45話 雲に喧嘩を売られた
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「お母様! これ美味しいです!」
「コクコク」
「リンも大好きっ!!」
「マルもっ!」
「おいしぃです!!」
「あらみんな、ありがとう」
久しぶりの実家での夕食は、母上がみんなのためにシチューを作ってくれた。
シチューは俺達兄妹の大好物だ。メイド妹達にも大好評。
「それにしても、娘が5人も増えてしまいましたね」
「お義母様、私も娘として数えて頂きたいです」
「そ、そうね、アーシェ……ちゃんはルドの婚約者ですものね! 私の義娘です」
「ありがとうございます、お義母様」
父上と母上には初対面の娘が6人出来たことになるが、元々10人もいるので問題ないだろう。
「夕食を食べ終わったら、星を見に行こう。絶好のスポットがあるんだ」
「いいね! 私ここから見る星が一番好きなんだ!」
ウドは俺の提案にノリノリだ。
「私も久しぶりに出ようかな。どうだルド、一緒に飲まないかい?」
父上はとっておきのワインを開けようと言ってくれた。
酒か。この世界では飲んだことがないからいいかもな。
俺達は夕食を食べ終え、みんなで後片付けを行なった。
本来であればメイドさんが全てやってくれるが、なんとなくそういう流れになったのだ。
そして、星がよく見える川辺へと移動した。
ここから見える星は何がいいかって、川が綺麗すぎて夜空が水面に映るのだ。
目の前の景色全てが満点の星空に見える最高の場所だった。
「あら、さっきまでは晴れていたのに丁度雲が出て来てしまいましたね」
だが、残念ながら今日は夜空が雲で覆われていた。
母上の言う通り、晴れていたからよく見えると思ったんだけどな。
「残念ですね……」
「ま、そういうこともありますわ」
「悲しい……」
「仕方ないね」
久しぶりにあの景色が見れると期待していた分、妹達もすごく残念がっている。
ふむ。あの雲はどうやら俺に喧嘩を売っているようだ。
今日は妹達のための休日だぞ?
そんな日にこの夜空を隠すなど万死に値する。
「風魔法」
ほら簡単。
曇りの日だってこの風魔法でパパッとロマンチックな風景に早変わりだ。
おすすめです。風魔法。
「相変わらずルドは規格外だね」
「お兄ちゃん……普通は雲は晴らせないよ。しかも風魔法って……」
父上とキュウカが苦笑いしている。あれ? シロにも出来るよね?
「少し……時間をかければ……できる……かも?」
ほら見ろ! シロにだって出来るじゃないか!
「でも……風魔法では……出来ない」
あれ、一瞬で裏切られた。しょぼん。
でも、
「わぁ!! すごい綺麗です!!」
「いつ見ても美しいですね」
「本当ですわ!!」
「懐かしいですわね!!」
メイド妹達も、妹達も喜んでいた。
「リン! お星様を捕まえに行こ!!」
「マル! 待ってよ!」
「シームもいくぅ!」
メイド妹達は、水面に浮かぶ星達を追いかけて川遊びを始めた。
「コルは行かなくていいのかい?」
「コクコク」
コルは声が出せないので、手に持っていたメモ帳に言葉を書いてくれた。
そこには、「お兄様と一緒に星を見たいです」と書かれていた。可愛いなおい。
「ルド、それじゃ一緒に飲もうか」
「私も久しぶりに飲もうかしら、ルドの卒業祝いですのもね」
「ありがとうございます父上、母上」
父上は持って来たワインバッグからグラスを3つ取り出し、ワインを注いでいく。
それを受け取って、妹達が川ではしゃぐのを見ながら乾杯する。
至福の時間だ。ワインの味はよくわからないが。
「ところで、ルドは将来どうするんだい?」
「どうする、ですか? 私はこの領地を継ぐのでは?」
「本来であれば、長男が家を継ぐのが貴族のルールだけどね。ただルドに関してはそれが当てはまらないと思うんだ」
父上曰く、俺がアーシェと結婚するには家の格が低いとのことだ。
もちろんその点については俺も疑問に思っているが、アーノルドが気にするなと言っていた。
その話を父上にしたところ、恐らく俺に新たな貴族位を与えるのではないかと予想している。それも伯爵以上の。
そして、父上は俺の分家になる可能性が高いとのこと。跡取りも、俺の子供の中から一人を後継にするのではないかと言った。
正直気まずい気もするが、父上が分家になっても父上であることに変わりはない。
俺が変わらなければ何も問題はないことだ。貴族位なんて世間からどう見られる以外に変わることはないしな。領地? いらない。
ただ、妹達が将来安心して暮らせる土地を確保したいと言う気持ちもある。
どうせなら領地開発でもしてみようか? 自重しない感じの。
まぁそれも全てはアーノルド次第だな。あいつがどう動くかで俺の身の振り方も変わる以上、今はそんなに気にしなくてもいい問題だ。
「私が降嫁するという可能性もありますので」
隣で話を聞いていたアーシェが参加して来た。
多分それはないな。なんだかんだアーノルドはアーシェを大切に思っている。
アーシェがそう望むなら考えるだろうが、わざわざ自分からそんなことはしないだろう。
「ご主人様! こちらにいらっしゃいましたか!」
これからのことを話している時、父上を訪ねてくる人がいた。
格好からして、この領地で警備をしている人だろう。
警備兵は、父上の元に辿り着くと小声で何かを報告する。
なになに、「北の森で巨大な魔獣が出たそうです」だって?
