30話 王女とデートの約束(妹同伴)
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是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。
「アーノルド王子殿下、一体何のことでしょうか。私はアーノルド王子殿下に待たれる様なことに、心当たりが無いのですが」
「その口ぶりで確信した。なぁ、昨夜の功労者よ」
王女アーシェのお茶会に招待された俺は現在、第一王子に詰められていた。
どうやら先日の大掃除の件が、俺の仕業だとバレているらしい。
「やはりなんのことだか……」
「とぼける必要はない。悪い様にはしないと誓おう」
このまま押し通すのは難しいか。
「——前回もお伝えしましたが、私は王子殿下の元で働く気はありませんよ」
「ようやく開き直ったか。前は条件の話を忘れていたので、それを伝えに参っただけだ。もちろん、お主にとっても悪い話ではない」
「……一応、聞いておきましょう」
「本来であれば、貴族の子が妹達9人全てと婚約することは、国としても認められん。肉親での結婚は、それ以外に選択肢が無いという者達のためにあるものだ。だが、これを認める。これがまず一つ」
妹達にその気があるならば、これは好条件だ。
最悪、国を出ればいいと思っているので重要では無いが。
というか、妹達が俺と結婚したいという情報をしっかり入手しているあたりが油断できない。
「次に、妹達の将来について取り計らおう。妹達がやりたいことに対して国を上げて最大限の補助をする。あの宰相の手足を9人で潰すほどの実力者だ。お主含めてこの国の宝であるからな」
これも好条件。妹達についての条件を出すあたり、俺の性格を理解している。
ついでに妹達も取り込もうという魂胆だろうが、それを踏まえてもメリットが多い。
「最後は、条件というよりお願いに近い。アシュレイと婚約してはくれまいか?」
これは……どういうことだ?
そもそも俺は子爵家の長男だ。アーシェでは格が違いすぎる。
「それに関しては難しいのでは? 私はシスハーレ子爵家の長男ですので、シスハーレ家を継ぐ人間です」
「その問題について心配をする必要は無い。やりようはいくらでもある。これは、王子としてではなく、兄としての願いだ。アレイを失ったアシュレイには、支えが必要だ」
それでも理解できない。
そもそも本当にアーシェと婚約させたいのであれば、この話は俺じゃ無くて父さんにした方が良いはずだ。俺も貴族家に生まれた以上、親の言うことを無下には出来ない。
「政略結婚ということであれば、私では無く両親に話すべき内容だと思われますが」
「政略結婚か……そう捉えられても仕方あるまいな。今はそれで良い。この話もアシュレイ次第というところでもある」
アーシェ次第……単に俺を王家へ抱き込むだけでは無い目的があるというのか。
それもアーシェに関わる話だと。
「わかりました。最後のお話に関しましては、心の隅に留めておく程度にしておきます。それ以外の条件につきましては、正直有難いと思える内容ですが、一度妹達に相談させて頂きます。彼女らが望まないことを私がしても意味がありませんので」
「それで良い。ダメであれば別の条件を出すまでよ。お主には何としても私の元に来て貰う」
何故そうまでして俺が欲しいんだ?
確かに魔力の腕に関しては、国内どころかこの世界でも上位の位置にいる自信がある。
だとしても、俺はそこまで実力を見せびらかしては無い。
第一王子にはちょっと強い魔術師くらいにしか見えていないはずだ。
「どうして? と言いたげな顔をしているな」
顔に出てしまっていたか。まだまだ精進が足りないな。
「言うつもりはなかったが——いいだろう。これから言うことは、王族の中でも国王と、王の座を継ぐ者に言い伝えられていないものだ」
王子は空を見上げながら、とんでも無いことを言い出した。
そんな極秘の言い伝え、俺に聞かせてくれるなよ。
「世界に陥ちる混沌、海蛇の英雄と九星の巫女がこれを晴らす」
そんな言い伝えがあるのか。海蛇と九星ね……
「代々この国の国王と王の座を受け継ぐ者は、来たる混沌を対処する手段を求めて英雄と巫女の存在を探し続けている。そしてようやく見つけたのだ」
それが俺達であると。
それまでは一人の英雄と一人の巫女だと思っていたが、俺と妹達の存在に気付いた時に、九星は巫女が9人いることに気付いたという。
だが、そもそもこの言い伝えに信憑性があるのか?
