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46話 長女の剣

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。


「わかった。少しこちらの方でも調査しよう」


「よろしくお願い致します」


 実家から帰った次の日、俺は騎士団事務所を訪れていた。

 父上から聞いた魔獣の話と、シスハレナインに魔獣処理の仕事を任せて欲しいという話をするためだ。


「シスハーレ領の現状は把握した。だが、シスハレナインをシスハーレ領だけに派遣するというのも現状難しい。他の領地でも魔獣の問題は尽きないからな」


「そうですよね。もちろん承知しております」


「だが、出来る限り希望通りになるようにしよう」


「ありがとうございます」


 騎士団長との話が終わったので俺が帰ろうと席を立つと、


「どうだ、たまには妹の訓練姿でも見に行かないか?」


 と誘われた。

 いつも監視魔法で見てはいるが、直接は見たことがなかったので有難い。


「是非、よろしくお願いします」


 騎士団長が「こっちだ」と先導してくれたので後ろに続いて歩く。


「イクスはよくやってくれている。騎士団の中でも一番若いが、団員の中で敵う者はいない」


 騎士団長がイクスをベタ褒めする。まるで娘のことを話しているようだ。


 イクスはやらんぞ?


 今は第一部隊の隊長だが、ゆくゆくは副団長。そして騎士団長が引退した後は騎士団を任せたいと言ってくれた。


 そんな話をしていると、騎士団訓練場に着いたようだ。


 訓練場は、闘技場のようにアリーナと観客席がある作りになっている。

 俺達は観客席の方で訓練を見守る。


 アリーナでは、騎士団員同士の模擬戦が行われているようだった。

 イクスは、その模擬戦を見ている。

 剣を地面に突き立て、柄頭に両手を置くその姿はまさに騎士そのものだった。


 団員の一人が倒れ、もう一人の団員が顔に剣を突きつける。


「そこまでっ!!」


 イクスが模擬戦終了の合図をする。その後は団員達に声をかけてアドバイスをしていた。団員達も姿勢を正して聞いている。


 すると、次はイクスが模擬戦をするようだ。相手は……3人。

 団員1人では最早イクスの訓練相手にもならないらしい。


 模擬戦が始まると、イクスは洗練された動きで3人を翻弄している。

 3人はそんなイクスを前に上手く攻めることが出来ていなかった。


 強いな。


 そのまま連携の崩れたところから1人ずつ処理していくイクス。

 攻撃に回れば大胆に攻撃を繰り出し、相手を圧倒していた。


「どうだ、強いだろう」


「そうですね。兄としても鼻が高いです」


 ドヤ顔するな。俺だって知っている。


 模擬戦が終わる頃合いを見て、俺と騎士団長はアリーナへと降りた。

 イクスが他の団員達へ喝を入れているところだ。


「お前達は剣を扱いきれていない。その重さに翻弄されすぎている。剣は生き物だ。鼓動を感じろ」


 うん。すごく感覚派のアドバイスだ。団員達はなぜこのアドバイスに目を輝かせて聞いているのか。


「イクス、精が出るな」


「騎士団長、いらしていたのですね。と……あ、兄上!?」


 イクスに呼ばれたので俺は「よっ」とラフな感じで手をあげる。

 普段はこんなことしないが、騎士団長がイクスとの信頼関係をゴリゴリにアピールして来たので仕返しだ。


「見ていらしたのでしたら声を掛けてください!!」


「いや、イクスが普段どんな訓練をしているのか素のままを見たくてね。ゴメンゴメン」


「恥ずかしいです……」


 恥ずかしいのか?? 確かに普段のイクスからは感じない豪胆さを感じた。

 鬼の女将軍という言葉がしっくりくる。


「なんで? かっこよかったよ」


「ほ……本当ですか?」


 顔を赤らめるイクス。うん、やっぱり可愛い。そう思っていると、


『お、おい……隊長が笑ってるぞ……』


『いつもは厳しいがあんなに無邪気になれるのだな……』


『か、かわいい……』


 といった団員の呟きが聞こえて来た。

 ふむ。お前達も見る目があるようだ。ここで悪口を言っていたらその首は繋がっていなかっただろう。


「あ、兄上。その、折角でしたら稽古をしませんか?」


「隊長っ!? いくらなんでもそれは!」


「そうです! お兄様は魔術に優れた者だとは聞き及んでおりますが、剣はまた別の話では! それもここでやることは無いはずです!」


「黙れ」


 イクスは、俺に背を向けて言葉を発した。

 監視魔法で顔を見てみたけど、殺意の籠った眼力で団員達を睨みつけていた。


