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31話 (妹達+王女+兄)× デート=トラブル

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

『アシュレイ様、お体の具合は如何ですか?』


『まだあまり優れないので、休ませてください』


『左様ですか……ゆっくりとおやすみ下さい』


 アーシェの付き人であるセドルが、心配した表情を浮かべながら部屋を出ていく。

 扉に背を向けながら返事をするアーシェは、体の向きを変えて返事をするのも辛そうだ。


「流石、ルドですね! まさか私にあんなにそっくりな人形を作り出してしまうなんて!」


 少女のように無垢な褒め言葉をくれるのは、隣にいる女性。

 そう。この国王女アシュレイことアーシェである。


 では、先程セドルと話していたのは? もちろん偽物だ。

 例え近づいて見られたり、触れたとしても気付かれない自信がある。


 なぜなら、別の誰かを変装させているわけではなく、アーシェそっくりの人形を生み出して置いて来たからだ。


 外見もそっくりなのはもちろん、人形の質感も人間の肌感を完璧に再現している。操作は遠隔で俺が行っているが。


 AIを生み出してみようか? とも考えたが、異世界でAIは嫌な予感しかしないのでまだ保留中だ。魔法でAIを生み出すなんて魂を生み出すのに等しいからな。


 もちろん全てオリジナル魔法生成先生のおかげである。


「どこか遠い地方の技術らしいが、ガイノイドとか言うらしい。俺も詳しくは知らないから、あまり突っ込まないでくれ」


「お兄様、詳しく知らないのに生み出してしまえるのは何故ですの?」


 チセ、あまり深くほっちゃダメだって言ったよね。


「まぁそこは、優秀だから?」


「兄さん、そういうことは自分で言っちゃダメだよ」


 ウドの鋭いツッコミが骨身に染みる。ちなみに嫌いじゃない。


「それでアーシェ、今日はどこに行きたいんだ?」


「そうですね……これといって目的があるわけではないので、街を歩きながら気になるところに入ってみたいです!」


 最近暗いことばかりだったからな。

 その反動なのか今日はやけに子供っぽく見える。


 ちなみにアーシェにも少し変装を施した。

 特徴の瞳と髪色を、どちらも俺と同じ黒に変えたくらいだが。


 自分の姿を鏡で見たアーシェに「まるで本当の兄妹みたいですね」と言われた時は少しドキッとしたが、妹以外の女の子とあまり触れ合ったことがない所為だろうと思うことにした。