「まだ疑っておるようだな。この言い伝えは、女神様から頂いたとされている。我々も直接聞いたわけではないで定かではないが」
女神様か……
凄く心当たりがある。
俺を転生させたのは他ならぬ、女神様だからな。
そして妹が出来るということでテンションが上がりすぎてあまり覚えていないが、妹達が鍵だとか言っていた気がする。
一つ気になるのは、本来俺はこの世界にいる人間ではないという点。それなのに俺が海蛇の英雄というのは、何か大きな勘違いをしている気がしてならない。
だが、女神様に聞いていた話にも違和感がある。
俺がいない場合、妹達は鍵としては不完全に育つと言っていた。
それは親の愛が原因だと。
しかし俺の両親の性格上、妹達に愛を注がないなんてことはない気がする。
俺も兄馬鹿だが、親も親馬鹿だ。俺も妹達も愛情を注がれて育った。
俺がいることによって、この世界の未来にも影響があると考えた方が良さそうだ。
「話は理解しました。その上で前向きに考えさせて頂きます。私としても、愛する妹達が生きるこの世界に危機が迫るというならば、何としてでもそれを阻止しなければいけませんので」
「良い返事を期待しておる。時間を取らせたな」
そう言い残し、アシュレイと妹達に挨拶をして立ち去る王子。
俺は王子を見送ったあと、みんながいるテーブルへと戻った。
「お兄様と何をお話ししていたのですか?」
「あぁ、大した話じゃない。アーシェをよろしくとな」
「途端に余計なことを……」
アーシェが小さな声で呟いたのを俺は聞き漏らさなかった。
余計なこと……か。
今まで干渉してこなかった兄が、急に干渉して来たら戸惑うだろう。
それでも、兄妹なのだから少しづつ距離を縮めて欲しいものだ。
「お兄ちゃん……」
キュウカは不安そうな顔で俺に声を掛けてきた。どうやら話を盗み聞きしていたようだ。
ここは警護の関係上、通常は魔法を使用出来ない空間となっている。
抜け穴をついて魔法を使用出来るので意味はほとんど無いと思われるが、普通の魔術師であれば何も出来ない空間だ。
その中で盗み聞きをするということは、キュウカの情報収集能力は魔術師として高いレベルにあるということだ。
普段からあの黒いノートを作っているのが実を結んでいるな。
俺は問題ないよと優しく囁くように、顔を縦に振る。
それを見たキュウカも、後で詳しい話を聞かせて貰いますといった表情を浮かべて、納得してくれたみたいだ。
「そういえばルド、私やりたいことがあったのですが、お手伝いして頂けませんか?」
やりたいこと? 一体なんだろうか。
「俺に出来ることであれば手伝うよ。それで、そのやりたいこととは?」
「それはですね……王都の散策です! こういうのをデートと言うのでしょうか?」
この王女様は本当に話が急だな。妹達も付いていけずに困惑しているぞ。
「もちろん、みんなも一緒にです! 一度王都を散策してみたかったのですが、皆がそれを許してくれなくて……」
それはデートじゃないな。待て、許可が降りないと言ったか?
「許可が降りないと言ったけど、一体どうやって出掛けるつもりだ?」
「それはもちろん! 連れ出して頂きます!」
この王女、お転婆なのか?
アレイ王子の蘇生薬の素材を自分の足で採りに行ったことからも想像出来たが、少々アグレッシブな気がする。
「はぁ、何かあれば責任を取らなきゃ行けないのは俺達なんだが……」
無理なことはないが、正直あまり気乗りはしない。
こういうイベントは何かあるのが異世界のテンプレだ。絶対トラブルが発生する。
「お願い……ルド?」
上目遣いで強請るアーシェ。そういえば妹属性を持っていたな……ちくしょう!
普段大人びているのに、こういう時だけ年下に見せてくるのは反則だ。
ちなみに妹達も、同じように強請るような目線を向けている。どうやら想像以上に仲良くなったみたいだ。
「——しょうがない。なんとかしてみよう」
妹属性を存分に発揮した、あどけない笑顔で「やった」と呟くアーシェ。
まぁ王子の件もあるし、アーシェの人となりをもう少し知ってみるのも悪くないか。
俺は、異世界で王女とデートをすることになった。妹達同伴で。




