36話 シロとジーコと草むらさん
こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。
是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
新しい朝が来た。
俺は体を起こして腕を伸ばし、昨日の夜のことを思い出す。
久しぶり兄妹全員揃ってご飯を食べた。
交流を深める意味で、メイド組も一緒にご飯を食べたのですごく賑やかだった。
その後は少し談笑をして露天風呂。
流石に初日から一緒に入るわけにはいかないので、先に妹達とメイド妹達に入って貰った。もちろん14人が同時に入っても余裕なくらい広く作ってある。
その間、俺はメイド長のユナさんと今日の仕事の報告会と今後の打ち合わせをしていた。
この屋敷を一通り見てもらった上で、どこをどうした方がいいかなどの改善策を見つけて貰い、俺が改善して行く為だ。完全にノリで作った家だから、王城の元メイドであるユナさんに色々と知識を借りていた。
シームが裸でエントランスまで走ってきたのを、タオル1枚巻いたジーコが追いかけて来たなんてこともあった。仲が良さそうで何よりだ。
妹達とメイド妹達が露天風呂から上がった後、俺も露天風呂に入った。
露天風呂は久しぶりだ。前世でも最後に入ったはいつだったか覚えていない。
多分小さい頃に家族で旅館に泊まりに行った時以来だろうな。大人になってからは社畜のような生活を送っていたし。
久しぶりの露天風呂は、最高だった。
空を見上げれば満天の星達。前世では都会の光に姿を消され、ほとんど目にすることが無かったが、星がこんなに癒しをくれるものだとは思ってなかった。
そして妹達が入ったあとのお湯。
うむ。完璧だ。
その後はみんなで明日の予定などを話して、各々の部屋に戻って就寝する。
当たり前のような何気無いような生活の1シーンだが、俺は昨日の夜のことを絶対忘れないだろう。それくらい幸せに溢れた空間だった。あの空間を守るために俺は全てを捧げている。その価値があると改めて確認出来て良かった。
そして現在、俺のベッドには妹達9人がいる。
おかしいな、みんなそれぞれの部屋で寝ていたはずだが。
「にぃ……さま……おはよう……ございます」
「おはよう、シロ。どうして俺のベットで寝ているんだい?」
「あれ……えっと……わかりません」
ん? 自分で来たわけじゃ無いのか? 試しにジーコを起こしてみる。
「ジーコ、起きれるかい?」
「むにゃ、兄様、そこはダメですにゃ」
完全に夢の中だ。ならば、
「ジーコ、起きないとジーコの恥ずかしいところに触れちゃうけど、いい?」
俺はジーコの耳元で囁くと、ジーコの目がカッっと開かれた。
「に、兄様!? なぜここにいらっしゃるのですか!?」
「ごめんね起こしちゃって。俺もそれが聞きたくて」
「シロ? あなたもいらっしゃるということは……みんないますわね」
ジーコも何故ここにいるのかがわからないみたいだ。
となると犯人は、
「ハーピだな」
恐らくハーピが兄妹で寝ている夢を見たのだろう。
そんなハーピはだいふくさんを抱えてぐっすり寝ている。
「全く、仕方のない子ですわね」
「わたしは……起きたら……にぃ……さまがいて……うれしい」
「そうだな。起きた時に一人じゃないのはいい気分だ」
シロの言う通りだった。
昔はよく一緒に寝て、一緒に起きたものだったけどな。忘れてかけていた感覚だった。
「そうだ、折角だしジーコも一緒に行くか? シロと日課の散歩」
「ご一緒してよろしいですの?」
「うん……きもち……いいよ」
「いいですわね。それではご一緒させて頂きますわ」
まだ陽が少し顔を覗かせたくらいの時間なので、俺達は他のみんなを起こさないようにそっとベッドを出る。
「あまり物音を出すとみんなが起きちゃうかもしてないから魔法で着替えよう。着替えたら転移でいつもの散歩コースへ移動だ」
そう伝えた後、着替えて転移した。
散歩コースは、学園の周りだ。学園の周りは自然で囲まれているが、一周ぐるっと回れるように遊歩道が整備されている。
本来は人気の散歩スポットだが、流石にこんな早朝に人はいない。
「少し肌寒いですが、気持ち良いですわね!」
「うん……すぐ……暖かく……なるよ」
俺達は早速散歩コースを歩き出す。
と言ってもただ歩くわけじゃない。シロは歩き出してすぐに、道の脇にある草むらの前でしゃがんだ。
「シロ? もう疲れたのですか?」
「疲れて……ないよ……朝の……あいさつ」
シロがそう言うと、草むらに生えている草達が光始める。
「これは、なんですの??」
「みんなが……あいさつ……してくれるの……ジーコも……一緒にしよ?」
「どうすれば良いかわかりませんが、やってみますわ! 草の皆さん、おはようございます!」
