58話 兄の仕事、妹の仕事
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「すみません、ダンジョンに入りたいのですが」
「許可証はお持ちですか?」
「はい」
ダンジョンは、帝都から馬車で20分程移動した場所にあった。
周辺には簡易的な建物が幾つも並んでおり、屋台や武器屋、宿泊施設なども存在している。
夏祭りの会場に来ているような感覚だ。
少し見てまわりたい気持ちもあるが、俺達の目的はダンジョンを調査すること。
こんなところで油を売っている暇はない。
ダンジョン周辺に到着し、そのままダンジョンの入り口へ向かった。
「確認しました。説明は受けていると思われますが、今は5階層まで一般解放されております」
「わかりました」
許可証の確認が取れたので、いざダンジョン探索へゴー。
ダンジョンは、小さな山に扉がついているという外観をしていた。
ギルド職員が扉を開けたので中に入る。
ダンジョンの中は、今で囲まれた細い通路だった。
「とりあえずそれっぽく探知魔法でも使ってみるか」
「わかりましたワン!」
「探知魔法」
一旦この周辺を探知する。あまり大規模に探知すると変に疑われる可能性があるから、あくまで一般の魔術師が使えそうな範囲に留めておいた。
探知をすると、ダンジョンの1階層は細い道が入り組んでいる迷路のような階層であることがわかる。
「道が多くあるけど、全部細い道みたいだ。他のダンジョンも同じような感じか?」
「そんなことないニャ。ダンジョンの形は場所と階層で全く異なるニャ。似たような構造のダンジョンもあったはずニャ」
1階層だけ見ると他のダンジョンと変わる点は無さそうだ。
「そうか。であればここの階層はすぐに抜けてしまおう。一旦5階層まで降りてみて、それまでにおかしい点が無いか確認する」
会話する時も傍受阻害関係の魔法は忘れない。ここからの動きを確認し、ダンジョン内の探索を継続した。
道中で魔獣が出現するが、1階層の魔獣は雑魚ばかりなので一瞬で処理してひたすら進む。走ってもいいが、ダンジョン内の人間の動向を探っている奴がいたら厄介だからな。念の為、不自然な行動はしない。
あくまで新しいダンジョンの様子を、有名チームのメンバーが観察しに来た程を装って進む。
1階層から2階層へ降りるには、階段を使うことになるらしい。
探知魔法で既に場所はわかっているので、一直線に目指す。
その道中で、こっそり使えない魔法などを調べてみた。
まずダンジョンには、全て共通で使えない魔法が存在する。それは転移魔法と念話魔法などの、外部から干渉する魔法だ。
ダンジョン内に念話を飛ばしたり、ダンジョン内に転移することは出来ない。
ダンジョン内部でも、転移魔法は使うことができない。これは転移に必要な座標が存在しないためにある。ある意味亜空間と言えるだろう。
オリジナル魔法先生を使えば、亜空間であろうと転移することは可能だが、一発でバレるので本当にどうしようもなくなった時にしか使うことはないだろう。
これは今回気になる点の一つでもある。
ヒュトラ王国の各地に出現した魔獣は、明らかにダンジョンから転移で送られているからだ。仮に別のルートからだとしても、そこに辿り着くまで誰にも見つからずにヒュトラ王国に辿り着くとは思えない。
そして、ダンジョン特有で使えない魔法も存在するようだ。
ララによると、火魔法が使えなかったりするダンジョンも存在するらしい。
俺が調べたところによると、このインフェル帝国のダンジョンではどうやら聖なる魔法が使えないようだ。
聖属性という言葉が前世にあるが、この世界では聖属性は存在しない。聖なる精霊達が存在するため属性と考えても良いが、四大属性ではないため属性扱いされいないのだ。闇も同様である。
反対に闇の魔法は威力が増している。どうやら闇の精霊が多く存在するようだ。精霊視は万が一のことを考えて今は使わないことにする。
そうして歩き進めていくと、2階層への階段が見つかる。
俺達はそのまま2階層へと足を進めた。
その後、5階層まで調査を進めたがこれといっておかしい点は見つからなかった。
