42話 妹の成長(精神)
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「ということが今回の件の全貌だよ」
「そういうことだったのですね」
俺は、アーノルドとの関係、今回の事件の概要、シスハレナインとアーシェの計画を知っていたことなどについて全てを妹達に話した。
隠し事は良くない。ダメ。ゼッタイ。
「兄さんが裏でそんなことをしていたなんてね。私達はまだまだ兄さんに助けられてばっかりだったか」
「そうですわね。少しは強くなったと思っていましたが……」
そんな卑下することはないぞ、ウド、ジーコ。
みんなは十分に強くなっている。その証拠に、これまでは俺が手を貸さなくてもやれていた。そのせいで今回のように厄介な敵を招くことになったが、こういう時のために俺がいるのだ。
「それにしても、もう少し早く言ってくださればよろしかったのに」
「本当ですわ」
ロッカとチセに叱られてしまった。
「そうなんだけどね。なんとなく暗部っていうのは国の犬ってイメージだから言い辛くて」
「それでも私達のためにやってくれているんでしょ?」
「それはもちろん」
「それなのに私達がお兄ちゃんを軽蔑したりしないよ」
「そっか。そうだよね。ありがとうキュウカ、みんなもな」
そうだな。妹達が俺を見る目が変わることがないのは知っていた。
そんなことを気にする妹達では無い。
本当は……
裏で支える兄とか、ピンチに駆けつける兄とかやってみたかったんだよ。
でも今回の件で、それは妹達の好む所ではないということに気付けた。これは大きい収穫だ。
人は失敗して学ぶのだ。
「そうだ、念話でアーシェには任務の完了報告をしたけど、明日も直接報告するつもりだからお兄ちゃんも同席する?」
「そうですわね。元はといえばアーシェとアーノルド様の関係が密であればこのような事態にはなっていませんわ」
ウドの提案にジーコも賛成のようだ。
アーシェは国のために自分で動いて、アーノルドの力になろうとしている。それが愛した兄、アレイ王子の願いだと思って。
アーノルドも、アレイ王子が愛したアーシェを縛り付けず、ある程度は自由にさせたいと考えていた。
この二人のすれ違いから今回のことが起きている。
こいつら、俺を陥れたりするときはすごくチームワークがいいのに、こういうところは一歩踏み込めていない。
「わかった。俺も同席して話をしてみよう」
婚約者と義兄のために少し世話を焼くとしよう。
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次の日の放課後、俺と妹達は王城に来ていた。
いつもアーシェとお喋りをする中庭のテーブルで、俺が昨晩妹達に話した内容をそのままアーシェにも伝える。
「そうだったのですね……私のせいで危険な目に遭わせてしまい申し訳ございません」
「まぁそれはいんだけどさ、この機会にアーノルド王子とも話し合ってみたら?」
「そうだな。私もアシュレイに話したいことがある」
「ほら、王子もこう仰っておりますわ。ってアーノルド王子っ!?」
俺以外はアーノルドがいることに気付いていなかったみたいだ。
ルルあたりが転移させたのか?
「お兄様……申し訳ございません。勝手をし過ぎましたわ」
「よい、私の優秀な部下が問題なく処理している」
なんだこいつツンツンしやがって。ツンデレお兄様かよ。
「それで、お話とは?」
「アシュレイだけではなく、シスハレナインにも関わることになるが、この国の平和の象徴になって欲しい」
「それは……どういうことですか?」
「シスハレナインの活躍のおかげでこの国の犯罪率は減少傾向にある。裏社会での抑止力として効果を発揮しているということだ。アシュレイ、お主の狙い通りにな。そこで、シスハレナインを正式に国の対犯罪者組織の部隊として認めるということだ」
「世間に公表するということでしょうか?」
「そういうことになる」
「そうですか……それについては皆さんの意見を伺わなければいけません」
「待て」
この腹黒王子。なんてことを口走りやがる。
よりにもよって本人達の目の前で。
「それにより、妹達がアポカリプスのような連中に目をつけられることになるが?」
「その可能性はもちろんある。しかしそうなってもお主がいるだろう」
確かに俺がいれば最終的にはどうにかなる。だが——
「餌にしようってわけだ。舐めるなよアーノルド」
俺は生きるうえで大抵のことはなんでもいいと思っている。
誰が強いとか、誰が優れているとか、誰が一番だとか。
あいつが悪口を言っていた。こいつはこういう思想をもっている。
何一つとして興味がない。
だからこそ、絶対的に譲れないものが存在する。それが妹だ。
妹達が感じること、妹達が見る世界、妹達が生きる人生。
これは俺にとっての全てだ。
妹達の足が止まりそうな時はそっと寄り添い、妹達に越えられない壁が立ち塞がる時は超えれる高さまで壁を壊し、妹達に雨が降り注ぐ時は傘となり雨除けになるのが俺の生きる意味だ。
そんな妹達を、餌として利用するだと?
