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39話 異世界でも兄はブラック企業に勤める

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。


「それじゃ、今日の授業はここまで。みんな明日からもよろしくな」


「はい! よろしくお願いします! ありがとうございました!」


 本日の授業がすべて終了し、放課後になった。

 だが、俺の仕事はまだ終わっていない。


「ルド、それではお願いしてもよろしいですか?」


「あぁ。いこうかアーシェ」


「まさか、お兄ちゃんが毎日送っていくの!?」


「あぁ。今日の朝は騎士団の人に護衛を頼んだけど、明日からは迎えもするよ」


 次の仕事は、アーシェの送迎。

 と言っても転移でひとっ飛びではあるが。


「全く贅沢ですね。お兄ちゃんの手ばっかり煩わせて」


「それに関しては何も言えませんわ……こうして学園に通えることになったのも、ルドのおかげですから」


 キュウカがアーシェに小言を言うが、この件に関してはアーシェも反論出来ないみたいだ。


「何よ張り合いがないわね……ま、お兄ちゃんの婚約者に相応しい女になれるように努力を怠らないことね」


 これでもキュウカなりのエールなのだろう。


「ふふ。そこに抜かりはありません」


 二人のやりとりが終了したのを見て、俺はアーシェを連れて転移した。


 転移先は、アーシェの私室。


「おかえりなさいませ。アシュレイ様」


 私室に到着すると、10人程のメイド達がお辞儀をしていた。


「えぇ、ただいま戻りました。ルドもありがとう」


「あぁ。明日の朝は指定した時間に迎えに来るから準備していてくれ」


「わかりました。明日もお願いします」


「ルド様、失礼致します」


 メイドがアーシェに近寄り、これから着替えが始まりそうなので帰ろうかとしていた時、アーシェの付き人のセドルに声をかけられた。


「実は、帰る前にアーノルド様が私室に顔を出せと申しておりました」


「第一王子が? わかりました。伝えて頂きありがとうございます」


 セドルはそのまま一礼して下がる。

 俺はその場で、第一王子の私室の前へ転移した。


 扉の前で一呼吸し、ドアを二回ノックする。


「入れ」


「失礼します」


 天井に一人と、ドアの横に一人か。

 俺はそのままドアを開けて部屋に入る。


 まず、天井に張り付いている一人から短剣が飛んでくる。

 俺は飛んできた短剣の刃を人差し指と中指で挟んでキャッチした。


 すると、開いた扉の後ろ側から剣先が突き抜けて迫ってきた。


 俺は持っていた短剣をくるりと回して持ち直し、迫る剣先に短剣の剣先を当てて勢いを止める。


「重力魔法」


 天井に張り付いていた人と、扉の後ろで見えない人に重力魔法をかけて行動不能にする。


「流石は隊長様だ。これでも私が見つけた選りすぐりの暗部なのだがな」


「私室で奇襲をかけさせるなアーノルド。ルル、短剣を投げるのはいいが、丸腰の相手に武器を与える可能性があることを忘れるな。ララ、攻撃が素直すぎる。その位置からの攻撃は格下なら防げないが、警戒心の強い相手には全く通用しないぞ」


