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56話 走れ妹ロス

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

「それじゃみんな行ってくるね」


 夕食を食べ終え、早速出発する。

 エントランスに行くと、妹達が見送りのために待っていてくれた。

 ユナさんとメイド妹達との挨拶は既に済ませていた。


「兄上……無事に帰ってきてください」


「あぁ、もちろんだよイクス」


 どこか不安そうな顔をしているイクス。キュウカも同じだ。

 二人の空気を察してか、他の妹達も不安そうな顔をする。


「お兄ちゃん、大丈夫なんだよね?」


「大丈夫だよ。今回は少し調査してくるだけだから」


「新しいダンジョンは……危険なのですか?」


「危険ってわけじゃないけど、何が起きるかわからない。でも約束するよ。必ず無事に戻ってくるって」


 言葉では伝えてみるが、俺自身が感じている不安を見透かされているのだろう。


 ならば——


 俺はイクスに近づき、強く抱きしめる。


「イクスは一番お姉ちゃんなんだから、みんなのことをしっかり守ってな」


「……はい。必ず」


 数秒ほどイクスの豪快さを全身で感じる。


 次はジーコ。


「ジーコはみんなの目になって、みんなに降りかかる危険をいち早く察知するんだよ」


「わかりましたわ、兄様……」


 ジーコの華やかさを全身で感じる。


 次はサンキ。


「サンキは落ち着いて周りを見れば敵はいない。みんながサンキを活かしてくれるから、信じることを忘れないで」


「わかりましたデス……!」


 サンキの熱いハートを全身で感じる。


 次はシロ


「シロはその頭脳で、みんなを導いて欲しい。常に最善の道が見えるはずだから」


「はい……にぃさま」


 シロの温かさを全身で感じる。


 次はウド。


「ウド、みんなの中心であることを忘れないで。ウドがみんなをまとめるんだよ」


「わかったよ兄さん……」


 ウドの愛を全身で感じる。


 次はロッカ。


「ロッカ、目立つことも大事だけど、目立たせることも強い者にしか出来ないことだからね」


「わかりましたわ、お兄様……」


 ロッカの気高さを全身で感じる。


 次はチセ。


「チセ、みんなのサポートは任せたよ。みんながやりたいことをやらせてあげれる場面を演出してあげてくれ」


「はい、お兄様……」


 チセの高潔さを全身で感じる。


 次はハーピ。


「ハーピ、未来は自分の手で掴み取ることを忘れないでね」


「ルドぉ……」


 ハーピの柔らかさを全身で感じる。


 最後はキュウカ。


「キュウカ、こんな兄でごめんな。俺がいない間の俺の役割を任せる」


「任せて……お兄ちゃん」


 キュウカの妖艶さを全身で感じる。


 妹達を抱きしめたことで、少しは不安を和らげることが出来たようだ。

 これで心配はないだろう。


「それじゃみんな、行ってくるね」


「「「「「「「「「いってらっしゃい、お兄様!」」」」」」」」」


 妹達に見送られて、俺は家を後にした。


 夜の街を一人歩く。今日は転移する気分になれなかった。

 夜空を見上げれば妹達が隣にいる気がしたが、不安は拭えない。


 だって——



 何日間か妹に会えないんだよっ!?

 こんなに会えなくなるのは、俺が一人で魔術学院に入学して以来だ。


 その時はなんとか妹達を守るために必死に耐えてきたが、今は当時よりも妹愛に溢れすぎている。


 日々美しくなっていく妹達。

 比例して増していく妹愛とリビドー。


 さっきも妹パワーを補充するために妹を一人一人抱きしめたが、出来ればあと30年くらいは抱きしめていたかった。


 少しの間会えなくなると考えただけで、不安に押しつぶされそうになる……


 でも妹を守るためなんだ……やるしかない……


 王門へと辿り着いた俺は、今までにない精神的ダメージを受けていた。

 これは……憂鬱という害悪な状態異常だな。


「隊長、遅かったですワン」


「どうしたニャ? 元気ないニャ?」


 ルルとララにもバレてしまうとは。これは良くない。

 仕事は仕事だ。しっかりと切り替えないとな。


「いや、問題ない。それで、インフェル帝国へは転移すればいいのか?」


「転移はダメですワン。今回は転移に長けた者が敵にいる可能性が高いワン!」


「残留魔力でどこから転移してきたかわかるかもしれないニャ。感知範囲も不明ニャ」


 確かに、俺でも相手がどこから転移してきたかというのは見破れるしな。それくらい出来るやつがいてもおかしくはない。


「となると、移動手段は?」


「馬車だと遅いワン。走っていくワン」


 おっと、なんて体育会系な回答なんだ。

 走ることは全然良いのだが、問題があるとするならば、時間だ。


「ちなみに、走ってどのくらいの距離なんだ?」


「私達の速さで四日ニャ!」


 四日。四日っ!?