「やはり5階層以降を調査しないと何も情報は得られなさそうだな」
「そうですニャ。諜報員の情報によると、各地に出現した魔物も10階層以降の魔獣らしいニャ」
「前に連絡を貰ったときは、15階層まで調査が進んでいると書いてあったワン!」
やはり5階層以降に何か秘密がある。アポカリプスがわざわざ動く程の何かが。
「一旦今日は戻ろう」
「了解ニャ!」
「わかったワン!」
表向きの調査はここまでだ。こっから先は裏側の調査を行う必要がある。
今は一旦休んで、夜中に行動を起こそう。
俺達はそのままダンジョンを出て、宿泊している宿屋へと戻った。
一方その頃——
「シスハレナインには、シスハーレ領とバーホン領の二手に別れて魔獣の殲滅を行なって貰う」
妹達は、騎士団事務所を訪れていた。
先日ルドが騎士団長に頼んだ魔獣処理の仕事が、正式にシスハレナインに依頼することになったためだ。
「編成は任せるが、リーダーはイクスとキュウカに頼む。イクス班には第一部隊、キュウカ班には第三部隊の団員達が同行することになる」
「私が第三部隊の部隊長、エルガーです。キュウカ殿、よろしくお願いいたします」
「私は騎士団の者ではないので、殿は不要ですよ」
「イクス殿の妹君に不敬は出来ません」
「そ、そうですか……」
エルガーは硬い男だった。
「それで、私達はどうする?」
ウドがイクスとキュウカに質問する。
「フォーメーションクロスで行きましょう」
「うむ。私も問題ない」
フォーメーションクロス。妹達が2手に別れるとき用の定番の分け方。
イクス、ジーコ、ロッカ、チセ、ハーピとサンキ、シロ、ウド、キュウカの組み合わせだ。
「わかった。それで行こう。イクス班がシスハーレ領、キュウカ班がバーホン領に向かってくれ」
「畏まりました」
「わかりました」
両班の隊長であるイクスとキュウカが返事をする。
「出発は明朝の日の出だ。それまで準備をしていくように。解散」
こうしてシスハレナインにもやるべきことが与えられた。
妹達はそのまま騎士団事務所を後にし、自宅へと向かう。
「兄さん、今頃泣いてないかな?」
「有り得ますわね。私達がいないと何も手に付かないですから」
「それでも私達を守るために、遠い国で頑張って下さっている。私達も兄上に恥じぬよう、任務を達成しよう」
「そうだね。お兄ちゃんに私達も出来るってところを見せつけなきゃね」
和気藹々と帰路につく妹達。
彼女らは気づかない。
「へぇ、あれが次代の鍵かぁ。殺すのはもったいないくらいかわいいなぁ」
王城の先端から、彼女らを見ている影の存在に——
妹達が家に着く頃にはすっかり日も暮れていたので、そのまま一緒に露天風呂に入り、食事を取る。
誰も口には出さないが、兄のいない食卓はすごく寂しいと感じた。
各々が部屋に戻って次の日の任務に備えるが、寂しさは増すばかりだった。
キュウカは、そんな寂しさを紛らわすために兄の部屋を訪れる。
兄がいないことはわかっているが、その存在を少しでも感じたいと思ってしまったからだ。
兄の部屋のドアを開け中にはいる。すると、兄の部屋には既に先約がいた。
「キュウカも来たのですの?」
「ルドがいないと寂しいよね」
「気持ち……わかる」
「考えることは同じですわね」
「私達も寂しくて来てしまいましたわ」
「兄さんはいないけど、一緒に寝よっか」
「この枕、兄様の匂いがするデス!!」
「兄上の枕を誰が使うかはまだ話し合いの途中だぞ!」
キュウカはほっとする。私だけじゃなかった。
みんな寂しいのは一緒なんだ。みんなお兄ちゃんが大好きだ。
(お兄ちゃん、無事に帰ってきてね)
「しょうがないから私も一緒に寝てあげるっ!!」
そう言ってルドのベッドに飛び込むキュウカ。
そこには兄を愛する9人の妹達の笑顔が咲いていた。
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「うぅ……イクス……ジーコ……サンキ……シロ……ウド……ロッカ……チセ……ハーピ……キュウカ……うぅ……」
「隊長が怖いニャ」
「寝ながら喋ってるワン。これは第一王子に報告ワン」




