40話 「謎の人間X」作戦
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「シロ、お願いできますか?」
「わかった……空間認識」
キュウカの指示でシロが魔法を使う。
シスハレナインは現在、アポカリプスの幹部であるノーブルの討伐作戦中だ。
ノーブルは王都の闇組織と会合中らしい。
そこに奇襲を仕掛けて、闇組織とノーブルを一網打尽にするのが今回の作戦だった。
「いる……一人だけ……みたい」
「一人?……おかしいですわね」
「アーシェの情報ですと、今は王都の闇組織と会合をしているはずですわ」
「シロ、そこにいるのはノーブル?」
ロッカとチセが疑問に思い考察する。ウドの確認に対してシロも頷いて回答した。
「情報が漏れていたのでしょうか……罠の可能性が高いですね」
「一旦引くべきか?」
「……いえ、ここで逃すと取り返しのつかないことになるかもしれません。罠の可能性も考慮して突入します。ジーコ、矢で奇襲をお願いできますか?」
イクスが撤退を提案するが、キュウカは続行の意思を示し、ジーコに奇襲を命じた。
「任せて。一撃で仕留めてみせますわ。来なさい、アブソリュート」
ジーコは腕を前に伸ばして愛用の弓を召喚する。
召喚した弓を引くと、魔法の矢が生成された。
ジーコはシロからノーブルの位置を共有して貰い、扉越しに弓を放つ。
放たれた矢は扉を粉砕し、流星のような光を放ちながら部屋にいるノーブルへと迫る。
しかし、ジーコの矢はノーブルの周囲にある見えない壁に遮られてしまった。
「ハッ、随分悪趣味な攻撃仕掛けてくるじゃねぇか。出てこいよ」
シスハレナインは警戒をしながら部屋の中へと入っていく。
部屋は、大人数が入れる場所ということもあり結構な広さがあった。
「へぇ、話には聞いてたがマジで女達がやって来やがったぜ。それにその服と仮面、舐めてんのかぁ?」
「兄上に頂いたものを侮辱するとは……許せん」
「イクス、相手の挑発に乗っちゃダメ」
イクスの呟きにキュウカが反応する。
「随分と余裕そうじゃねぇか。俺が遊んでやるよ」
「来る……!!」
シロはノーブルの魔力が上昇するのを感知する。
「手始めに犬っころの相手でもして貰おうか。最近運動不足なんでな。ケルベロス!!」
ノーブルがそう叫ぶと、ノーブルの前に大きな二つの魔法陣が浮かび上がる。
そこから、三頭の巨大な狼のような魔獣が二体出現した。
「なんですのあれ……」
「悪趣味にも程がありますわね」
「でも強そうだよ。みんな油断しないで!!」
ロッカとチセがケルベロスの姿に嫌悪感を抱く。チセは気を引き締めるように注意を呼びかけた。
「ケルベロス、そこにいる青臭いガキ共を喰ってこい」
ノーブルがケルベロスに指示を出すと、ケルベロスがシスハレナインへ迫った。
一体は右足を振り上げて叩きつける。もう一体は三頭のそれぞれの口で噛み付いてきた。
シスハレナインは合図をすることなく、全員がそれぞれ回避を行う。
ケルベロスも回避した先を追って攻撃を続ける。
「イクス、ウドがそれぞれ前衛で一体ずつ引きつけて! シロとジーコは遠距離攻撃、ロッカとチセも別の一体に攻撃を仕掛けて! サンキと私は遊撃! ハーピは隙が大きいから寝ないで、距離を取って補助!」
キュウカが一瞬で状況を判断して全体に指示を出す。
他の妹達はその指示を聞いて反撃に動き出した。
「へぇ、ガキの割には練度が高ぇじゃねぇか。それじゃ、こんなんはどうだ?」
ノーブルは、さらに魔法陣を発動し小型の狼を数匹召喚する。
「サンキ! 私達は狼を処理するわ! みんなはケルベロスに集中して!」
「わかったデス!!」
追加された狼はサンキとキュウカで対応する。
シスハレナイン側に被害は少ないものの、それぞれの魔獣の対処で精一杯だった。
「少し……時間……頂戴」
「わかりましたわ。イクスと援護しますので存分におやりなさい!」
シロは、一旦戦線を離脱した。その間、一体のケルベロスはイクスとジーコで対処する。
イクスは近距離攻撃を刀でうまくいなして時間を稼ぐ。ジーコも意識の外から弓で牽制を行っていた。
