48話 三女の拳
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「兄様、私の必殺技お披露目会に付き合ってくれてありがとうございますデス!!」
今日はサンキの考案した必殺技お披露目会だ。
必殺技を生み出すのにかかった時間は3年。
一体どれほどの必殺技が生み出されたのか。
俺達は、遠く離れた山奥に来ていた。
サンキから、「周囲の被害を気にしなくてもいい場所がいいデス!」と言われていたので、少し調べておいた場所だ。
「それでは兄様、いくデスよ!!」
サンキは左足を前に出し、右足を後ろに下げ半身の状態になる。
右手を握り込み腰の位置で構えて、左手は軽く開いて前に構えた。
すると、サンキの周囲を魔力が駆け回る。サンキを中心に渦が巻いていた。
その魔力が徐々とサンキの右手に集まり、右手だけではなく体全体から光を放つ。そして、
「アルティメット・カタストロフィ!!」
右手を前に打ち出す。それと同時に極太の光の魔力がサンキから放たれた。
魔力はそのまま正面の山に直撃すると、山を貫通して突き抜けていく。
どこまでも伸びていく光は、通り道のすべてを無に返して進む。
『究極の破滅』か。この技にぴったりだな。
やがて光が収まると、地平線まで全てが抉られた跡が続いていた。
「すごいな。単純な威力だったら妹達の中でも一番じゃないか?」
「ありがとうございますデス! 兄上のドラゴン攻撃が参考になりましたデス!」
サンキはなんと俺の魔力攻撃を参考にしたと言う。
確かに。この攻撃は文字通り全てを消す。物質も魔力も。
その分準備に時間がかかるのと、周囲への被害が甚大だが、単純な攻撃力ならば俺が昔に見せた『無知故の幸福』よりも威力は上だろう。
「見せただけで再現だけでなく、それよりも上をいくなんて流石はサンキだ」
サンキもジーコ同様天才だ。ここまで一人で力をつけてきたのだから。
「それでその……もう少しお願いがあるのデス」
「なんだい?」
「実は、色々なシチュエーションで必殺技を試したいのデス!!」
気持ちはわかる。恐らく今回は、昔俺が山を抉ったのを再現したかったのだろう。
だが、必殺技が出来た以上試さずにはいられない。その高揚感は抑えられない。
なれば俺が出来ることは一つ。
「よし、それじゃサンキの必殺技お披露目ツアーに行こう!!」
「いいのデスか!!」
「あぁ。任せておけ!!」
そうとなれば、最高のシチュエーションを見つけるまでとことんやるぞ!!
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——ファースト・シチュエーション
俺達は、海に来ていた。
「まずは海に向けて放ったらどうなるか試してみよう」
「わかりましたデス!! 楽しみデス!!」
サンキは砂浜で先程と同じように必殺技の構えを取る。
「アルティメット・カタストロフィ!!」
海に向かって放たれたサンキの必殺技は、水面を抉りながら進む。
それは水平線まで伸びていた。
ふむ。周りに邪魔な物がないので必殺技の規模感が見えるのはすごくいい。
やがて光が収まる。すると、抉られていた水面がモーゼのように元に戻っていった。
「どうデスか兄様!!」
うん。悪くはない。だが、山を抉るよりもすごいかと言われると、あちらの方が絶望感が大きかった気がする。
まぁ攻撃が当たれば相手は消し炭なので関係ないのだが、必殺技とはそういうことじゃない。
なぜ必殺技がかっこいいか? それは伏線回収のように完璧な状況で発動されるからだ。
それが無くして必殺技とは言えない。それ以外はただの強攻撃だ。だってそんなことしなくても相手を倒せるし。
これは美学だ。必殺技を持つ者に与えられた。
「ダメだな」
「ダメ……デスか……」
「落ち込むことはない、サンキ。海とは相性が悪いということだ。この程度で諦めていたら真の必殺技は完成しないぞ?」
「ハイ!! まだまだいくデス!!」
よし、次なる場所へ行こう。
——セカンド・シチュエーション
次にやってきたのは、呪いの館。
なんでも、アンデッドが住み着いていて誰も近寄れない場所らしい。
今回は、この館ごと吹き飛ばしてみようというわけだ。
やはり建物を壊すのも醍醐味だからな。ただ、街中で放つわけにもいかない。
もう使われていない廃墟と化したこの館はうってつけだった。
「兄様……私こういうのは少し苦手デス……」
「大丈夫だよ。所詮は魔獣だから」
サンキは俺の腕を抱えたままだ。うん、程よくハリのある感じがたまらん。Dランクくらいにはなっただろうか? ちなみに参考程度だが、イクスはKランク、ジーコはAランクだ。
俺とサンキはくっついた状態で門を潜る。
庭には無数の墓標があった。なんで庭に墓標があるんだ。
