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29話 妹達と王女

こちらの作品は、小説サイト「カクヨム」の方で最新話を更新しております。

是非そちらでもお読み頂けると妹達が喜びます。

『お兄ちゃん! これどういうこと!?』


 生徒会室で一人、雑務をこなしている時にキュウカから念話が入った。


『一体どうしたんだい?』


『とにかくこれ見てみて!!』


 俺はキュウカを見ている監視魔法に意識を向ける。

 監視魔法は普段から全て見ているが、一つ一つの情報をしっかりと眺めているわけでは無いので、何を持っているかなどはしっかりと意識を向けないと確認出来ない。


 キュウカは、俺の監視魔法に向かって、何かを持って見せてくる。

 これは——


『手紙かい? どんな内容なんだ?』


『お茶会だよ!』


『お茶会? 行ってくればいいんじゃないか?』


『差出人をよく見て!!』


 俺は言われた通り、差出人が書いてある部分まで詳細に見てみる。

 すると、そこにあった名前は、


『アシュレイ』


『そう! 王女様からのお誘いだよ!!』


 アーシェ、一体何を考えているんだ……



 ———————————————————————



「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます」


 俺達兄妹は、現在王城にいる。

 1つのテーブルを11人で囲んで座っている状態だ。


「こちらこそ、お招き頂き有難うございます。妹達まで」


「いえ、私も妹さん達にお会いしたかったのです。ルドの妹は優秀だと聞き及んでおりますわ」


「ル……ド?」


 キュウカ、殺気を抑えなさい。


「はい、妹達は不出来な私と違って、自慢出来る宝です。それでアシュレイ王女殿下、本日はどういった御用で?」


 先日の大掃除は、俺達がやったこととはいえ表向きに公表していない。

 ということは俺達に褒美が出ることもないはずだ。


「用が無くては友人を招いてはいけないのかしら? それにルド、妹さん達の前だからと言って恥ずかしがらずに"アーシェ"と呼んで下さっていいのですよ」


『お兄ちゃん、どういうことか説明して貰える?』


 妹達はこの状況と、俺とアーシェの関係に困惑している。

 一人、目の奥が笑っていない妹もいるが。


「はぁ、アーシェ。何が目的だ?」


「先程も言いましたわよ。妹さん達にお会いしたかったと」


 そう言いながら妹達に優しげに微笑むアーシェ。


「そ、その、王女殿下はお兄様と、どの様なご関係で?」


 ロッカが緊張しながらアーシェに問いかける。


「みんなもアーシェとお呼びください。私もその方が気が楽ですので。ルドとの関係は……そうですね、命の恩人というだけでは足りない間柄です」


 命の恩人以上って、親とかしか残ってないと思うが。それと妹。


「アシュレイ王女殿下、失礼ながら、お兄ちゃんとは数回しか会ったことがないはずですが?」


「キュウカちゃんは詳しいですわね。よっぽどお兄さんが好きなのね。そのとおりです。まだ今回で4回程しかお会いしていませんわ」


「それにしても随分と親しくされている様ですが?」


「あら、私だって王女の前に一人の女です。命の危機に颯爽と現れ、救われれば、多少の憧れはお持ちいたしますわ」


 口元を右手で隠しながら話すアーシェ。煽ってるな。

 だがキュウカも引き下がらない。


「それでも王女という立場がおありです。対してお兄ちゃんは子爵家の長男。格が釣り合いません」


「そこまで飛躍した話ではありませんわ。あくまで今はお友達ですので」


 アーシェとキュウカの間に稲妻の幻覚が見える。

 バチバチと互いの稲妻がぶつかり合い、中心で火花を散らしているようだ。


「ですが、みなさんと仲良くしたいという気持ちに嘘はありませんわ。私の立場上、心から友人と呼べる人は今の所ルドだけです。そんなルドの妹さん達であれば私も信じられます。歳も同じことですし、仲良くして下さると嬉しいのですが……」


「ん?」


「どうしたのですか、兄上?」


 待て、今なんと言った?

 同い年……だと!?


「アーシェって……12歳なのか!?」


「ご存知無かったのですか?」


 無いよ! というかその容姿で12歳!? この世界どうなってるんだ!