 それにしても大所帯だ。


 街の中でも一番広い道とはいえ、11人で横並びは出来ない。

 一応アーシェの護衛も兼ねて、前から3人3列と、最後尾に2人で移動しているが、それでも目立つことに変わりはない。


 加えてこの美少女たちだ。

 すれ違う人が皆こちらを見てしまうのは当然だろう。


「あれは、屋台ですか! 私、話しでは聞いたことがありますが、一度も食べたことがありません!」


「丁度小腹も空いてきましたし、皆で頂きましょうか」


 アーシェが屋台に興味を持つと、ジーコが寄ってみようと提案する。

 そこの屋台では、バラバラにした肉を棒に付けて焼いた、フランクフルトみたいな食べ物を売っていた。どちらかといえば、つくね串か。


 先頭にいたイクスが、店主に声を掛け11人分の串を頼む。


「ありがと嬢ちゃん達。学園の生徒さん達かい?」


 今日はみんな学園の制服を着ている。もちろんアーシェにも貸し出した。

 この人数で歩くなら一番カモフラージュになるからな。


「はい、そうです」


「そうかそうか! べっぴんさん達だから少し負けとくよ」


「あ、ありがとうございます!」


 アーシェが大きな声でお礼を言うと、店主はニッコリと笑いながら串を1本1本手渡してくれた。


 歩きながら食べるのは行儀が悪いので、屋台の隣に準備されている椅子に座って食べる。


「あれが……"ネギル"というものですか!」


「ネギル? 何のことですの?」


「売り物の値段を安くして貰うことです! 買い物の際の基本だと、前に読んだ本に書いてありました!」


「ん? それ多分"値切る"だね。あれ? さっきは値切ってなかったような……べっぴんさんって言ってたから値切ったことになるの?」


 アーシェとジーコとウドがほのぼのトークを繰り広げている。癒されるなぁ。


「ルド、おんぶ」


 少し食べて眠くなったのか、ハーピがおんぶを要求してきた。相変わらずだな。

 俺も、背中がマシュマロに包まれるのは嫌いではないので断ることはないが。


「あ、羨ましい……」


 アーシェ、呟きになってないぞ。


 みんなが食べ終わって一息ついたところで、店主にお礼を言って再び歩き出す。

 この辺は本当に店が多いので、アーシェだけでなく妹達も周りを指差してキョロキョロしながら話していた。


「シロ、体調は大丈夫か?」


「はい……にい……さま……さんぽの……おかげで……」


 シロは運動が苦手で一時期悩んでいたが、あの日から毎朝俺と一緒に散歩しているため、少し体力がついてきた。


「そうか、無理はするなよ」


「ありがとう……ございます……たのしいので……だいじょうぶ……です」


「ここは!」


 シロと話していると、アーシェの叫びが聞こえる。

 アーシェの向いている方向を見てみれば、そこには、大人向けの下着屋があった。


「私……ここに行きますわ」


「アーシェ、ここは私達にはまだ早いのでは……」


「そうですよアーシェ! まだ必要ないです!」


「私は少し興味はありますわね……」


 イクスとキュウカは反対しているが、ロッカは興味があるようだ。


「イクス、キュウカいいですか? あなた達は、いつ見られてもいいという心構えが足りていません。殿方と良い雰囲気になる時は唐突に訪れます。その時、今のような幼稚な下着を見せるのですか? それでは殿方との雰囲気もぶち壊しですわ! そうですね! ルド!」


 何故俺に振るんだ!!

 確かにアーシェが言うことにも一理あるが……というかやけに詳しいな。絶対本で読んだとかそんなところだろう、おませちゃん。


「まだみんなには必要ないとおも」


「言われてみればそうですね! 考えが甘かった!」


「私も欲しいですわ!」


 イクスはアーシェ教の教えにハマってしまった。ついでにジーコも。


「そうです! いつルドに見られてもいいように、常に準備をするのは乙女の宿命! その努力も無くして、ルドに触れて貰おうなど甘いのです!」


 もう何が言いたいのかわからなくなって来てるぞ。顔も赤いし。

 妹達もだんだんその気になっている。


 最終的には、「大人の階段を登るぞ! おー!」なんて言って、下着欲しい組が入店してしまった。


 残ったのは、俺が背負ってるハーピと、キュウカ。


「キュウカは行かないのか?」


「私はもう持ってるからね、見たいの? お兄ちゃん」


 見たい! っとっと危ない。

 妖艶な笑みを浮かべて俺を見ながら、スカートを少し捲り上げるキュウカ。


「その時が来たら、たっぷりと堪能させて貰うよ」


 俺はわざとキュウカの耳元で囁く。キュウカは顔を真っ赤にして「お兄ちゃんのバカッ……」と言いながら顔を逸らしてしまった。


 危ない危ない。まだ兄の威厳を守らせて貰おう。


 それにしても、持ってるのに入ることをやめさせようとしていたな。敵に塩を送らないつもりか。キュウカらしい。


 店の前でみんなを待つこと数十分。

 満足そうな顔をして店を出てくる妹達とアーシェ。


「いい買い物が出来たか?」


「はい! 気になりますか?」


 妖艶な笑みを持つ者はもう一人いたようだ。

 流石にアーシェの耳元であんなことは囁けないので、素直に返しておく。


「あぁ。どんな可愛いのを買ったのか気になるな」


「あ、えー……その……心の準備が出来てから……」


 アーシェがモジモジしながら、しどろもどろ答える。

 むっつりさんだったか?


「おい貴様! 私が伯爵家の次男と知っての狼藉か!」


 12歳の女の子を言葉攻めして楽しんでいたら、馴染みのあるセリフが聞こえて来た。


 先日聞いたばかりだな。今は亡き宰相が言ってた。

 よくもこんな死亡フラグみたいなセリフを大声で叫べるものだ。


「ひ、ひえぇ……お、お助けを!!」


「貴様に汚されたこの服、いくらだと思っている!」


「ドリュン伯爵家次男のドルリ様になんてことを!」


 貴族の子供だと思われるのは3人。

 一人は伯爵家の次男で年は俺と同じくらいか。

 他の取り巻きも同じようなものだ。恐らく子爵か男爵家の息子だな。


 対する青年は、街に住む平民みたいだ。手には空になったカップを持っている。

 恐らく転んだ拍子に貴族の奴らにかかってしまったんだろう。


「どう落とし前をつけてくれる!」


「弁償だとして、果たして払えるだろうか」


「その時は奴隷行きだ!」


 はぁ、折角のデートなのに。

 まぁトラブルが起きることは分かっていたからそんなに慌てることもないが。

 とりあえず騒ぎになる前の小さな火種のうちに、鎮火しておこう。


「あなた達、何をしているのですか」


 あ、これはまずい。既視感がある。

 俺よりも早くアーシェが声をかけてしまった。

 頼むから大人しくしていてくれ。


「何者だ貴様は! 私は伯爵家の次男だぞ!」


 早まるな、アーシェ!


「私はアシュレイ。アシュレイ・ヒュトラ。ここ、ヒュトラ王国の王女です」


「記憶消去」


 危ない危ない。もう少しでアーシェの正体がバレるところだった。お忍びだって言ってるでしょうか!


「何者だ貴様は! 私は伯爵家の次男だぞ!」


「記憶消去」


 何度もめんどくさい! もうどっか行ってくれ!


「ん……ん? 私はここで何をしているのだ? 邪魔だ平民! どけっ!」


 貴族はそのまま去っていった。

 トラブル? そんなものは揉み消せばどうにでもなる。


 周りのみんながポカンとしているが、平和に解決したのだから褒めて欲しい。


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