少し歩くお、墓地からゾンビのような魔獣が地面から這い出てくる。
「ヒ、ヒィ!! 兄様! 不気味デス!!」
「大丈夫だサンキ! 今こそ必殺技を使うシュチュエーションだ!!」
「わ、わかりましたデス!!」
サンキは俺の腕から離れると、必殺技の構えを取る。腕が少し寂しい。
「ア、アルティメット・カタストロフィ!!」
呪いの館に向かって放たれた必殺技は、全てを消し尽くす。
館に当たる直前に「チョ! それはヤバ」と聞こえたが気のせいだろう。
呪いの館はサンキの必殺技で消滅した。ゾンビ達も無くなった館の方を見ていた。
そして、こちらを振り返り目が合う。
3秒ほど目があったので、流石に怒って襲いかかってくるか? と思われたが、なぜかそのまま地面を掘って潜ってしまった。
「どういうことデスか??」
「多分、ビビったんじゃないかな」
「ところで、今回はどうデシたか!?」
そうだな。建物を消しとばすというのは一見爽快だが、建物は崩れて瓦礫が出ることでリアリティと迫力が出ることに気がついた。
死ぬ間際に「くそったれめぇぇぇぇ!!」とか叫んでくれるボス的な奴がいれば少しは盛り上がったかもしれないが、そんなこともなかったし。
「残念ながらまだ遠いようだ」
「そうデスか……でも諦めないデス!!」
「その意気だ!! まだまだいくぞ!!」
——サード・シチュエーション
今回は空中に浮いていた。
「ここではどこに向かってやるのデスか?」
「それはな。あれだ」
俺はさらに上空の雲の付近を指さす。
すると、丁度いいタイミングで雲から天空城が姿を表した。
「何デスかあれは! すごいデス!」
「そうだろう!! この前ちょっと高いところからこの星を見る機会があって、その時にたまたま見つけたんだ! あれなら壊しても誰も文句は言わないはずだ!!」
この世界の文献を色々と読んできたが、天空城があるなんて記述はなかったから存在自体知られていないはずだ。
知られていないということは壊しても問題ない。
まさに最高のシチュエーションだ。
「わかりましたデス!! あれに当てるデス!!」
サンキは空中で構えをとり、
「アルティメット・カタストロフィ!!」
必殺技を天空城に放った。
天空城は当たる直前に変な軌道を描いて必殺技を回避したが、全てを回避することが出来ずに少し掠める。
掠めた部分はもちろん消滅。少し残念な形の天空城の出来上がりだ。
「避けられてしまったデス……」
「仕方ない。本来は動いてる敵に当てる想定はしていない必殺技だからな」
掠っただけでは今回は失敗だな。ただ、ここまでで感じた事として、やはり強力な魔獣などを一撃で葬りたい。
「やっぱり手頃な魔獣を探すか?」
「今の所しっくりくる感じはないデス……」
その時、天空城から黒い影が飛び出してきた。その影は段々とこちらに近づいて来る。
それが目の前に辿り着くのは一瞬だった。
「儂の城に傷を付けたのはお主らか?」
あ……まずい。
やったぜこれ。
俺はサンキと顔を見合わせる。
目の前には巨大なドラゴン。それも、ノーブルが操っていたドラゴンとは存在感が圧倒的に違う奴だ。恐らく伝説とか言われているのだろう。
「ふむ。何も答えないか。ならばここで消えてもらおう」
俺とサンキは同時にドラゴンに目をやる。そして、
「見ぃつけた(デス)」
俺は一瞬で拘束魔法を行い、ドラゴンの動きを封じる。
サンキも既に必殺技の構えが完了していた。
「ぬ!! 何だこれは!! 待て!! 待つのだ!! 一旦話をしようではないか。儂も勘違いだったかもしれん。その魔力はダメだ。それは良くない!! 待つんだ!」
え……せっかく絶好のシチュエーションだと思ったのに……
命乞いされたらやりにくくなってしまった。
「どうするサンキ」
「そうデスね……」
「何でもする! 城もやる! いや、あげます!! なのでそれだけは! 儂もまだ死にたくないのです!! どうか!」
完全にシラけてしまったな。流石のサンキもこれでは必殺技を放てないだろう。
「おい、名前は?」
「名前……ですか? 一応人間にはジェネシスドラゴンとか呼ばれていましたが」
「そうか、じゃお前は今日からポチだ」
「ポ……ポ、ポチ?」
「サンキ、サンドバックじゃなくて、実験動物じゃなくて、遊び相手じゃなくて、ペットが出来たぞ。多分それなりに殴っても大丈夫だと思う」
「ペットデスか!! 嬉しいです!! すぐに壊れるものは苦手デシた!」
「あ、あの……」
「どうしたポチ?」
「い、いえ……なんでもありません……」
こうしてサンキは、ペットのポチを手に入れた。
ポチは実は人化することが出来るみたいで、今ではポチのサンドバックじゃなくて訓練相手になってくれている。
そして俺は天空城という、新しい拠点を手に入れた。
ミッションコンプリート!!




