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59話 暗部のやり方

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

 インフェル帝国の宿屋で夜中になるのを待った。


 それまでに決めていた作戦はこうだ。


 まず、潜入班は俺一人。三人で行くと、表向きの身分との関連性を疑われる可能性があるからだ。


 ルルは部屋の屋根裏に隠れて貰う。俺が生み出した3人の分身を監視しつつ、襲撃が無いかを確かめて貰う。ここで襲撃があれば俺らの身元は割れていると考えて良いだろう。


 そしてララには、諜報員からの情報交換を行える場所に待機して貰う。緊急で連絡があった場合の対応を任せておいた。


 潜入の仕方としては、出し惜しみすることなくやるつもりだ。


 隠蔽、気配遮断、魔力遮断、透明化などのあらゆる隠密系魔法を駆使して潜入する。


 これでバレるなら俺が正面から倒さなければいけない強力な敵がいることになるから、炙り出しの意味でも丁度良い。


「それじゃ二人とも、事前に打ち合わせた通りに頼む」


「了解ワン!」


「任せてニャ!」


 さて、任務開始だ。

 ヒュトラ王国の暗部の力を見せてやろう。


 俺は窓から外に出て、気配を消したままダンジョンへと向かう。

 昼間は馬車で20分かかった距離も、本気で走れば5分とかからない。


 ダンジョン付近に着くと、相変わらず賑わっていた。

 ここは24時間営業なのだろうか。今からダンジョンに入っていく冒険者も少なくはない。


 その内の1組の冒険者がダンジョンに入っていくのに紛れて、俺もダンジョン内部へ潜入する。


 あとは5階まで一気に駆け抜けるだけだ。


 昼間にルートを確認していたので、探知魔法は使わずに進む。すると、問題なく5階層まで辿り着くことが出来た。


 よかった。道が変わったりするダンジョンではなくて。割とテンプレだったりするからな。


 問題はここからだ。



 5階層は、今までの階層と異なり、森林が広がっているエリアだった。

 一応隠蔽の魔法を重ね掛けた探知魔法を行う。


 6階層へ下る階段はすぐに見つかるが、そこには白い鎧を纏った騎士が見張りをしている。


 残念ながら、ただの見張りなんて俺の前では無意味だがな。


 速攻で6階層へ下る階段まで移動し、見張りに気付かれる事なくダンジョンを進む。


 本来であれば、この異世界に転生して初めて訪れたダンジョンなのでくまなく探索したいという気持ちもある。ダンジョン探索は男の憧れだ。


 ただ、今は一刻でも早く妹達に会いたい。もはや任務のことなど二の次だ。速攻で終わらせて帰る。それが俺のミッションになっていた。


 その後の階層も同じようにガンガン進む。全て無視。かつて、ここまで無視されるダンジョンがあっただろうか。ごめんなダンジョン君。


 だが、10階層から11階層へ下る所で無視出来ない壁に当たった。


 それは10階層ごとに存在するボスである。このボスを倒さなければ、10階層以降へ行くことが出来ない。


 これはララの事前情報だ。ボス部屋の前に立つと扉が開き、戦いが終わるまで扉が開かれることはないという。


 よっぽどの自信が無い限りボスへ挑む冒険者はいないと言われる難関。ボスを倒せるか倒せないかで、冒険者としての強さの証明にもなるらしい。


 俺にとっては相手にならない雑魚だが、今は隠密活動中だ。どうしても避けられないイベントだった。


 そのままボス部屋の前へと移動する。

 ボス部屋の付近には白い鎧を纏った騎士が見張りをしていたが、既に睡眠魔法で夢の中へダイブしている。


 仕事中に眠ってしまったとなれば、下手に報告することもないだろう。


 ボス部屋の巨大な扉が開かれる。どこにでも行けるドアみたいに扉だけ存在していて、開いた先は別の景色が広がっていた。なるほど、亜空間というだけあるな。


 そのままボス部屋に入ると、そこは円状の大きな部屋だった。いくつもの柱があり、なんともボスっぽい雰囲気が出ている。


