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50話 五女の愛

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。


「よっ兄さん」


「ウド、どうしたんだい?」


 放課後の職員室。

 俺は明日の授業で使う資料をまとめていた。するとウドが後ろから声をかけてきた。


「いやぁ何ってわけじゃないんだけどね。最近二人きりで話してないなぁなんて思ったりして」


「そう言われるとそうだな……よし、中庭で少しお喋りをしようか」


「いいのっ!?」


 良いも何も、俺だって明日の授業の準備より妹と一緒にいたい。

 こんなものは寝る時間を削って準備すれば良いのだ。


「もちろん。丁度切りのいい所だったしな。行こうか」


「うん!!」


 俺の腕に抱きついて元気な笑顔を見せてくれるウド。そこに昔泣いていたウドの面影はなかった。ちなみにランクはCランクだ。



 中庭に移動してベンチに腰掛けた俺とウド。

 その距離は兄妹というより恋人のそれであった。


「そういえば、いるはずの無い魔獣が出現する件については何か聞いてる?」


「まだ騎士団の中で調整中だってことは聞いてるよ。調査も進めているみたいだしな。だがシスハーレ領だけにシスハレナインが派遣されることは無いそうだ。恐らく短期間で休学届けを出して、いろんな領に派遣されることになると思う」


 今回の件に関しては、俺はあまり首を突っ込まないでいる。


 何故ならば、妹達がやりたいと言い出したことだからだ。

 俺もその気持ちを尊重したいし、俺がいれば最悪の事態になることもないはずなので、今回は見守ることに決めた。


「そっかぁ、私達の出番はまだ先だね」


「そうだな。それよりも、そろそろウドの歌を聞きたいな」


 俺が3年前に教えた訓練。

 武闘派の妹達にバンドをやらせて連携力を高めるというものだった。


 その成果はすごく出ていて、少し前に見たノーブル戦でも発揮されていた。


 そうとなれば、バンドの方はどれだけ上手になったのか気になるのは当然だろう。校内だけでなく王都内でも噂になるくらいの人気があるバンドだ。


「う〜ん。正直まだ兄さんに聞かせれるほど完成したとは思っていないんだよね」


 この件に関しては、俺は本当に一度も聞いていなかった。ゲリラライブも俺が絶対に聞けないタイミングでやっていたしな。

 もちろん聞こうと思えば魔法で聞くことも可能だったが、楽しみは最後に取っておきたいと考えている。


「でも今年の文化祭では聞かせてあげれると思うよ!」


 文化祭。


 これは俺が在学中に生み出した新しい文化だ。もちろん前世の文化祭をパクっただけだが。


 今年で4回目になる文化祭は、もはや魔法学院の恒例行事となっている。


 最初こそ感覚がうまく掴めず、ただの学習発表会みたいな感じであったが、年を重ねるごとにエンターテイメント要素が多くなり、去年の盛り上がりは凄まじかった。


 今年は俺が卒業しているが、後輩達が俺の魂を引き継いでいるため、去年よりも盛り上げてくれることだろう。


「文化祭か。楽しみが一つ増えたな」


 高学級になったため、今年からミスコンに参加することが出来る妹達。

 こちらも密かに楽しみにしていた。


 そしてウド達のバンドが聞けるとなれば、なんとしても文化祭を開催させなければならない。


 もしその時に星が降ってきても全力で阻止しよう。


「そういえば、最近歌に"愛の力"を乗せれる様になったんだ」


 ウドが言った"愛の力"とは、3年前にウドに発現した力だ。シロやハーピと同じ類の固有能力。


 効果は詳しいことがわかっていない。今判明していることは、ウドが思った人の傷を癒すという回復能力があるということだけだ。


 この思った人というのがミソで、誰にでも回復を出来るわけでは無い。ウドが心の底からその人のことを思わないと発動しない能力だった。


 逆にいうと俺や妹達に対しては絶大な効果を発揮する能力なのだが、俺も他の妹達もほとんど怪我をしないため、能力の把握が出来ないでいた。わざと怪我するわけにもいかないしな。


「何か愛の力について判明したのか?」


「う〜ん、気持ちを込めて歌を歌うといつもよりも思いが伝わってるって感じるんだよね! みんなの心の声が少し聞こえるっていうの? それに寄りそう感じで歌ってあげるの。わかるかな?」


 ごめん、あんまりわからない。


 前世でも歌が上手い人は心が込もっていると表現していたが、あれは技術だ。

 その歌の情景を想像させる様にテクニックを駆使して演出することだと思っている。


 ウドの場合は、文字通り心を込める歌い方が出来るようになったということだろうか?


