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57話 インフェル帝国

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

 王都を出てから1日と19時間。

 俺達は、インフェル帝国の帝都に到着していた。


 ここまで俺の妹パワーが尽きかける瞬間が何度もあったが、その度に妹から念話が届くのでノンストップで来れた。


 既にキュウカの監視魔法の効果外だと思うが、なぜ俺の妹パワーが尽きかける頃にタイミングよく連絡が来るのだろうか。これが愛の力か。


 今は帝都に入るための順番待ちをしているところだ。


 新しいダンジョンが生まれたとあって、インフェル帝国は賑わっていた。

 主に商人達が訪れているのだ。ダンジョンは金のなる木だからな。


 余計なトラブルを避けるために、帝都に入る際には身分確認が必要になる。


 商人達に紛れて並ぶこと30分。俺達が門番の身分確認を受ける番だ。


「シシ王国の……焔の光のメンバーか!」


「なんだって!? あのダンジョン攻略で有名な?」


 もちろん偽造だ。シシ王国の焔の光さんのお名前をちょちょいとお借りした。

 借りるにしてはでかい名前かもしれないが、このくらいじゃないと通してくれない可能性もある。

 ギルドカードも本来は偽装不可能だが、俺のオリジナル魔法先生に頼れば無問題だった。


「よし通れ。ダンジョンでの活躍を期待している」


「ありがとう。この国の経済を潤せるように努力するよ」


 門番に許可を貰ったので、さっそく帝都に入ろうとした時、


「待て」


 黒いフード付きのマントを着た男に声を掛けられた。

 その男はこちらに近いづいてきて顔の横で言葉を発する。


「"サクシャ"」


 "サクシャ"? なんだ?


 何を言われたのかわからなかったが、続けて男は言葉を発する。


「"ユウシャ"」


「……」


 男は、そのまま後ろを向いて先程いた位置に戻っていった。

 俺も訳のわからないといった表情でその場を立ち去る。


 とりあえず帝都の大通りを歩き出した。


 危なかった。さっきのは心音を聞いていたのか?

 恐らく動揺具合で、勇者関連のことを知っているか調べているようだ。


 残念だが、ここは既に敵の縄張りだという認識は出来ている。


 あれをヒュトラ王国でやられていたら動揺していたかもしれないが、敵地である以上、あの程度では動じない。


 ただ、あれが門番と一緒にいるとは……


 インフェル帝国とアポカリプスは何らかの関係があると考えておいた方が良さそうだ。


 俺達はそのまま大通りを歩き、インフェル帝国のギルドを目指す。

 まずはギルドでダンジョンの情報集めだ。


 インフェル帝国のギルドは、そこまで大きい建物ではなかった。

 今までダンジョンなんてものは存在しなかったために、あまり発展していないのだろう。


 だが、ダンジョンが生まれたことによりギルドには人が溢れかえっていた。

 いろんな国からダンジョンでの一攫千金を求めて、冒険者が集まっているようだ。


 俺達はギルドに入り、カウンターを目指す。


「すみません、ダンジョンの情報を聞きたいのですが」


「ダンジョンですね。現在は1階層から5階層が一般冒険者様へ開放されています。5階層以降は、現在教会関係者が調査中となります」


 へぇ。教会関係者ね。


 諜報員はダンジョンに引きこもり状態なので、ギルドからの情報は得ていなかった。むしろ表向きの調査が俺達の仕事の一部でもある。


 教会と言われて思いつくのは、世界最大の宗教であるアールケイ教会だ。

 アールケイという神を信仰しているはずだが、俺が転生前に会った神様と同じかはわからない。名前でも聞いておけばよかった。


 神の存在を知っているので、教会というものを少しだけ信用していたのだが、ここにきて一気にキナ臭くなった。


 ここで話が出てくるということは、教会の一部が裏でアポカリプスと繋がっているか、取引している可能性が高い。


 もちろん、本当に教会が調査をしているだけで、アポカリプスが秘密裏にダンジョンを調査している可能性もあるが、最悪の可能性を考えておいた方が良いだろう。


「そうですか。ダンジョンに入るには?」


「ここで入場証を発行しておりますので、ギルドカードの提出をお願いいたします」


「わかりました」


 俺はシシ王国のダンジョン攻略チーム、焔の光の偽ギルドカードを提出した。ちなみに焔の光には、偽ギルドカードを使うこと、インフェル帝国のダンジョンには来ないことを事前に交渉しているらしい。全てはお金の力で解決したとか。