 俺は掛けていた重力魔法を解きながら、部屋の中に入る。


「ぐぬぅ……今日はイケると思ったんですが、隊長はやっぱおかしいワン」


「扉の後ろにいるのがわかる人間なんて隊長くらいニャ。しかも僕の突きを剣先で止めたニャ」


「はぁ……ここに来るたびに仕掛けられていたら、もはや罠になってないぞ。それにこの扉は誰が直すと思っているんだ……」


 俺は壊れた扉に復元魔法を発動する。すると、穴の空いていた扉が見事に綺麗になった。


 先程俺に奇襲をして来たのは、ルルとララ。ルルは犬の獣人で、ララは猫の獣人だ。ちなみに二人とも女の子。

 どちらも身体能力に優れているため、アーノルドが暗部として雇っていたが、俺が暗部の仕事を引き受けたことにより自動的に俺の部下になった。


「それで、一体何の用だ?」


「何の用ってことはないだろう。初めて教壇に立ったんだ。クライアントに妹の様子を伝えるのも仕事だとは思わんかね?」


「特に異常はない。あとは直接アーシェに聞け」


「そうやって肉親との時間を作ってくれようとする配慮には感謝するが、いかんせん時間がない。だからこうして聞いているのだ」


「と言われても何もない。至って元気だったよ。学習意欲も高いし、魔法の適性も悪くない優秀な子だ。本当にそれだけを聞きたかったのか?」


「そうか。アーシェには苦労させた分、幸せになって貰わねばな。それじゃ席に座りたまえ」


 この1年間でアーノルドとも打ち解けた様に見えるだろう。はたから見れば。

 だが、俺はこいつのことを全く信用してない。むしろ俺が苦労しているのを楽しんでいる節もある。憎き相手だ。


 仕事の話が始まりそうなので、おふざけモードはやめにして一応真面目に椅子へ座る。


「次の依頼だが、最近王都に潜伏している"ノーブル"という男がターゲットだ」


 そう言ってアーノルドは、資料の束を投げて来た。

 俺はそれを受け取って目を通す。


「こいつは強力な調教魔術師らしくてな。魔獣を使役するのだが、その魔獣の中に厄介なのがいるらしい」


「ドラゴンか」


 この異世界にも、ドラゴンという魔獣が存在している。

 ドラゴンは、人間の歴史の中で多く出現しており、その度に人間達に対して甚大な被害を与えていた最強の魔獣の一種。


 国が一つ滅んだことがあると、古い文献に書いてあった。


「真相が分からないが、噂がある以上野放しには出来ん」


「それで、いつ決行すればいい?」


「今夜だ」


 今夜? なんでまたそんな急なんだ。


 こういった任務はいつも2、3日調査や作戦を練る必要がある。

 失敗したら王国の危機に関わるからな。いくら俺が万能だからといって、準備を怠るとどんな落とし穴があるかわからない。


「何故と考えているだろう。勿体ぶる必要もないから単刀直入に言う。実は別口で動いている部隊があるのだ」


 なんか嫌な予感がしてきた。


「その部隊は、アーシェの部隊。そう。お前の妹達、シスハレナインだ」


 当たったぁぁぁぁぁぁ。


 実は俺の妹達、変身を覚えてから積極的に正義を執行する活動をしている。

 最初は夜間の巡回くらいだったのだが、俺が暗部で仕事をする様になったくらいから、アーシェの依頼を受けて仕事を行なっているのだ。丁度今の俺とアーノルドのような関係だ。


 俺は暗部の活動については妹達に伝えていない。もちろん妹達も自分達の活動については俺に話してこない。


 妹達が自分達で考えて導き出した答えだ。俺は何かあった時に対処出来る様に見守っていた。仲間外れにされたのは少し寂しいが。いや、結構寂しい。


 実際今までは上手くやっていて、失敗することも無かった。


「残念ながら、今日シスハレナインが突入することは既に相手側に知られている。相手は罠を張って万全の状態で待ち伏せしているのだ。裏社会ではシスハレナインは邪魔な存在だからな。そこで出て来たのがノーブル。奴は世界の裏組織、"アポカリプス"の幹部だ」


 やはり、目を付けられてしまったか。それはそうだろう。

 しかもアポカリプスとはな。少し好き勝手にやらせすぎてしまったか。


 どんなところに目をつけられても大丈夫なように強く育てて来たつもりだった。

 しかし今回ばかりは分が悪い。相手はこの世界の闇組織だ。王都でチャランポランしている奴らとは訳が違う。


「それで、何故こんな時になって情報を掴んだんだ?」


「それはルルとララが調べたからワン。王女様は情報を漏らさなかったけど、ノーブルがこの国に来ているという情報を掴んで、そこから調べたワン」


「危なかったニャ。私達が気付いていなかったら大惨事だったニャ」


 まぁ、俺が妹達を監視している以上、本当の意味で最悪の事態にはならないと思うが、それでも事前に知れるだけで大分状況が変わってくる。二人には感謝しないとな。


「よくやったなルル、ララ。お前達のおかげで妹達を助けることが出来そうだよ」


「やったねララ」


「隊長、褒めて褒めて」


 ルルとララが顔を上げて首を見せて来たので、俺は二人の顎を撫でる。

 すると二人は気持ちよさそうな顔をしていた。


「そういうことだから、この件の処理はお前に任せる。一応ノーブルは生捕りにしろ。交渉に使えるかもしれんからな」


「本当に人使いが荒いな。世界のアポカリプスの幹部を生捕りだと?」


「なんだ? 不可能か?」


 ったくこの腹黒王子め。


「愚問だな」


 さて、今晩は妹達にドラゴンの倒し方のレッスンだな。

 ドラゴン……いるよね?

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