53話 九女は生徒会長
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「会長、こちらが今年度の予算案です」
「ありがとう。目を通しておくわ」
俺は今生徒会室へと向かっていた。現生徒会長であるキュウカへ書類を届けるためだ。
折角なのでキュウカの仕事ぶりを透明化魔法で姿を隠して見ていた。
キュウカは仕事に集中していて俺に対しての監視魔法からも目を離しているからチャンスだ。
生徒会長の机の前に立ってキュウカを見る。
スラリと伸びてまとまった黒い髪。長く伸びたまつげ。プルプルの唇。
髪を耳にかけて、綺麗な姿勢で書類にサインをしているキュウカ。
可愛さと綺麗さを併せ持った完璧な美少女だ。
「お兄ちゃん、そこにいますね?」
ギクッ
何故バレた……
「会長、先生はまだ来ておりませんが……」
「いいえ、この部屋の中にいます。匂いがします」
匂いだと!? 犬なのかっ!?
バレてしまっては仕方ない。俺は透明化魔法を解いた。
「おわっ!? 先生!?」
「はぁ……やっぱり居たんですね、お兄ちゃん」
「すまんすまん、キュウカの仕事ぶりを見たくてね。みんなも驚かせてごめんね」
呆れたような顔をするキュウカ。人前では敬語で話すキュウカもなんかグッとくるな。
俺は書類をキュウカに渡す。
「ありがとうございます。魔獣討伐訓練の資料ですか?」
「毎年恒例のね。騎士団への要請であったり、魔術委員との会議であったりの要請が書いてあるから目を通してサインを届けてほしい」
「わかりました。対応しておきます」
そういって書類を見始めたキュウカ。今は完全にお仕事モードだな。
邪魔しちゃ悪いと思い生徒会室を出ようとしたところで、一人の女生徒が生徒会室に駆け込んできた。
「生徒会長!! 大変です!」
「あなたは魔術委員の。どうしましたか?」
「校庭で許可されていない決闘を行っている生徒がいるのです!」
「魔術委員の対応は?」
「本日巡回の担当のもので対処にあたりましたが、高学級3年生同士の戦闘のため返り討ちにあいました……」
「他の生徒にまで被害を及ぼすなんて……私が出ます」
へぇ。まだこの時代にまだ決闘する奴がいるのか。
俺が生徒会長のときはこういうことは少なかった。何故なら監視魔法で学園内を監視していて、よからぬことをする奴がいたら容赦なく成敗していたからだ。
しかしキュウカでは監視魔法を大量に動かすのは難しい。俺の監視に相当なリソースを割いているからな。
そういう意味では、生徒会と魔術委員が舐められていると思われても仕方がない。
ちなみに魔術委員長はジーコなのだが、今日は非番でエルフの森に修行に行っている。
「会長! 危険です! ここは私にお任せください!」
「ダメです。確実ではありません。私がいくのが一番です」
「しかし……」
「私は非力に見えますか?」
黒いオーラを纏いながら凄むキュウカ。
その姿に、声をかけた生徒会の生徒が後退る。
「キュウカ、先生として俺も同行しよう」
「お願いします先生。ただし手出しは無用です」
もちろんだ。基本的に生徒同士の揉め事に教師が関与することはない。
そういう意味では、生徒会長は時に教師よりも権力を持つ立場にいる。
俺とキュウカは決闘が行われている校庭へと向かった。
校庭に辿り着くと、そこは悲惨な光景が広がっていた。
穴ぼこになった地面、燃えている木、止めに入ったであろう魔術委員の生徒が横たわったまま。
魔術師の卵としてはこの状況でまだ決闘をやめないのはどういうことだろうか。
今も高学級の生徒二人は魔法をバンバン撃ち合っているが、まずは魔術委員の生徒の安全確保が優先される。
キュウカは倒れている二人の生徒に近づくと、回復魔法をかけながら声をかける。
「大丈夫ですか?」
「うぅ……大丈夫……です」
「すみません……不甲斐なくて……」
「気にすることはありません。今はゆっくり休みなさい」
最低限の回復を終え、二人を魔法で浮かせて安全な場所まで移動させたキュウカ。
振り向いて、未だに決闘をやめない二人の生徒を無表情で見つめていた。
校庭の外にはギャラリーも集まっており、中には祈るようにキュウカを見ている女生徒もいる。
そんな状況で一歩ずつ歩み、決闘をしている生徒に近づくキュウカ。
そして——
「重力魔法」
生徒二人を完全に無力化する。
キュウカは妹達の中でも魔法が得意な子ではない。