「ありがとうございます。それでは少々お待ちください」


 受付嬢はカードを見て一瞬驚いたが、そのまま平常運転へと移行した。

 有名な冒険者だが、名前なんて口に出したらざわつく可能性もあるしな。ちゃんと教育されている。


 受付嬢はそのまま一枚の紙を取り出し、何かを記入していく。全ての記入を終えると、今度は魔法効果が付与されている判子を押印した。


「こちらをダンジョンの入り口にいる職員に見せてください」


「ありがとうございます」


 意外にすんなりいったな。もう少し面倒な手続きを踏むのかと思ったが。

 証明書を受け取り、ギルドを後にする。


 このままダンジョンへ向かっても良いのだが、まずは行動拠点を確保しよう。


「ルル、この辺で宿屋はあるか?」


「丁度この先にあるワン!」


 歩きながらルルに宿屋の位置を確認すれば、帝都の大通り沿いにあるちょっとお洒落な宿屋が見えてくる。


 とりあえず当面はここを活動拠点にしよう。長居するつもりはないがな。


「いらっしゃい!」


 宿屋に入ると、若い女の子の元気な声に迎えられた。


「3人で泊まりたいのですが」


「3人ですね! 何泊の予定ですか?」


「とりあえずは一泊で。あとで延長するかもしれません」


「畏まりました! 先に精算しますね! 3名様御一泊なので金貨3枚になります!」


 金貨3枚。日本円にすると3万円か。妥当な金額に思えるが、ここには露天風呂も豪華な飯もない。


「少し高い気もするが?」


「最近はダンジョンで来客数も増えたので、どこも値上げしてるんです! じゃないと変な輩が寄り付いてきて……」


 なるほど、ちょっと敷居の高い宿だということか。


「食事には期待しておいてください!! ウチは帝都でも料理が自慢の宿ですから!」


 俺はルルの方を見る。するとルルは、口笛を吹きながらそっぽを向いた。

 こいつ、うまい料理が食いたくてこの宿を勧めたな。

 まぁ経費で全部落とすつもりだからいいのだが。


「わかりました。金貨3枚ですね」


「まいどっ! それじゃ、3階の3号室をお使いください! 食事は食堂で頼めばいつでも食べれますので!」


「ありがとう」


 鍵を受け取ったのでそのまま部屋に移動する。

 扉を開けて部屋に入ると、ルルとララが一目散にベッドへと飛び込んだ。


「やっと着いたワン〜」


「ふかふかニャ〜」


 お前達は後半寝ていただけだと思うが……

 長時間運転の助手席も結構疲れるのと同じことだと思うことにしよう。


「二人とも、休むのはまだ早い。これからのことを確認しよう」


 そう言って、俺は打ち合わせに必要な魔法をいくつか展開する。主に傍受阻害関係の魔法だ。

 有名な冒険者であればこれくらいは普通にやってもおかしくないからな。こういうところでも焔の光の名は役に立つ。


「さて、まずはこの国にいる諜報員についてだが、コンタクトを取ることは可能か?」


「出来なくはないニャ、でもやめておいた方がいいニャ」


「諜報員は、アポカリプスの一員だワン」


 スパイってことか。なかなかやるな。


「諜報員とは秘密のやりとりをしているニャ。あっちからは連絡はあってもこっちから連絡することは出来ないニャ」


「一応事前の取り決めとして、このペンダントをつけている人が諜報員ということになっているワン」


 ルルがペンダントを取り出す。どこにでも売っているような、簡素なペンダントだった。


「わかった。諜報員は基本関わらない方向でいこう。俺達はとりあえず正規の手順で入場する」


 ダンジョンには入ったことが無いからな。聞くところによると、使えない魔法も存在するのだとか。


「了解ニャ」


「わかったワン!」


「よし、それじゃ早速」


「寝るニャ!」


「ご飯ワン!」


「ダンジョンに行くか」


「……」


「……」


 どうした? 二人共。

 俺達は遊びに来たんじゃないぞ?


「鬼畜ニャ……」


「ひどいワン」


 何を言うか。俺は1秒でも早く帰って妹に会いたいんだ。

 今も右手が震えてきた……妄想しろ妄想しろ。



 さて、初めてのダンジョンに行くとしますか。


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