 そして心の声が聞こえると。これが魂を指すのならば、ウドの能力にも精霊が関係するのかもしれない。


「歌はときに誰かの命を救うことが出来る力があるからね。ウドの言うことはなんとなく理解出来るよ。残念ながら俺には人の心の声は聞こえないけどね」


 これはオリジナル魔法を使っても聞くことが出来ない。


 理由は魔力の限界にある。心が魂だと仮定するならば、魂は精霊が存在を得た姿だ。一見精霊視でも見ることが可能に思えるが、魂と精霊、元は同じでも存在が全く異なるため見ることが出来ない。

 もちろん精霊が生み出す魔力で精霊を生み出すことも出来ないため、魂を魔法で生み出すことも出来ない。


 魔力と精霊と魂は、複雑な関係にあるのだ。


 その魂に干渉出来るウドは、ある意味一番神に近い存在かもしれない。

 シスハレナインの中心を担う存在。規格外だ。


 少し前まで自分の存在理由について悩んでいたとは思えない、とんでもない可能性を秘めている。


「兄さんにもわからないことってあるんだね。なんか嬉しい」


「そりゃ、俺だってただの人間だからな。知らないことばかりだよ」


 人より多少魔法が上手く使えるだけだ。それよりも妹達の方がよっぽどすごい。


「そうえいば、アーシェとはどうなの?」


「というと? 普通だと思うけど」


「でもアーシェは最近兄さんと会う機会が減ったって愚痴ってたよ?」


 実家に招いてちゃんと結婚について考えていますよアピールをしたけど足りなかったか……


 そういうことじゃ無いんだろうな。単純に好意を寄せてくれていて、俺との時間を楽しみにしてくれているということだろう。


 別にアーシェに気がないわけじゃない。妹達に劣らない美しさと国の民を思う純粋な心などは好きだ。


 ただ、妹達のことと比較してどうしても優先度が下がってしまう。ダメなことなのだろうけど。


 妹にこんなことまで心配されるなど、やはりダメな兄だな。


「そうか……最近立て込んでいてな。そのうちしっかりと時間を作るよ」


「今度伝えといてあげるね。兄さんには早く落ち着いて欲しいからね! 後に続くためにも」


 最後は聞こえないように呟いたのだろうが、全部聞こえてるぞ。それが狙いか。

 ウドの場合俺とアーシェのことを気にかけてくれている気持ちに嘘は無いだろうけどな。


 その後、ウドと日常の話をたくさんした。


 イクスが紐だけの下着を買っていたとか、

 ジーコが毎日こっそりおっぱいマッサージをしているとか、

 サンキが最近連れてきたポチに武術を仕込んでるとか、

 シロが部屋で花を育て始めたとか、

 ロッカとチセの化粧が個性的になってきたとか、

 ハーピがだいふくさんのお菓子作りをメイド長のユナさんに教えて貰ってるとか、

 キュウカが後輩の女の子達の面倒を見ているとか。


 一応監視魔法で把握しているみんなの日常ではあるが、ウドの視点から聞くみんなの日常は、魔法で見るよりも鮮明で輝いていた。


 そんなことをしていると、もう陽が暮れかけている。


「ウド、そろそろ帰ろうか」


「うっそ! こんな時間まで話し込んじゃったんだ! ごめん兄さん、仕事中だったのに」


「気にしなくて良いよ。久しぶりにウドと二人で話せて俺も嬉しかった」


「私もだよ! また誘うね! 兄さんは帰る?」


「そうだな、残った仕事は家で少しすれば終わるから一緒に帰ろうか」


「うん! どうせなら歩いて帰ろうよ!」


 手を差し出したウド。俺はその手をとって横に並び、歩き出す。


 まるでそのまま熱い夜になる前の下校デートのようだが、勘違いしてはいけない。



 兄と妹だし、先生と生徒だ。



 あれ……全然やらしいことがありそうな関係だ。


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