だからといって、この魔術学院で敵うものがいるかと問われれば、間違いなくいないと言い切れるだろう。
魔法に関しては、全員にそれなりのレベルで訓練を積んできた。
それはキュウカも例外ではない。
集団の指揮や諜報活動では圧倒的な力を持つキュウカだが、戦闘も一流と呼ばれるレベルにいた。
そんなキュウカが、高学級の年上を相手に苦戦することなんてなかった。
ギャラリーからは、『す、すごい』『生徒会長ってあんなに強いんだ』『あの二人が子供扱いだなんて』という声が聞こえてくる。
「許可が降りていない決闘は校則違反です。それに、関係のない生徒に怪我を負わせて放置するなど言語道断。あなた達は魔術師の風上にも置けません。処分は追って伝えますが、退学処分も覚悟しておいてください」
魔法を解かれ、深く呼吸をする二人の生徒。その目はキュウカを睨みつけている。
「クソッ……元はと言えばお前が悪いんだ!」
「何を言うか! 貴様が私の髪型をバカにしなければこんなことにはなっていない!!」
「黙りなさい。理由がなんであろうと決闘を行なった時点で同罪です」
呆れた。髪型をいじられただけで決闘なんてしていたのか。下手すれば相手を殺しかねないんだぞ。
「上から物言いやがって……いいよなぁ、兄貴の七光で上手くやれているお嬢様はよ」
ん? こいつ今なんて言った?
そんなに死にたいか。クソガキめ。
『お兄ちゃん、絶対に手を出しちゃダメだよ』
ふぅ、危ない危ない。キュウカの言葉がなかったら、あいつらは今頃灰も残っていなかっただろう。
そうだな。今はキュウカに全てを委ねよう。
「それで?」
「それで?」
「だから決闘を起こしたのですか?」
「そうじゃねぇけど……」
「私が兄の七光であることと、あなた方が魔術師としてあるまじき行動をとったことに関係はありますか?」
「……」
「私が偉大な兄に劣っていることは、私が一番理解しております。兄が今も生徒会長なら、こんなくだらない問題も起きていないはずです。私は舐められているのも理解しております。ですが——」
キュウカは二人だけではなく、ギャラリーにも聞こえる声で言う。
「私は偉大に兄に一歩でも近づきたいと、追いつきたいと思うことは愚かなことでしょうか? 兄から受け継いだこの役目を必死に全うしようとする姿は、あなたにはどのように見えていますか? 上手くやれているでしょうか? 私は必死でこの学園を守りたいと思っています。兄が愛したこの学園を」
確かに。この学園は俺が愛していると言われても過言ではないくらい多くの思い出がある。それこそ、教師になってしまうくらいには。
「ですが、私一人では力不足なのです。私一人では兄には及ばないのです。当たり前です。兄は完璧で私は凡人なのですから。だからこそ……皆さんの力が必要なのです」
キュウカは先程の空気から一変、優しい口調で話し出す。
「私の及ばない部分は皆さんに助けてほしい。その代わり皆さんが助けを求めるときは全力で私が助けに参ります。そうやって兄以上の学園を目指したいと思っています。そのためには、皆さんの力が必要です。どうか、どうか未熟な私に力をかして頂けないでしょうか。学園をより良くしていくために」
ここにいる全ての人に頭を下げるキュウカ。
その姿を見て、ギャラリーから多くの拍手が沸き起こった。
中には涙して手を叩く者や、大きな声で叫んでいる者もいる。
「か、会長……すみませんでした……」
「俺も……ひどいことを言って……しまって」
「いいのです。私が及ばなかったのですから。まずは怪我をしてしまった魔術委員の生徒に謝罪をしてあげてください」
「はい……!」
「はい!」
決闘をしていた二人にも回復魔法をかけて、怪我をさせた二人の元へ行かせた。
俺は校庭にいるキュウカの元へ歩み寄る。
「さすがだなキュウカ」
「ありがとうお兄ちゃん、上手く使えてよかったよ」
実は先程キュウカは、ある能力を使っていた。
それは、キュウカに発現した"支配の能力"だ。
弱く使えば今回のように大衆を味方につけることも出来るが、強く使えば文字通り全てを支配出来る。国王や教祖にだってなれる最強の力。もちろん魔法ではないので精神魔法耐性でも防げない代物。
男だけではなく女もすべて虜にしてしまう魔性の女。
ちなみに俺にはまだ使ってくれていない。使ってくれれば合法的に襲え……おっほん。俺には使いたくないのだとか。
なんともキュウカらしい力だと思った。妹達がどんどん規格外になっていく。