 俺と同い年か、むしろ年上にすら見える。

 どんだけ大人びてるんだよ……恐ろしいな王族パワー。


「ま、まぁ女性に年齢を尋ねるのはマナー違反だからな」


「うまく逃げたね兄さん」


 ウド、余計なこと言わないの。


「ですので皆さん、こういう場では気軽に接して頂けると嬉しいです」


「王女殿下がそう仰るのであれば……畏まりました」


「イクス、まだ硬いですよ」


「う……すまない、アーシェ……どうもこう言った状況は慣れていなくて」


「それにしても兄様は、目を離すとすぐに女性に目を付けられるのですわね」


「そうなのですか? ジーコ」


「そうですわ! 学園でも下級生は皆兄様のことをお兄様とお呼びしますのよ!」


「あらまぁ、羨ましいですね」


 両手を叩くアーシェ。良く無いことを考えているな。


「私も兄様とお呼びしてもよろしいですか?」


 風の通り抜ける音が聞こえる。


「あ、兄上が良いと言えば良いのではないか?」


「そうですわね……兄様次第ですわ」


「私はいいと思うデス! 他の人も許可など取って無いです!」


「わたしは……その……」


「お兄様にお任せしますわ」


「私達が口を出すことじゃありませんわね」


「……だいふくさんがいっぱい……むにゃ」


「お兄ちゃん、どうするのですか」


 ここで俺に来るのか……

 確かにアーシェが俺をどう呼ぶかなど、妹達が口を挟める問題では無いしな。


「アーシェ。好きに呼んでもらっても構わないが、俺はアーシェを妹とは見れない。俺の妹は、ここにいる9つ子の妹達だけだ。いくら兄様と呼ばれようと、それは変わらない。それでもいいなら好きにするといい。ただ、俺はアレイ王子の代わりでは無いとだけ言っておく。俺は俺でアレイ王子はアレイ王子だ。アーシェの好きな兄様は、アレイ王子だけだ」


 もしかしたら、冗談混じりだったかもしれない。

 だが、ここで中途半端な発言はアーシェのためにもならない。

 少し厳しい言い方かもしれないが、思ったことを口にした。


 俯いて黙り込むアーシェ。


「わかっていますわ……すみません、冗談です。ルド、皆さん、これからもよろしくお願いいたします」


 顔を上げてそういうアーシェの顔には、涙が溢れていた。


「あれ、今日は皆さんとの楽しいお茶会のはずなのに……」

 

 一瞬、何が起きているのかわからずに困惑する。

 しかし、事情を知っているキュウカが一番に立ち上がり、アーシェに駆け寄って震える体を抱きしめた。


「兄様を、失う気持ちは私達にはわかりません。失うのが怖いと思っていますが、それでも本当の怖さは理解していないでしょう。ですが、これからは私達がいます。決して兄様の代わりにはなれないかもしれませんが、その寂しさを少しでも紛らわせて、早く前を向ける様にお手伝いさせてください」


 その言葉を聞いたアーシェは、嗚咽を止めることが出来ず、大量の涙を流す。

 他の妹達もアーシェの元に駆け寄り、それぞれが頭や手、背中に手を当てて温もりを届けていた。



 ——アーシェは落ち着くと、目を腫らしながら謝る。


「申し訳ございません。お見苦しい姿をお見せして」


「何言ってるデス! 私達はもう友達デス!」


「そう……だよ……」


「ありがとうございます。サンキ、シロ。皆さんの兄妹愛が眩しくて……羨ましくて……少し悲しい気持ちが込み上げてしまいました。でも、もう大丈夫です! 皆さんに温もりを分けて頂いたので」


 そこからは女の子トークの時間だった。


 どんな服を着ているとか、前に貰っている化粧品の話とか、王都にあるスイーツとか。


 同年代の女の子同士で話す姿も絵になる。

 アーシェが一番のお姉さんに見えるのがまた面白い。


 そんな幸せな光景を存分に一人で楽しんでいると、突然、悪魔のささやきが聞こえた。


「アシュレイ、ここにいたか。皆も畏まらなくていい」


 姿を表したのは、第一王子のアーノルドだ。

 俺達は席を立ち頭を下げる。


「どうかなされましたかお兄様?」


「いや、アシュレイの親しい友人が来ていると聞いてな、少し挨拶を」


「皆、恐縮してしまいますわ」


「そのようだな。皆、すまなかった。アシュレイのことをこれからもよろしく頼む。それと、ルド殿と言ったか? 少し話がしたいのだが席を外させても?」


「……え、えぇ。構いませんが……」


 アーシェは一瞬俺を見るので、俺も小さく頷く。

 厄介なことになった。先日のことがバレたか? 騎士団長が口を割ったか、情報収集力を少なく見積もりすぎたか。


 俺はアーノルドに連れられ、みんなのいる場所から少し離れたところに連れて行かれる。


「この機会を待っていたぞ、ルドよ」


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