どれどれ。「監視魔法」
お、確かにいるな。はい「断撃魔法」
「父上、私の方で処理しておいたので問題ないですよ」
「ルド、一体どういうことだい?」
「こういうことです。映像魔法」
俺は北の森に出たと思われる魔獣を空中に映し出す。
そこには首が落ちている魔獣の姿があった。
「た、たしかに報告があった魔獣と酷似しております……確認して来ますのでお待ちください!」
と言って警備兵は来た道をダッシュで引き返していった。
「やはりルドは規格外だね。最近こういった話が多くて」
「そうなのですか? あのサイズの魔物だと、冒険者でも討伐は厳しいと思うのですが」
この世界にも、冒険者という人達が存在する。
ここら辺は前世で見た異世界物の話そのままだ。ギルドやら何やらといった制度があるが、ぶっちゃけ王国の騎士団の方が全然強い。
他国では圧倒的な力を持つ冒険者もいるらしいけどな。
先程俺が倒した魔獣は、この国にいる冒険者には対処が出来ないレベルだと感じた。
「そうだね。冒険者でも対処出来る場合はお願いしているけど、どうしても難しい時は私が直接討伐に行っているんだ」
「父上がですか?」
「意外だったかい? こう見えても、昔は優秀な魔術師だって噂されたこともあるんだよ。ルドの前じゃ霞んじゃうけどね」
意外だ。父上が魔法を使えることもそうだし、自ら魔獣を討伐に行っている点も。
「そうだったのですね。私の方でお手伝いすることは可能ですがどうしますか?」
手間なんてそれほどかからないしな。
「それは大丈夫だよ。ルドも先生になったんだし、ア、アーシェと第一王子殿下とのこともあるだろうからね」
「それでしたら、私達にお任せして頂けませんか?」
横から会話に入って来たのはイクスだ。
恐らく俺が魔法を発動したのをシロが感知したのだろう。みんなが川から出てこちらを見ていた。
「イクス達が?」
「はい。先日国から対犯罪者組織の部隊として認められましたが、騎士団長にお願いすれば魔獣対処の仕事も任せて貰えるはずです」
「そうか、イクス達はあのシスハレナインだったね」
イクスは胸を張って誇らしそうにしていた。大きい。
ちなみにシスハレナインは騎士団の中の独立部隊という位置付けのため、命令権は騎士団長にあった。
父上が"あの"と言ったのは、先日国中に出された号外を読んでいたためだ。シスハレナインという部隊が新たに発足したという内容の。
「私達であれば、犯罪組織を取り締まる以外の仕事が今のところ無いので丁度いいと思います」
「キュウカ、学生の本分は学業だよ」
「お兄ちゃん、そうだけど……」
キュウカの気持ちはわかる。この領地のために、少しでも役に立ちたいのだろう。他の妹達も同じ気持ちのようだ。目を見ればわかる。
「父上、この話は私の預けて貰えませんか? 騎士団長に話をしてみます。気になることもありますし」
「ルドに? 任せるのはいいけど、無理にとは言わないからね。今でも私一人でなんとかなっているから。それにしても気になることって?」
「はい、先程討伐した魔獣ですが、本来この地域に出てくる魔獣ではありません」
「私も……それが……気になる」
シロには気付かれていたか。
ふむ。事件の香りがして来たな。




