54話 新たな任務
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こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「入れ」
扉の前でドアを二回ノックすると返事がした。
「失礼します」
「拘束魔法ワン!!」
「ドーンニャ」
部屋に入ろうと扉を開けば、ルルが俺に拘束魔法をかけ、ララが大きなハンマーを俺に目掛けて振る。
動きを止めて強力な一撃で仕留めるつもりか。タイミングもいい。拘束魔法がかかる前にレジストすれば物理攻撃を対処出来ない絶妙なタイミング。
また、魔法攻撃と物理攻撃を分けている部分もよく考えられている。
これがどちらも魔法攻撃だったならば同時に対処することも可能だが、分けることで対処が難しくなっている。単純なことだが目の付け所はいい。
今回は及第点をあげてもいいだろう。
本気を出せば対処の仕方はいくらでもあるが、甘んじて受けることにする。
とりあえず、ハンマーは直撃すると痛いので左手で受け止めよう。
その間に拘束魔法で体をガチガチに締められた。
「かかりましたワン!」
「やったニャ! ハンマーを片手で止められた時はどうなるかと思ったにゃ」
「あぁ。今回はなかなか良かったよ。このレベルの不意打ちであれば対処できる敵も少ないはずだ」
俺は拘束魔法がかかったまま歩き出す。
「あれれぇ……拘束魔法も防がれたニャ?」
「そんなことないワン! 効いてるワン!」
「俺くらいになると、拘束魔法では縛り付けれないってことだ。これも覚えておくといいぞ」
「規格外すぎるワン……」
落ち込んでしまったルルとララの頭を撫でてやる。すると、くてんとしていた尻尾をブンブン振り回して喜んだ。
「それで、相変わらずお前は傍観者かアーノルド」
「ここくらいでしかこいつらに稽古をつけないお前が悪い」
書類に目を通しながら答える腹黒王子。
「それで、今日は何の用だ?」
「座れ」
俺は来客用の豪華なソファの真ん中に腰掛ける。いいなこのソファ。持って帰ろうかな。
数分ほど天井の模様を観察しながら待っていると、仕事がひと段落したのかアーノルドが立ち上がり正面のソファに腰掛けた。
「お前が騎士団長に頼んでいた調査の件だが、少し厄介なことになっておる」
そう言いながら一つの資料を投げてくるアーノルド。どうやら調査報告書のようだ。
書類の中身に目を通すと、想定していなかった内容が書かれていた。
「アポカリプスと……新たなダンジョンか」
「そうだ」
アポカリプスは世界でも屈指の闇組織で、その規模は把握出来ないほどの巨大組織だ。
先日この国で妹達を始末しようとしたノーブルという男も、アポカリプスの組織の一員。
そんなアポカリプスが動いているということは、何か悪事を行なっているに違いない。
「だが問題なのはそれだけじゃない。勇者という言葉に聞き覚えはあるか?」
勇者。
最近よく聞くワードだった。
確か弓神アルテミスと、風の大精霊が口にしていたはずだ。
前世では馴染み深い言葉だが、この世界では全く聞かない言葉。それがアーノルドの口から出たというのが衝撃だった。
「一応聞いたことはある」
「詳しくはわからないが、新しいダンジョンに潜入している諜報員からの情報によると、アポカリプスは勇者を探しているらしい」
「勇者を……探しているか」
勇者を探しているということは、アルテミスが言っていた数百年前に封印されているという情報を知っているということだ。
となると、少なくとも精霊に関して詳しい者がいることになる。
精霊の力は俺でもまだ未知数、下手をすれば神の領域の話だ。
これは、俺も本気で動く必要がありそうだな。
「各地に出現している、いるはずのない魔獣の出現についてだが、その全てが新しいダンジョン内に生息している魔獣と一致しているという情報もある。恐らくダンジョン内で何かが行われていることは間違いない」
全ては新しいダンジョンに秘密があると。
ダンジョンはこの世界では冒険者の稼ぎ場と言われていた。
ダンジョン内では世界に生息する魔獣が発生し、その地域では得られない魔獣の素材などが手に入るのだ。
確か世界には11のダンジョンが存在する。
このヒュトラ王国にも1つ存在するが、俺は冒険者ではないし、魔獣の素材にも興味がなかったので行ったことはなかった。
他の10のダンジョンも、他の国に一つずつ存在したはずだ。
そして今回発見された12番目のダンジョン。
「場所はインフェル帝国だ。お前にはインフェル帝国に行ってもらう。教職もしばらくは休みになるだろう」
これに関しては仕方が無いだろう。俺も勇者については気になるしな。
「わかった。妹達は?」
「彼女らには騎士団を通して仕事を頼んでいる。最近魔獣の出現頻度が上がっている方の対処をして貰うことになる」
妹達であればあの程度の魔獣に遅れを取ることはないから問題ないだろう。
「話は以上だ。出発の日程は追って連絡する」
出発までは恐らく2、3日時間があるはずだ。それまでに妹達に説明する必要もあるし、アルテミスに勇者の話を聞く必要もある。
とりあえず帰ろうと思い席を立ち、扉の方へ向かうとアーノルドが声をかけてきた。
「キナ臭い匂いがする。用心しろ」
言われなくてもそうするさ。
俺がこの世界に来た、本当の意味もわかるかもしれないしな。
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「そういうことだから、しばらく家を開けることになると思う」
「そうなのですね……兄上、気をつけてください」
「魔獣のことは私達に任せて! 兄さんの分もしっかり働くから!」
夕食後、俺はみんなに話があると言って、任務に出ることを伝えた。
黙っていくと追いかけられそうで逆に危ないからな。安心させてあげる意味も込めて最低限の情報は伝えることにした。
「それにしてもインフェル帝国に新しいダンジョンですか」
「シロはダンジョンについて何かご存知ですか?」
「前に……出来たのは……ペリデス王国……」
「確か12年前でしたわね」
ロッカとチセとシロがダンジョンについて話している。
12年前は俺達も生まれていたが、遠い国なのでそういうことがあった程度の認識だった。
「その前も……12年前」
「そうなんですの?」
12年ごとにダンジョンが生まれている……偶然にしては出来すぎている。
そして今回出来たのが12番目のダンジョン。何か意味があるのだろうか?
今は考えても仕方のないことだが、気になることは山ほどある。
「ダンジョンの構造や成り立ちは今の所わかってないんだっけ?」
「そう……基本的には全部下ってく……でも最下層に着いたことはない……」
「発見されている中で一番深い階層は、シシ王国ですわね」
シシ王国はギャンブルの国で有名だが、それは冒険者がダンジョンを探索して、そこで生み出した利益をギャンブルで使っているというシステムが出来ている。
ギャンブルの国になる前は、冒険者の国だった。
何故ならば、世界で初めてダンジョンが発見された国だからだ。
当時はダンジョンを宝の山だと考え、戦争が起きたらしい。
「ダンジョンって不思議デス」
「確かに……ここまで謎ってのも気になるね……」
サンキとキュウカもダンジョンに違和感を感じているようだ。
俺の予想では、ダンジョンも精霊と深い結びつきがあると考えている。
そしてこの世界では精霊に対しての知識が乏しい。
だからこそ、ダンジョンの全貌が未だに見えてこないのだと思う。
だが、アポカリプスには間違いなく精霊に詳しい人間がいる。
ということは、ダンジョンの秘密に辿り着いている可能性も高い。
時間との勝負になりそうだ。何かよくないことが起こりそうな予感がする。