 中央に向かって歩く。すると部屋の中心に黒い魔力が集まっているのが見えた。これは……魔獣が形成されているのか。


 しばらく観察していると、やがて黒い魔力は明確な形を持った。


 こいつは、ケルベロスだ。

 以前ノーブルというアポカリプスの奴が使役していた魔獣だな。


 残念だが、お前に構っている暇はない。


「魔力還」


 魔獣が普通の動物と違う一番の特徴。

 それは身体を形成する元素の元が、魔力から生まれているという点。


 これは魔族にも言えることで、純粋な元素で構成されているのが人間。魔力変換の元素で構成されているのが魔族という。


 であれば、身体を構成する元素を魔力に戻してやればいい。これはドラゴンが持つ魔法無効と同じような仕組みだな。


 ドラゴンが最強と言われる一つの理由でもある。魔獣や魔族にとって、ドラゴンは触れただけで自分が消えてしまう天敵だ。


 せっかく集まって形作られたケルベロスの身体が、何もしないまま魔力へと還っていく。


 普段は面白味がないので使う機会は少ないが、時間が惜しいので対魔獣最強の魔法で終わらせた。


 すると、反対側にある扉が開かれた。


「何事だ! 何故扉が開いた!」


「わ、わかりません!!」


「姿が見えないが、何者かが侵入しているかもしれん」


 反対側には、白い鎧を纏った騎士が10人程度いる。


 確かボス部屋の先は魔獣が一切出現しない安全エリアだとルルが言っていたな。


 そしてボスを倒した者、その戦闘に参加した者は次からその階層のボス戦が免除されたはずだ。


 なるほど、ここを拠点に5階層から10階層までの見張りを交代で行なっているということか。


 さて、どうしたものか。選択肢は色々とある。


 そのまま処理して灰も残さないとか、先程と同じように睡眠魔法で無力化するとか、何もせずにこのまま通り過ぎるとかね。


 だが、どれも後々めんどくさいことになりそうなので今回はこれでいこう。


 俺は姿を表す。


「何者だ!!」


「ここはまだ侵入禁止のエリアだ。殺されても文句はあるまいな?」


 見張り達はやる気満々のようだ。


「お前達には色々と教えて貰おうか」


 俺は右眼の前に魔法陣を出現させて魔法を発動する。

 ちなみに魔法陣はなんとなくかっこいいから出してみた。このくらいの遊びが出来るということは、妹パワーはまだ余裕があるということだ。何故か夜にギュンギュン回復してたんだよな。


「俺に従え」


 一度やってみたかった有名な台詞で操るやつ。

 フハハハハ、これでお前達は俺のマリオネットだ。

 さぁ、ここで何をしていたか吐いてもらおう。


「教会はダンジョンで何を調査している?」


「ダンジョンの安全性の確認です」


「末端には情報が行き届いてないのか? 教会関係者で来ている偉い奴は?」


「枢機卿がいらしております」


 へぇ。中々のお偉いさんが来ているな。枢機卿といったら教会でもトップクラスに偉い人だ。


「アポカリプスについて何か知っていることは?」


「世界でも屈指の闇組織です」


「それ以外には?」


「特に何も」


 やはり知られていないのか、本当にアポカリプスとは関わりが無いのか。いずれにせよ、枢機卿に話を聞く必要があるな。


「もう聞くことはない。お前達はこの扉が開く少し前から今までの記憶を失え。その後は何事もなかったように警備を続けろ」


「畏まりました」


 ここにもう用はない。さっさと情報を持ってそうな奴のところへ行くとするか。


 11階層を走り出す。これまでの階層とは雰囲気が全然違う。

 開けているという点では10階層までと似ているが、全体的に暗いイメージだ。


 森どころか木も存在しない。あるのは崩れた建物とその瓦礫が岩の地面に転がっているだけ。


 足場は悪いが開けている分進みやすい。これなら楽々と次の階層に行ける。


 そう思って探知魔法を発動したとき、


「何やら嗅ぎ回っている鼠はお前か」


 黒いフード付きのマントに身を包んだ男が、目の前に現れた。

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