恐らくこいつの本当の狙いは、餌に釣られて寄ってきた哀れな虫を俺に排除させることで、国としての力を示すつもりだ。
お前らが対処に困っていた連中を、我が国で簡単に処理してやったぞと。
「お、お兄ちゃん! 落ち着いて!」
気が付かないうちに俺は魔力を撒き散らしていた。
見渡せばメイド達は座り込んでしまい、護衛の騎士達もこちらに武器を構えている状態だ。
「相変わらず妹のことになると周りが見えなくなるな。お前達は下がれ」
「立てる者はいますか? 具合の悪い者に手を貸して、念の為診察室へ連れて行って上げてください」
アーノルドは騎士達に下がるように命令する。
アーシェも、メイド達を気遣っていた。
俺がキレてしまった理由は、アーノルドに妹を軽く扱われただけではない。
「兄上、私今の話をお受けしようと思います」
「私もイクスと同じですわ」
「私もデス!」
「同じ……」
「そうだね。私達にしか出来ないんだもんね?」
「私も、悪を許せませんわ」
「そうですわね。そのために鍛錬を重ねたのですわ」
「ルド、大丈夫だよ」
「お兄ちゃんが心配する気持ちはわかるけど、私達も守りたいんだ。お兄ちゃんも、この国に住む人達も」
妹達はこの話を聞いたら、必ず受け入れると知っていたからだ。
自分達へ及ぶ危険も承知の上で、正義のために戦う。
今までの活動を見ていてわかっていた。
こんなことになるなら、3年前のあの日、妹達を突き放して一人で暗殺をするべきだったのだろうか?
それとも妹達の成長を喜ぶべきなのだろうか?
わからない。
妹達はそれでいいのか? 誰かのために自分を犠牲にする生き方を。それが妹達の望む未来なのか?
「兄様……大丈夫」
その時、シロがそっと俺の手を握ってくれた。
同じように、他の妹達も俺の手を取ってくれる。
「これは、私達が望んでいたことでもあります」
「うん。ずっとあの日からみんなで考えていたんだ」
「私達は恵まれていただけですわ。生まれたときからお兄様に守られて」
「でも、恵まれていない人が多いことを知ってしまいましたわ」
「だからこそ、守るのデス」
「お兄ちゃんが、私達を守ってくれたように」
「理不尽に不幸を押し付けられる人達を、今度は私達が」
「守りたい……」
「ルドのことも守るよ」
それを……望むんだな。
ならば俺に出来ることはこれまでも、これからも一つだ。
「——わかったよ。自分達の信じた道を思うままに進んでみるといい。何かあれば俺がなんとかする。アーノルド、軽率な発言を許す気は無いが妹達に救われたな。次は殺す」
「一国の王子を脅すとはな。だが、それくらいで無いと信用出来ん。これからも働いてもらうぞ、隊長殿」
数日後、シスハレナインはアポカリプスのノーブルを捕らえたとして国から勲章が授与された。それと共に、国の新しい部隊とすることも。
俺は改めて誓う。
何があっても妹達を守り抜くと。
「兄様、なぜ枕の裏に私の下着があったのですか?」
「ジーコのパンツ、エッチ」
「恥ずかしいから言わないでくださいましハーピ!!」
「お兄ちゃん、正座して頭を地面につければ許されると思ってない?」
俺は改めて誓う。
何があっても妹達を守り抜くと。




