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47話 次女の弓

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。


『兄様、行きますわよ!!』


『いつでも大丈夫だよ』


 ジーコは100m程離れた場所で、愛用の弓を構えて矢を射る。

 その矢は、俺の頭の上に乗っているリンゴに見事に命中した。


『兄様、どうですか?』


『うん、ちゃんと当たってるよ』


 今日はジーコの訓練の手伝いをしていた。

 なぜ、ジーコが俺に矢が当たったかを確認したか。


 それは、ジーコが目隠しをした状態で矢を射っていたためだ。


 イクスのように訓練する相手がいないジーコは、このように色々な弓術を身につけていた。そのおかげで、今では目隠し状態でも正確に的に命中させることが可能だ。まさに天才。


「よかったですわ、兄様に当たることがなくて」


 ジーコが近付いてきて安堵した。

 なぜわざわざ俺の頭にリンゴを乗せたかというと、人の命がかかった状況でも正確に矢を射ることが出来るのかという精神力を鍛えるためである。


 どんな状況で矢を射ることになるかわからないからな。


「それにしても、いよいよやることがなくなってしまったな」


「そうですわね……これ以上は何を極めれば良いか……」


 実は、ジーコの師匠になり得る人をずっと探しているのだが見つからなかった。

 この世界では、弓術をわざわざ極めようとする人間はいないらしい。

 噂では、エルフ族が弓術に長けていると何かの書物で見たことがあるが、エルフ族の居場所についての手がかりはなかった。


 だが、こうなってしまった以上探すしか無いか。


「エルフ族、探してみる?」


「よろしいのですか?」


 実は、雲隠れしているエルフ族に対して、コンタクトを取ることに積極的になれずにいた。


 深い意味はない。エルフ族が隠れているならいたずらに刺激しないほうがいいと思ったのだ。

 人間に友好的かさえもわからない。そもそも友好的ならば隠れてさえいないと考えた。


 だが、妹の成長とエルフ族の都合を天秤にかけた結果、妹の天秤に傾いてしまった。


 今までは弓を極めたという段階ではなかったが、ここまでくると極めたと言っても過言ではないしな。


「あぁ。流石にジーコの成長を止めてまで干渉しないと決めてるわけじゃ無いし。こうなればエルフ族にコンタクトを取ってみよう」


 そうなると、エルフ族の居場所の調査をするわけだが、実は少し心当たりがある。


 エルフ族は森の中で生きる種族なのだが、その理由として精霊という存在が必要不可欠らしい。

 ということは精霊が多く集まる場所に、エルフ族もいるということだ。


「ごめん、ちょっと行ってくる」


 俺は高度100kmくらいの位置に転移する。

 本来ならば人間が生身でいれる空間では無いが、そこは魔法でなんとか出来る。

 そして、高度100kmはギリギリ魔力が存在する空間でもあった。


「感知魔法」


 上空100kmの位置だと、住んでいる星が結構遠くまで見える。


 この状態で感知魔法を使えば、ほらこの通り。精霊が多く集まる森が何箇所かある。

 あとはその場所にエルフ族がいるか、監視魔法で確認するだけ。あった。

 一つの森にエルフ族と思われる集団を発見した。


 とりあえず戻ろう。


「ただいま。とりあえずそれっぽいのを見つけたよ」


「相変わらず兄様は規格外ですわ……エルフ族は学者達が血眼になって探してるはずですのに」


 え? そうだったの? みんなもこの方法で探せばいいのに。


 とりあえず行ってみよう。


 ————————————————————————


「失礼、ここで一番弓が上手い人を紹介してくれないか?」


「な、何者だっ!?」


 お、人間の言葉は通じるようだな。

 里っぽいところの門番っぽいエルフの後ろに転移した俺とジーコは、とりあえず声をかけてみる。


「怪しい者じゃないんだ。ただ弓術を教えて欲しくて」


「人間の侵入者だ!! お前達!!」


 おかしいな。話を聞いてくれない。

 門番エルフが声を上げると、近くにいたエルフ達が一斉に弓矢を構えた。

 へぇ、仲間がいるのに弓矢を構えるってことは、仲間には当てない自信はあるんだな。面白い。


 とりあえず手をあげて敵意がないことをアピールする。


「話を聞いてくれ、俺達に敵意はない」


「貴様ら! どうやってここに侵入した!」


「兄様、ダメですわよ」


「転移してきただけなんだ。この里? の長に話がしたい」