「出来た……二人とも……下がって」
「任せた!」
「お願いしますわ!」
「圧縮魔法」
シロが魔法を発動すると、黒い球体がケルベロスの上に出現し、ゆっくりと落ちる。そしてケルベロスに触れた瞬間、ケルベロスが黒い球体に向けて小さくなり、最後は野球ボール程度の大きさになった。
「終わり」
「よくやりましたわシロ!」
「見事だ。どうやら他も無事終わったみたいだな」
3人が周りを見渡すと、もう一体のケルベロスもウドとロッカとチセが倒しており、小型の狼はサンキとキュウカが全て処理していた。
「へぇ、なかなかやるじゃん。まさかこうもあっさりやられるとは思わなかったよ。だがこいつはどうかな」
ジーコとシロは、また召喚を行おうとしているノーブルへと向けてそれぞれ矢と魔法を放つが、どちらも見えない壁に防がれてしまう。
ノーブルは余裕な表情を浮かべたまま、巨大な魔法陣を展開する。
「あれはまずいですわね」
「あぁ、私でも異常な量の魔力を感じる」
「……来る……強い」
巨大な魔法陣からは、この空間に収まりきらないほどの大きさのドラゴンが出現した。
もちろん建物の屋根は崩れ落ちる。
シスハレナインは上から落ちてくる瓦礫を回避しつつ散開した。
召喚が完了すると、ドラゴンは頭を上げて巨大な咆哮をする。
その姿は寝起きに伸びている姿そのものだ。
王都の夜空に巨悪な死音が鳴り響く。
「これが王都に解き放たれてしまったら、どれだけの被害があるかわかりません」
「そうだな……此奴を仕留めるしかない」
「ここは街のど真ん中ですわ。周りへの攻撃も全て防がなくてはなりませんわ」
「……あれを……移動する……」
ドラゴンがまだ本格的な活動を開始する前に、シロはドラゴンに転移魔法をかけるが——
「……魔法が……効かない」
「なんですって!? そんな魔獣がいるのですか!?」
「ハッ残念だったな! このドラゴンは魔法無効、物理無効、状態異常無効のイカれ魔獣だ!」
「そんなのアリかよ……」
「まずいデスね……」
その時、ドラゴンの口に膨大な魔力が集まるのを感じる。
「私、寝る?」
「ダメよハーピ、間に合わないわ!」
「私達が魔法障壁を張りますわ!」
「任せてくださいまし!」
「加勢する……」
強力な攻撃が来ると判断し、シロとロッカとチセで魔法障壁を発動する。
直後、ドラゴンの口から凶悪な威力を誇る光線が放たれる。
光線はそのまま魔法障壁へと注がれた。
「3人とも、持ち堪えてくれ!」
「避けるわけにはいきません! どうにか攻撃が終わるまで耐えてください!」
「わかっていますわ!!」
目標を変えられる危険があるため、前衛組も下手に動けない。
攻撃を避ければ王都に被害が及ぶ。八方塞がりの状態だった。
「残念だが、この攻撃はお前らが消し飛ぶまで終わらねぇ! お前らの次はこの国も同じように焼いてやるさ!」
「どうしたらいいの……お兄ちゃん……」
その時、崩れ落ちて夜空が見える天井があった場所から、ゆっくりと降りてくる人影が見える。
それは全身に黒い鎧のような物を纏っており、目と思われる部分が赤く輝いている。
黒い鎧は、そのままゆっくりと光線の軌道上へ降下してきた。
「危ない!」
キュウカが警告するが、黒い鎧はそのまま光線を受ける。
「馬鹿がっ! その光線に触れたら消し……なんだと!? なんで原形を保ってられる!?」
黒い鎧には、確実に光線が注がれ続けているが壊れる気配がない。
黒い鎧はそのまま右手を光線の、ドラゴンの方へ向けると手から魔力の玉を放った。
その玉は光線を押し込みながらドラゴンに迫り、最後は口の中で爆発する。
ドラゴンは攻撃を受けてそのまま前屈みに倒れた。
「なっ!? こいつは魔法無効のドラゴンだぞ!!」
ノーブルは何が起きているのかわからないといった表情を浮かべている。
その時、黒い鎧が声のようなものを発した。
「コノクニニアダナスモノヲ、ハイジョスル」
よし、これで俺の今回の作戦「謎の人間X」の第一段階は完了した。
第二段階も慎重にやらなければ。
俺は自宅のベッドの中から、監視魔法の映像を見ていた。