ジーコが草むらに向かって話しかける。
草は相変わらず光ったまま、風に揺られていた。
「ど、どうですの?」
「喜んで……いるよ……みんな……この子はジーコ……っていうの」
シロはゆっくりと草むらと話していた。
挨拶が終わると立って再び歩き出す。そして少し歩くと次の挨拶スポットへ。
「シロは毎日これをなさってるのですか?」
「そうだね。最近はお友達がたくさん出来たって喜んでるよ。放課後も時間がある時はここに来ているらしい」
最近は朝だけでは時間が足りず1周回り切れないことが多い。そういう時は夕方に挨拶しに来ている。朝なんて俺が時間を告げなければずっと挨拶を続けているだろう。
「よっぽどお好きなのですね。意外ですわ。シロは本と魔法と兄妹にしか興味がないと思っていましたわ」
「9つ子とはいえ、知らないことはたくさんあるだろう。もちろんジーコにも、他のみんなには気付かれていないこともあるしな」
「な、なんのことですの!」
「なんでも無いよ。でも楽しみにしてるね」
「ふ、ふん! 兄様は相変わらず意地悪ですわ!」
ジーコと話しながら歩いているとシロが挨拶を終えて立ち上がった。
次の挨拶スポットへ向かうんだな。
「シロ、私も一緒に挨拶回りを致しますわ!」
ジーコもシロと一緒になって草や木、寄ってきた小動物に挨拶をして自然と触れ合っていた。
なんだろうこの和む空間。
絵画の中に閉じ込めて、部屋に飾ってコーヒーでも飲めたらそれだけで3日間は過ごせるぞ。
それから3人でしばらく散歩を続けた。
陽が登ってくると、早朝散歩をする人達もちらほら見かけるようになって来たので、今日はここまでだな。
「二人とも、今日はここまでにしよう」
「兄様、もうそんな時間ですの? あっという間でしたわ」
「残念……でも……ジーコが一緒で……楽しかった」
「私も楽しかったですわ! シロ、また誘って下さい!」
これから早朝散歩にはジーコも加わりそうだな。
俺達は転移で屋敷へと移動する。
部屋に着くと、他の妹達は既に起きて活動を開始していて、ハーピ以外の姿が見えなかった。
監視魔法でそれぞれの場所を確認すると、イクスとサンキは外で訓練。
ウドとキュウカはキッチンでユナさんと朝食の準備。
ロッカとチセは朝風呂。
「みんなも起きてることだし、俺達も準備をしようか」
ジーコとシロも自分の部屋に移動して朝の準備を始める。
ちなみに寮にあった妹達の荷物は俺の収納魔法で移動済みだ。
「ハーピ、朝だから起きないと遅刻しちゃうよ」
「んぅ……ルドぉ、おはよう」
「おはようハーピ」
とりあえず俺は目を擦っているハーピにおんぶを要求されたので、おんぶしてハーピの部屋まで運んであげた。
「二度寝しないで、ちゃんと着替えて食堂においで」
ハーピは眠たそうなままコクリと頷いて着替えを始めた。
さて、俺も朝の準備をしよう。
自室にあるシャワーで軽く汗を流した後、着替えをして食堂へと向かう。
食堂に入るとメイド妹達が食事の配膳を行っていた。
「お兄様、おはようございます」
(コクリ)
「おはようございます!」
「おはようございます!」
「ます!!」
メイド妹達が挨拶をしてくれる。まだ小さいのにしっかりしてるな。
「おはようアル、コル、リン、マル、シーム。朝食までここで待たせて貰うから気にしなくていいよ」
俺は椅子に座ってみんなを待つ。適当に読書でもして時間を潰そう。
そうして朝食を待っていると、朝の準備を終えた妹達が続々と食堂へ集まって来た。
俺はみんなとも挨拶を交わして、揃ったところで朝食を取り始める。
「そういえば今日の朝、何故かお兄ちゃんのベッドにいたんだけど、何かあったの? お兄ちゃんとシロとジーコはいなかったみたいだけど」
キュウカが朝のことについて聞いて来た。あ、この目玉焼き美味しいな。
「恐らくハーピがそういう夢を見たんだろう。俺とシロは早朝の散歩があるから早起きしたんだけど、ジーコは状況確認で起こしちゃったんだ。そのまま一緒に散歩して来た」
「散歩! いいですね! シロ、私も今度ご一緒しても?」
「私も行きたいですわ!」
妹達がシロの散歩に興味を持ったみたいだ。今まではみんなを起こさないようにうまくやっていたんだな。
「わかった……明日は……みんなで……いこう」
大所帯になってしまうな。草むらさん、びっくりしないといいな。
「ハーピはどういう夢を見たのデスか?」
「ん〜と、みんなで一緒に、寝てる夢?」
「いい夢ですわね! 私も昨日はぐっすり眠れましたわ!」
ハーピもチセも、環境が違くなってもしっかり寝れるタイプだな。
そんな会話をしながら朝食を終えて、メイド組に見送られながらみんなで学園へと向かう。
なんていい朝だ。
夢にまで見た妹との登下校。
俺はここで死んでも本望かもしれない。




