は追い求め続ける。
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「ハーピ、ミスコンおめでとう」
「ありがとう、ルド」
俺が新たにプレゼントした、だいふくさんを抱いて笑うハーピ。
「どこか行きたい場所はないか? ミスコンのお祝いに出かけようか」
「う〜ん、子作り?」
「それはまだ早いかな。他には?」
「う〜ん……だいふくさんの故郷!」
叶えてやりたいが難しい要求だ。なぜならだいふくさんは俺が生み出した仮想生命体だからだ。
だが、ハーピが夢を見てるということは、実際に生まれている可能性も……あるのか?
「そうだな……探してみるか、だいふくさん」
「うんっ! やった!!」
だいふくさんをギュッと抱きしめるハーピ。胸もギュッとなって脇からビュッてなってもう異世界転生だこりゃ。
こうして俺とハーピは、だいふくさんの故郷を探しにいく約束をしたのだった。