「お前ら遠慮はいらん! 動いたら即刻射るのだ!」


「兄様! 冷静になるのですわ!」


「何もしないから、話し合わないか?」


「貴様はここで殺してやる!!」


「話を……聞けぇぇぇえぇぇぇ!!」


 思わず門番エルフに拳骨をお見舞いしてしまった。

 しまった……冷静さを欠いてしまった。精進が足りんな。


 その時、周りのエルフ達から一斉に矢が飛んでくる。


「もう兄様! あれほど言いましたのに!!」


 ジーコはそう言いながら、体の周辺に無数の矢を召喚した。

 そして、飛んでくる矢全てを相殺して撃ち落とす。

 弓術を極めると、弓さえいらなくなるらしい。


「な、なんだあいつは……あんな芸当、弓神様にしか出来んぞ……」


「なぜ人間の小娘が……」


 周囲のエルフ達は、ジーコの技を見て動揺していた。

 弓神様ねぇ。


 そのとき、俺の脳内でアラームが鳴る。

 これは妹に危険が迫ってきているときの音だ。少し先の未来を読んで危険を察知する魔法を常にかけている。


 俺は時間停止を行った。


 すると、ジーコの目の前まで迫る矢が宙に浮いていた。


 恐ろしいな。完全に察知出来ない攻撃だ。俺の魔法にも引っかからない程の。

 魔力は使われていない。そして殺気もない。世界が矢の存在を認識していない究極の攻撃。恐らくエルフ特有の精霊の力か。


 とりあえず止まっている時の中で矢を掴む。

 再び時を戻すと、矢の勢いが手に伝わり、握った拳から血が滴った。


「兄様!! どうなされたのですか!」


「喜べジーコ。師匠が見つかりそうだぞ」


 俺は矢が飛んできた方を見る。ジーコも同じように里の奥の方を見た。


「ほう、妾の矢を素手で受ける人間がいるとはな。お主、名は何と申す」


 エルフの長と思われる者が、ゆっくりと姿を表す。


「ルドです。一応人間です」


「化け物と疑われる前に自分から名乗りおったか。面白い男だ。お主、妾の情夫になる気はないか?」


 俺はエルフという言葉で勘違いしていた。

 金髪で長い耳。白い肌。愛くるしい存在。


 だがあのエルフは何だ?


 褐色の肌、大きな胸、面積の小さい服、というか下着?

 俺のイメージ通りなのは長い耳だけ。


 だが、情夫というワードには惹かれる。俺も最近リビドーの処理に困っていたところだ。


「面白い提案」


「ふざけないで下さいまし!」


「おっほん、そうだふざけるなおまえー! 急に矢なんて!」


 危ない危ない。妹に嫌われるところだった。ここは怒るところだったな。


「状況を見るに、先に手を出したのはお主らの方ではないか?」


「すみませんでした」


「兄様……」


「まぁ良い。人間がエルフの里に何の用だ?」


 やっとまともに話が出来るエルフに出会えた。


「弓術を教えてくれませんか? この子に」


「其奴に弓術を? 妾の矢に反応も出来ない貧相な胸の小娘に?」


「胸は関係ありませんわ!! 最近は少し大きくなっていますのよ! 兄様! なぜ目を逸らすのですか!」


 いや、うん……成長してるよちゃんと。


「そこの小僧ならばまだしも、小娘に教える気にはなれんな」


「そこをなんとか。交換条件で情夫に」


「私は強くならなければいけないのですわ!!」


 ジーコが大きな声でエルフに物申す。


「弓術の可能性を諦めたくはありませんわ。私は弓術が大好きですもの……兄様との絆そのものですわ……お願いします、私に弓術を教えてくださいまし」


 頭を下げるジーコ。

 エルフの長は少しの間考え込んでいたが、やがて口を開いた。


「妾も弓を兄に教わった。今はもういないがな。それに小僧。お前は面白そうな人間だ。お主が週に一度この里に顔を出すというなら考えてやろう」


 なんと! このエルフも妹属性を持っていやがった!

 あれ? 急に可愛く見えてきたぞ。おかしいな。色っぽさが増してきた。


「わかった。妹のためだ。その条件を受け入れよう」


 なんだろ、週に一度現地妻に会いにいく馬鹿な男になった気分だ。

 これって情夫になったってこと? 国外だからちょっとくらい羽目を外してもいいよね?


「兄様、よろしいのですか!?」


「もちろんだ。精一杯やりなさい」


「はい! ありがとうございますわ!」


「羨ましいものだな。私は弓神・アルテミス。貴様に弓というものを教えてやろう」


 意外とあっさりジーコの師匠が決まった。

 よかったなジーコ。


 仕方がない。可愛い妹のために通うかー、エルフの里に。

 本当に仕方ない。

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