 待て! 移動で四日だと!? 海外出張を舐めてた……

 この時点で四日は妹達に会えないことが確定するわけだ……そうかそうか。


「よし、二日で行こう。疲れたら俺が担ぐ」


「隊長、これでも私達獣人だワン」


「私達の速さについて来れるニャ?」


 ほう。俺に喧嘩を売るとはな。いいだろう。

 人類の底力を見せつけてやる。


「時間が勿体ない。いくぞ」


「ラジャワン!」


「隊長なんて置き去りニャ!」


 二人は近くの建物に飛び乗り、音を立てずに走り出す。俺も後に続いて走り出した。


 夜の街から存在を消し、王都を出る。


 自信があると言うだけあって、ルルとララのスピードはなかなか早い。

 このペースを保ったまま最後まで行けるのか怪しいくらいの速さであるが、獣人である二人にとっては何の苦もないのだろう。


 俺にとっても丁度良いランニングになる。

 このままインフェル帝国を目指そう。



 ——4時間後


「隊長、よく付いてこれるニャ」


「そろそろ休憩にするワン?」


「いや、まだまだ余裕だが二人は疲れたのか?」


「何を言うワン! そんなこと言うならもっとペース上げるワン!」


「へばっても知らないニャ隊長、遅れないようにニャ!」


 おぉ、ここでスピードアップか。時間短縮したい俺にとっては有難い。



 ——さらに4時間後


「そ、そろそろ休憩にするニャ?」


「そうだワン! 私達はまだ大丈夫だけど隊長のためワン!」


「俺はまだまだ大丈夫だ」


「……」


「……」


 よし、今日は寝ないで行こう。お前達もあれだけ見得を切ったんだ。問題ないよな? 元社畜を舐めるなよ?



 ——さらに2時間後


「さ、さすがにもう休むニャ。10時間も走りっぱなしニャ」


「そうだワン。この先に川があるワン。そこで休むワン」


「俺はまだ大丈夫だが?」


「悪かったニャ! 隊長がここまで規格外だとは思わなかったニャ!!」


「おかしいワン! 獣人よりも余裕があるなんておかしいワン!!」


 音を上げたか。まぁ二人は頑張った方だろう。


 実際俺も風除けにしてた分、随分と楽をさせて貰ったからな。


「わかったわかった。それじゃ、俺が担ぐからゆっくり休憩するといい」


 だが、ここで止まるわけにはいかない。俺には時間が無いのだ。

 今も徐々に減り続ける妹パワー。あ、ちょっとイライラしてきた。

 これが副作用か。手が震えてきそうだ。


「隊長、出来れば平らなところで休みたいニャ……」


「ダメだ」


「お腹も少しすいたワン……」


「担いでやるから好きに食べるといい」


 高速で走ったまま、俺は二人に近づき担ぎ上げる。


「さ、ゆっくり休め。ただし、もう一段階スピードを上げるから舌を噛まないようにな」


「え? ここからスピードを上げるニャニャニャニャニャ!?!?」


「ワワワワン! これじゃ休めないワワワワン!!」


 今まで走ってきた速さからもう一段階スピードを上げる。

 よくよく考えたらこれが一番早いのでは?


 このまま休まず俺が担いでいけば、1日と半分の時間で付きそうだ。

 というか4日って……どれだけ休むつもりだったんだ?



 ——さらに12時間後


 ルルとララは担がれることに慣れたのか、スヤスヤ眠っている。

 俺の妹パワーは既に限界値だ。距離が離れれば離れるほど、力が湧かなくなっているのを感じる。

 体は全然疲れていないのに、精神が疲れ始めている。前世とは逆だな。

 無理をせず、一旦休もうか? それで死んでしまったら元も子もないし。

 はぁ、病んでいるな。


 そう思っていた時——


『お兄ちゃん、大丈夫? 無理してない?』


 届いたのはキュウカからの秘匿回線での念話だった。


『あぁ。問題ないよ』


『そっか。それならよかった。私達に早く会いたいからって、あんまり無茶しちゃダメだよ?』


 キュウカには隠し事は出来ないな。


『そうだな。無理せずに頑張るよ』


『うん。それじゃ、私達はこれから騎士団事務所に向かうから』


『あぁ、みんなも気をつけてな』


 キュウカからの念話が途絶える。



「いよっしゃぁぁぁぁぁぁ!! まだまだ行くぞコラァァァァ!!」


「わわわわん!! どうしたワン隊長! いきなり叫んで!」


「にゃにゃにゃ! 寝てないニャ! 寝てないニャ!!」


 俺はスピードを5段階上げた。


 今なら無限に走れそうだ。


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