「お前達の物差しで兄上を測るな。兄上は世界で最強だ」


 そこまで言い切られると少し恥ずかしいな。


「そ、それであればまずは私共に確かめさせてください!」


「そうです! 騎士団以外の者に後れをとる我々ではありません!!」


「はぁ……」


 イクスはため息をついていた。

 まぁ団員達の言いたいこともわかる。身内とはいえ、帯剣もしていない者が部隊長に稽古をつけて貰えることなど本来有り得ない。

 だが、そもそも勘違いをしているようだ。イクスが俺に稽古をつけると。


「イクス、俺は構わないぞ。久しぶりに体を動かしたいし」


「いいのですか、兄上」


「あぁ、構わないよ。身体強化だけは使わせてもらうね。あとは刃を落とした剣を貸してくれ」


「わかりました。こちらをお使いください」


 俺はイクスから剣を受け取る。


「私がお相手をしても?」


「いいえここは私が」


「僕に任せてください!!」


 俺が剣を確認していると、立候補者が続々現れた。


「何を言っているのですか。一対一であなた達が敵うわけがありません。兄上、何人同時がよろしいですか?」


 団員達は、一対一でないことに驚きを隠せないでいた。


「そうだね……全員で」


 俺がそう告げると、訓練場を無音が駆け抜けた。


「我々は、馬鹿にされているのか?」


「いいでしょう。そこまで仰るならば手は抜きませんよ」


「隊長、本当にやってよろしいのですね!!」


 本日訓練をしているのは100人程度。

 ふむ。楽勝だな。


 騎士団長は呆れながらも楽しみにしているような顔でアリーナの端の方へ移動する。


 イクスは100人のさらに後ろに移動した。

 準備は整ったな。


「騎士団の皆さん、俺の運動不足解消に付き合ってくれてありがとうございます。どうぞ、殺す気で来てください。でないと楽しめそうにありませんからね」


 一応模擬戦前の挨拶をすると、100人の団員が怒号を上げながら俺に突っ込んできた。


 おぉ、怒ってる怒ってる。戦闘で冷静さを欠くのは良く無いよ。


 俺は身体強化を発動して、適当に移動しながら団員を斬って、いや殴っていく。

 一振りで一人は勿体無い。一人に当ててぶっ飛ばせば5人くらいが巻き込まれて倒れる。


 スペースが空いたら、間合いを詰めて来た奴から順番に意識を刈り取っていく。

 そうすると、冷静になったのか団員達の足が止まった。


 動かないというならあとはただのサンドバックだな。


 身体強化で超高速に動き、団員達の間をスラスラと通りながら意識を刈り取っていく。目にも止まらない速さで。


 恐らく団員達には瞬間移動しているように見えただろう。身体強化も極めればこれくらいは可能だ。


 そのとき、一人の団員が言った。


「ば、化け物……!!」


 化け物か……。そうだよな。

 俺が相手だったら同じ感想を抱くだろう。


「貴様、今兄上を化け物と言ったか?」


 俺のことを化け物と言った団員の背中には、イクスの姿があった。

 イクスはそのまま俺の方に向かって来ながら言葉を紡ぐ。


「お前達にはまだ理解できないだろう。兄上がいる高みが。孤独が。それでも一つの信念のためにここまで上り詰めたのだ。私はそんな兄上を尊敬し、追いつきたいと常に思っている。そんな私も、化け物か?」


 俺の信念。妹達を守る。

 信念って言われるとかっこいいな。


「い、いえ……」


「お前達に足りないのは、その信念だ。守りたいものを信じる心が足りないのだ。信念があれば、誰でも強くなれる。この私のようにな」


 か、かっけぇ……我が妹ながら天晴れだ。

 イクスの努力は俺も知っている。だからこそ出た言葉なのだろう。


「お前達に、化け物同志の戦いを教えてやる。目に焼き付けておけ。兄上、よろしいですか?」


 最後は困ったような表情で俺に問いかけるイクス。可愛い。


「あぁ、久しぶりにやろうか」


「参ります。兄上!!」


 久しぶりのイクスとの模擬戦。

 言葉ではわからない、監視魔法だけでは知り得ない、イクスの成長が剣から感じ取れる。

 嬉しいな。俺を孤独にしまいと努力して身につけた剣か。



 その日、騎士団訓練所のアリーナには、無数のクレーターが出来た。

 伝説と言われた模擬戦は、騎士団の歴史に残るほど凄まじいものだった。


 模擬戦の最後は男の剣が折れたことにより、部隊長の勝利で終わった。

 その時の部隊長の姿は、その場にいた全ての物を虜にする程、美しい笑顔だったという。


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